いけない事
「………あッ!!…ぁッ!!!」
少女の身体が震え、跳ねる。
蒼ざめた表情と相まって、今度はしっかりと『不気味さ』を感じられた。
そして、度を超えた不気味さ、つまりは異常さに思わずジョーカーもゾッとした。
「いやいやいやいや…確かに蒼ざめろとは言ったけど…それはやり過ぎでしょ?
…なんか震えてるし!」
ピタリと、突然に少女の震えが停止した。
長く艶やかな髪を不気味に前に垂らし、その状態のまま微動だにしない。
「…………ぁっ……?……!!!」
こういうホラーは、道化師の管轄では無い。
道化師は人を驚かすが、怖がらせたりはしない。
…したとしても、それは本心からの行動では無い。
……筈だ。少なくとも彼女はそう思っている。
そして、彼女は何事も無かったかのように、淡々とそう告げた。
「我が名はワルキューレ、魂を冥界に導く者…」
「……ま…さ……か!?」
その作られた不気味さに、恐怖よりも先に怒りを覚えた。
そして、
『あなたの考え、大体正解よ?人格の消去、そうすればいつだって100%の全力で相手を殺せる。
ゲームみたいなものよ。自己を消し、目的に対して効率的に取り組む。それが普通のことでしょう?』
小刻みに震える、剣を持つ右手を此方に向けた少女は、さっきまでしていた恐怖の表情を、一切払拭したような…
……つまりは最初に会った時の表情をしていた。
血が滲む腕を、まるで何の異常も無いように扱う痛々しさに、ジョーカーが吼えた。
「お前……お前は最低だッ!!!人の自己を消し去って!!貴様は神にでもなったつもりかッ!?そうやって人の内側をぶち壊すお前らに……壊された奴の気持ちが解る…!そんな訳ない!!
…この子が眠った後…死ぬのはお前だッ!!!」
彼女から絶対に見えない場所で、ひとりで密かにほくそ笑む神は、遂に堪えきれずに笑った。
「ハハハハハッッ!!!!乗った乗った乗ってくれたァ!!!これで優劣交代。
アイツは可哀想な少女を攻撃できないし、更に情まで湧く。
つまり、死ぬのは…お・ま・え・だ!!!!!アハハハハハハーーーー」
「先ずは…気絶させないと…気絶させてからなら…」
ジョーカーは、手元の『拾った』神縛りの足枷を横目で見、そして直ぐに目線を真っ直ぐに戻した。
「死ぬほど痛いかもしれないけど…絶対に助けるから我慢してよ…?
セブントンファー・ディスチャージ。」
召喚するのは、ハートとスペード、2対のトンファー。
取るのは、待ちの構え、勝つのを目的に据えるのをやめ、『負けない』事を目的にする構えだ。
いつも読んでくれてありがとうございます!
令和だからってなにかする訳じゃ無いですよ?




