塀を乗り越えたその先が、楽園である保証はないんだよなぁ…
『いやぁ…本当にありがとうだよ……!!彼女達には…本当に、本当に感謝しないとねぇ…!!!』
別の声が響いた瞬間、練は身構えた。
奴、アビスの声だ。
「…ッ!!!アビス!!!!!」
嫌な予感がした。
いや、実際のところ、既に彼は最悪の状況に陥っているのだ。
『あはははは!!!敵意丸出し!!まるで知らない奴を見つけた子犬みたいだ!!!あははは………ふぅ…』
空虚な笑い声が全身に打ち付けられる。
別の時間軸のアビスとは、完全に別物だと、思い知らされた。
「…まさか、俺を嘲笑う為だけに話し掛けた訳じゃ無いだろう?」
『そのまさかさぁ!!!!君を嘲笑う為…!!!それだけに!!!こんな舞台を用意したのさ!!!!あはははははははは!!!!!!!!』
完全に虚を突かれた。
だが…事実、何かここに居る訳でもなく、何らかの気配を感じる事もない。
「……何故だ?一体…なんで………」
笑い声が止んだ。
酷く静かに、これが本当の深淵という『場所』だと理解させられるぐらい、静かになってから、やっとアビスは口を開いた。
『『人』ってのはね、変な生き物なんだよ。
ーーー『人』を何人も喰らったからこそ、言える事なんだけどね…?』
『人間って、仲間を『拉致』されると、激昂してそれを取り戻そうとするでしょ?
…でも、仲間を『送り出す』と、それを信じて待つんだよ。
敵地に味方をたった1人にしている事実は変わらないのに。
変でしょ?面白いでしょ?』
練は、膝をついた。
仲間と協力して、敵地に侵入する。
考えてみれば、出来過ぎた話だった。
そもそも、態々入り口を開けた時点でもうおかしかったのだ。
「そんな………そんなバカな…!!!」
『つーまーりー!貴方はー可愛い女の子達のご協力でーーーーーみすみす死にに来たってワケさぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!
本ッッッッッッ当に面白いよねぇぇぇぇぇ!!!!!!!!あはははははははははははははははは!!!!!!!!』
「う…アアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」
叫ぶ、己の後悔を、アビスに対する怨みを。
しかし、ここで叫んだ所で負け犬の遠吠え、アビスを更に悦ばせるだけだ。
『はぁ…おやおやぁ…?ふふふふふふふ……これ以上の対話は無意味みたいですねぇ?じゃあ……こんな所で死なないでね??勇者様ァ…?ふふふふふふふふふふふふふふ……!!!!あはははははははははははははははははは!!!!!!』
深淵が、夥しき数の深淵が、予定調和のように現れた。
「……思い通りになってたまるか……!!!!絶対に、倒す…!!!!!!」
いつも読んでくれてありがとうございます!!!
敵地に1人って、危険だよね。




