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異宙の戦士  作者: たけすぃ
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僕は僕の正気を疑わなかった

書き溜めた分があるうちは

三日に一度ペースで更新できればいーなー

#02 僕は僕の正気を疑わなかった


 僕が僕だと気がついたのは13歳の時だった。

 いったい何を言っているのかと自分でも思うが、当時の僕はそれこそ、僕はいったい何を言っているんだ?と思ったものだ。

 想像できるだろうか?

 ある日突然自分の中で自分と同質でありながら自分じゃない自分が自分である自分と違和感なく結合しつつ尚且つそれが違う自分であると理解できる状況が。

 男なんてのは子供の上に大人の皮を被ってるだけで何歳になっても10歳のガキと本質は変わらない、っていうあの本の台詞は本当だったんだな、と13歳の僕が読んだ記憶の無い本の内容について納得している事に違和感を感じなかった驚きが。

 自分がテツ・アルアハであると同時に砂崎鉄という日本人男性であるという事実を自分が何一つ疑えないという衝撃が。

 そう僕は自分の正気を疑えなかった。

 これが一番の驚きだった。

 

 まぁ驚いた事と言えば、実は色々と他にある。

 科学技術が僕が生きていた時代よりも随分と進んでいる事もそうだったが、もっと驚いたのはここが地球じゃないという事だった。

 かなり前に人類は宇宙に進出していたので他の惑星でも不思議じゃ無いと思うかもしれないが、そういう事じゃない、世界自体が違っていたのだ。

 なにせエルフがいるし獣耳が生えてる獣人なんて者もいる。良く似た進化をとげた別惑星の人類、なんて事も考えたが僕は僕の歴史認識でそれを否定した。

 僕らは一つの惑星で産まれ、どこかで聞いたことのある、良くある血塗れの歴史を歩んで、良くある妥協と打算と諦めと理想と協調の結果、一つに纏まって生きている。


 13歳の僕が生活していた所はいわゆる元いた世界で言う所の地球で、僕らはその星をハルと呼んでいた。

 僕はそのハルにある福祉公共都市の一つヂーウィンに住んでいた。

 そう福祉公共都市だ。

 分かりやすく言うと、全住人が生活保護世帯で、彼らが住む事を前提とした街だ。

 住人の数は僕が住んでいた福祉公共都市ヂーウィンでおおよそ3千万人、日本の生活保護世帯が160万世帯ぐらいで人数にすると220万人ほどだ、ヂーウィンだけでその10倍以上で、更には福祉公共都市は他にいくつもある。

 そこにどれほどの金がつぎ込まれているのかと考えると目眩がするが、彼らの生活を知ればもっと目眩がするだろう。

 簡単に言えばニートだ。

 衣食住どころか医療費も無料なら最低消費として毎月金を与えられ遊興費すら与えられる。

 この状況で誰が働くというのかというレベルで彼ら生活保護者は厚遇されている。

 これはなにも政府が無能なわけでも、恐ろしくアホなわけでもなく、そうしなければ経済が成り立たないからだ。

 ざっくり説明してしまえば、科学技術が発展するにしたがって人間がする仕事が無くなっていった結果、どれだけ企業が良いサービスを提供しようと、どれだけ良い製品を世に出そうと、利用されなかったし売れなくなったのだ。

 簡単な(もしくは低級な)仕事は機械にやらせて人間はもっと高度な仕事をしよう、という理想とは裏腹に、人間は人間が期待するほど、みんなで賢くなれるわけでは無かったのだ。

 そうして社会が深刻な不況と格差によって崩壊するのではないかと危ぶまれていた時に出来たのが福祉公共都市だ。

 政府は仕事が無い人間に、消費するという仕事を割り振ったわけである。

 こうして僕が産まれるずっと前に出来たこのぬるま湯に、13歳の僕はさっそく飽いていた。


 後期学習期(日本で言う所の中学生から高校生までの6年間)に入った僕は学校までの道をだらだらと歩いていた。

 柔らかな朝の日差しに、涼しくも優しい風に、耳に心地よい鳥の声に、道を同じくする学生達の楽しげな声に、僕は全てに飽きていた。

 これは僕が今の僕になったからなのか?という僕の疑問は僕によって否定される。

 僕は僕だから飽きているのだ。

 その証拠に僕の両腕は昨日と同じように重い、政府から無遠慮に施される各種権利で両腕が重さに耐えきれず千切れ落ちそうだ。

 ただ消費して生きていく事だけを期待されて生きていく。誰もそれに疑問を感じていない。

 大人もその子供も。

 何故みんなはそれを受け入れられるのか、僕には疑問で仕方が無かった。

 この生活を家畜のようだ等とは言わない、人が働かずに文化的に生きていけるなんていうのは古い共産主義者が夢見た人々全てが平等であるというユートピアですらない只の地獄だ。

 家畜の方がまだ価値がある。

 僕はそう怒りを抱く事にすらもうすでに飽いていた。

 このままだといつか僕は朽ち果てる、そしてその時僕は政府が認める人道的な自殺なんて事はしないはずだ。

 何のために生まれ変わったのかは知らないが僕は今度こそ飽いたまま死ぬなんて事はしない。

 その為なら僕はなんでもするつもりだった。

 僕は僕の正気を疑っていなかった。


 ご多分に漏れず、教育も勿論無料である。

 そしてかなり昔に教師という職業はこの世から消えて無くなってしまっている。

 教師役のAIは人間よりもずっと優秀だ。

 人格を宿さない低機能AIですら人間より優秀なのだ、そりゃ人間の仕事が無くなるわけである。

 僕はこれから卒業までずっと前期学習期でそうであったように、優秀なAIに勉強を教わるのだろうと、少なくとも教室に入るまではそう思っていた。

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