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毎日投稿とか無理でした。
こうして僕は、図書館の本を読み尽くしてやるという目標をアッサリ捨てた。
聞けばリタは土日以外は全て登校するという僕でもビックリする学生生活を送っていた。
ちなみに僕は気分にもよるがカラク先生の授業がある日を含めて週に3日か4日登校している。
これでも登校頻度としては多いくらいで、殆どの生徒は1日か多くて2日だ。
リタの場合なんでも親の教育方針らしく、登校すれば必ず授業を受ける=教育期間の短縮が見込める、という考えらしい。
確かに登校しない生徒は授業を自分のペースで進めがちなので後期学習期間修了資格を得るのが遅くなりがちである。
ちなみにこれは僕の自慢だが、僕の授業修了ペースは登下校の時間を気にしなくて良かった分、リタよりも早いくらいだった。
つまりは家でサボってない。
存分に僕を褒めてくれ。
正直な話、とても楽しかった。
毎日学校に通い、週に一度カラク先生の授業を受け、放課後は図書館でリタに魔法を教えて貰う。 それはとても楽しい毎日だった。
リタ曰く、僕は魔法の才能は有っても資質には欠けているタイプの人間らしく、魔法が全盛期の時代には、魔法使いではなく魔法の研究者に多かったような人間らしいが、元より魔法なんてのは今では人から見向きもされない技術だ。
資質に欠ける程度の事を言われても、だからどうしたといった感想だった。
それは意外な事にリタも同意見だった。
つまりは、魔法が今では人から見向きもされなくなった遺物だという意見に。
彼女曰く、魔法は今では細々と数少ない人たちが継承し続けている伝統芸能のような物、という事だった。
彼女の実家もその伝統芸能を受け継ぐ家系の一つなんだそうだ。
その事を僕に語る彼女は誇らしげだった。
僕はそんな彼女が眩しくて堪らなかった。
思春期男子は何度でも蘇るのだ。
カラク先生の授業の後は恐ろしく疲れる。
どれくらい疲れるかというと、授業中何度か寝落ちしそうになる程だった。
そのたびに僕の網膜にレーザーで直接投影されているAIの教師が声をかけてくる。
ちなみにレーザーの照射元は個人端末からだが、例え個人端末が無くても至る所に照射用のレンズが設置されているので、学校内であれば例へトイレの中でも授業を受けられる。
まぁ流石にトイレで授業を受ける趣味は無いので僕は何の為に用意されているのかも分からない無人の教室で授業を受けていた。
今日はカラク先生の授業があったので、全員が登校していたはずだが、お昼を前にこれである。
単に僕が人がいない教室を狙って使っているだけなのだが、それでも生徒の数に比して無人の教室が多すぎると言えるだろう。
僕が三度目にウトウトしかけた所をAIに起こされた所で授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
何の為に鳴らしているのか分からないおざなりに時間を知らせるだけのチャイムだが、僕はこの時間通りに授業を受けているので僕には役に立っている。
授業の終わりを告げるAIの教師の顔が心なしか呆れているように見えたのは気のせいだろう。
僕が彼女を思いもよらない所で見つけたのはどうにも調子の乗らないまま授業を受けきった放課後の事だった。
在校生はともかく登校する人数を考えると明らかにオーバースペックな巨大なスポーツ施設。
公共福祉都市では珍しくもない金を使う為だけに建てられた建造物だ。
そんな建造物の入り口の前で彼女、リタは居た。
ガラス製のドア越しに何かを見ているようだが、僕からは遠すぎてその表情は分からない。何をしているのかと声をかけようかと思ったが、近づいていった僕は彼女の顔を見てそれを思いとどまった。
その表情に見覚えがあったからだ。
それはカラク先生が時折する、あの表情にそっくりだった。
ガラス製のドアから、ボールが跳ねる音が漏れ聞こえてくる。
僕は背を向けて歩き出した。
ボールの跳ねる音から逃げるように。
その日、図書館で会った彼女は僕の知るリタだった。
僕はひどくその事に安堵した。