爪痕を抉る
場所は変わり、ここはリベド、その王城の一室に2人は居た
「不謹慎だ、そう思うが…久し振りに父さんと一緒に居られる」
「ははは…まぁ、書類の山は片付かないけどね…」
先日、深淵に破壊された美しい街並み、その建て直しなどの書類群に手を焼いている2人の表情に苦痛は無かった
「そうだ、今度模擬戦をしてくれないか?…今なら…父さんに勝てるかもしれないから」
「やっと王子らしく生意気になったな…パパは息子の成長を感じて泣きそうですよ〜」
「王子は生意気だという偏見をやめろ」
まるで久し振りに会い談笑する父兄の様な彼等の会話、それは外からの悲鳴に断ち切られる
「なんだ!一体何が…!!」
辺りの風が騒めき、振動する、それは聞き覚えのある声を形どった
『アスタ君!深淵が生還した人たちの中に潜んでいたみたい!気付かないうちに物凄く増えてるよ!!』
「止めるぞ!ジーク!!」
「勿論だ!父さんはギルドに連絡を!!」
2人の顔はさっきまで談笑していたとは思えない程に引き締まり、まさに王の顔をしていた
ここは学園寮の一室、ジークさんの彼女であるユリ・エミルさんはジークさんが書類仕事で忙しい為布団の中、膨れっ面で転がっていた
「じーく君とデートする予定だったのに…深淵…許さない……!ねえねえ!ハクアさんもそう思いませんか?」
その対象であるハクアはもの凄く真剣な表情でエミルの肩を掴んだ
……お忘れかもしれないが……彼女はハクア、人物紹介2にて大切な役割を担うと紹介されておきながら今まで一切登場しなかったあのハクアである
「水と闇が来る……!!!予言の通りに……!!」
「予言…?」
「私の家は予知の家系で、生まれて直ぐに予知の力を授かる、予言は外れるけど先見は外れない!直ぐにでも水と闇が来る!」
迫真の表情で力説するが……魔法とチートのファンタジー世界であるここでも……胡散臭い予知だとかはメジャーではないらしく、エミルはあっヤバイ人だ…というような表情を浮かべている
「え?……私にどうしろと……」
「…逃げてくれ!……はぁ…すまない、手遅れだ」
まさに手遅れというような…呆れに近い表情を浮かべながら肩から手を離す、その瞬間、校庭の方から轟音が響いた
「え?……うっそぉ!?」
「本当にすまない!私の演技がもっと上手ければ、君の寿命を1分は伸ばす事が出来たのに!!」
そのふざけた台詞を本当に真に迫った様に言うので、エミルは変な笑いを提供する事しか出来なかった
「……まぁ、相手がなんであろうと倒しちゃえば良くないかな?」
「ハハッ!お嬢さん、ご冗談を…」
なんだこいつ…ムカつくな……授業中の大半を机に突っ伏した状態で過ごして居た彼女に対する始めての印象はそれだった
いつも読んでくれてありがとうございます!!
ようやく…ようやくハクアを出せた……大切な役割(フラグ建て)のキャラだからね!




