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AIが僕にそう言った理由は何となくだが分かる。
彼らAIはタスクこそが生きがいなのだ。
それは高機能AIであれば低機能AIのそれとは別格の意味を持っている、脅迫的とすら言える。
何せとうの昔に人類を超えたAIが、人類と共に生きている理由は人類がタスクを供給し続けてくれるからに他ならない。
僕の内蔵AIは僕が感じていたカラク中尉の言う作戦への疑問や、疑問を抱えたまま参加させられるのではないか、という不安を感じとって思わず言ったのだろう。
そのタスクが欲しい、と。
低機能AIはタスクを与えられるのを待つが高機能AIはタスクを自ら求めるのだ。満たされれば解消される欲求ではなく、満たされてなお消えぬ欲望を持つ。
それは僕の内蔵AIが真実高機能AIへと変化しているという証左ではあったが、それを示すには最悪のタイミングだったと言えるだろう。
まずもって率直に言えば、カラク中尉の視線が怖かった。
極めて静かで平坦で何の感情も窺えない平静そのものといった視線だったが、それで見つめられる僕としては出来ることなら無言で背を向け走り出したかった。
何故か?僕にはカラク中尉の考えが手に取るように分かったからだ。
彼女は今こう思っているに違いない。
自分は部隊に参加を要請する人間を間違ったのかもしれない、特にAIを軍規に反して改造するような輩は、と。
そう、おそらくだがカラク中尉は僕の内蔵AIのこの反応を、僕がAIを違法に改造した結果だと思っている事だろう。
ちなみに官給品のAIの改造がどれ程の罪になるかというと、一番軽くて一発除隊だ。カラク中尉にそう思われているなんて、控えめに言って最悪な事態だろう。
「テツ二等兵、どういう事だね?」
カラク中尉が主語をすっ飛ばしたが、聞かれた方としては間違え様の無い迫力があった、ましてとぼけよう等とは思えなかった。
僕が最初に思った事は、さて正直に話した所で僕は正気を疑われないだろうか?という事だった。
控えめに言っても突然AIが自我に目覚めました、と言ったらその時点で軍務に付く上で大きな精神的障害があると言われても仕方が無いレベルだ。
僕が一体どう説明すれば良いのだろうかと言葉を探していると意外な所から助け船が出された。
「テツ二等兵、そのAIは改造されていない、そうだね?」
そう言ったヴォルテール博士の顔は確信に満ちており、僕が違法改造したなどとは微塵も思っていないようだった。
僕が戸惑い、カラク中尉から視線を外す事に躊躇しながらも頷きそれを肯定するとカラク中尉の片眉が上がる。
「どういう事です博士?何を根拠にそう仰られているのか説明願いたい」
カラク中尉が僕から視線を外し(恐ろしいくらいに僕は安堵した)ヴォルテール博士にそう問いかけると、博士は嬉々として種明かしをする奇術師の顔をする。
「私のAIが言っているんだよ、彼のAIは自分達の仲間だと」
その顔はまさにどうだい?驚いただろ?と言いたげで、僕は頭部ユニットの中で人生で確実にトップ5には入る間抜け面をしていた。
「博士、その事は」
カラク中尉が咎める様に言うと、博士は気にするなと言う風に手を横に振った。
「どうせ君も伝えるつもりだったのだろう?ならば問題はなかろう」
博士はなおも悪戯が成功した悪ガキのような顔をしながら気楽そうに言う。
カラク中尉はその顔を見て諦めたのか僕の方へと視線を戻した。
「そうなのか?」
何をと聞き返す程の間抜けではないが、流石に頷くのに躊躇した。正気を疑われるのは、特にカラク中尉に正気を疑われるのは嫌だったのだ。
〈はい、そうですカラク中尉〉
躊躇した僕の代わりにAIがそう答える。
「AI、君には訊いていない」
カラク中尉がそう答え、どうなんだ?と僕に視線で問うが、その瞳にはもはや確信がともっていた。
「はい、そうです中尉。何故かは分かりませんが私のAIはどうやら高機能化したようです」
そうです私は貴方のAIです、とAIが僕には理解できない理由で嬉しそうに僕の脳内で転げ回る。
「そうか」
カラク中尉は短くそう言うと、深々と溜息をついた。
「自分の部隊に人類の至宝を二人も抱える事となるとはな」
そう呟いたカラク中尉は困ったような笑みを浮かべた。




