3-4
なんか凄く難産でした。
プロット通りに書いているんですが。
予定外に思いもしない所でつまづきました。
巨大ワーカーは地中に消えるとどこかへと去っていってしまった。
勿論、僕達はそれをただ見送る事しか出来ず、そして船へと連絡する事も出来なかった。
無線を傍受されてあの巨大ワーカーに襲われたら僕らに生き残る術は無さそうだったからだ。
そんなリスクはおかせないと僕が説明するまでもなく、ビラルは理解してくれていた。
いや、もしかすると船へと連絡がつかないという事が、ハッキリと分かるのを避けたかったのかもしれない。
僕もその気持ちは痛いほど分かった。船は無事だと思えるからこそ、僕はまだ歩いていける。
しかしまぁ自我を持つAIか。
確かにいるのは知っていたけれど、まさか自分の中にいるAIがそうなるとはなぁ。
ビラルなんかは驚いていた、というよりも怖がっていたが、僕は何故怖くないんだろうか?
普通に考えれば怖がって当然なんだが、僕はというと自分でも呆れる話だが今では楽しくなってきていた(置かれた状況は最悪だが)。
これはきっと、僕の僕のせいだろう。
今ではもう僕が僕単独だった時の事など思い出す事なんて出来ないけれど、僕の中の僕と内蔵AIとの間にそれほど違いがあるとは思えなかったのだ。
それに僕の僕が実に楽しそうなのだ、人ではない知性体という存在に対する純粋な好意と好奇心で。
溢れんばかりに。
多脚装甲服を着ている限り肉体的な疲労とは無縁でいられる。水や食料も取る必要は無く、排泄すらも必要ない。
故に僕らが黙って歩いていたのは、ひとえに精神的な疲労によるものだ。
多脚装甲服の足なら目標地点まで全力で走れば十分もかからないだろうと思われたが、僕達は慎重になっていた。
あの巨大ワーカーがいつ現れるのか、どこにいるのかも分からない状況でバタバタと走って自分の存在を喧伝したくなかった、というのが理由だが。
あの巨体が多脚装甲服のセンサーをかいくぐって僕達に奇襲をかけるような事は現実的には無理そうだったので、この慎重さは無駄に他ならなかった。
ようは僕達はビビっていたのだ。
どこまでも続く土と岩だらけの荒野を無言で歩いていると、実にその事が良く分かってくる。
最初に沈黙を破ったのはビラルだった。
「そういえば」
ビラルは実に無難な言葉で沈黙を破った。
「テツ、お前がさっきワーカーに使った武器はなんなんだ?」
武器?と僕は一瞬何を訊かれたのか理解できなかった。
「ほら、あのズババとかなってたやつだよ」
ビラルの実に知性の感じられる説明で、魔法の事かと思い至る。
「あれは魔法だよ」
「魔法って、あの魔法か?」
僕が答えるとビラルが不思議そうに聞き返してくる。
ビラルのこの反応は極自然なものだ。
地球の基準で言えば、今のは戦車乗りが火縄銃を使って敵を倒した、と言ったような物だからだ。
実際には銃の登場と進化で魔法使いは時代遅れになったのだが。
「新兵キャンプの座学で習った魔法とは似ても似つかない物だったぞ?」
ビラルの言葉に僕もその座学の授業を思い出す。確かに魔法は出てきたが、それは戦術を学ぶ為の授業であって、決して魔法の授業では無かったはずだが、ビラルにとっては魔法使い部隊の運用を語るのと、魔法自体を語るのに然程の差は無いらしい。
実にビラルらしい大雑把さだ。
だがビラルの言いたい事は分かった。
魔法使いの使い方は二種類に分けられる。
大砲扱いするか、弓兵扱いするか、だ。
つまりデカい一発をかますために時間をかけて運用するのと、ちゃんと当たれば死ぬのを数撃つ運用、という事だが。
先程僕がやったのは短時間でデカいのを打っ放す、というビラルの知ってる魔法の常識とは真逆の魔法だ。
僕はどう説明しようかと悩んだ、何故なら説明しても理解して貰えるとは思えなかったからだ。
なので僕は適当に誤魔化す事にした。
「魔法も進化してるんだよ」
僕のその答えにビラルは、マジかーそうなのかー俺も覚えてみようかなー、等と本気とは思えない答えを返す。
僕は適当に誤魔化した事に軽い罪悪感を感じながらも、ふと疑問を覚える。
僕がやった事を誰も思いついていないというのは奇妙な事だな、と。
だが疑問を感じた瞬間それもそうかと自己解決する、そもそも魔法使いの数自体が現代では少ないのだ。
その中から更に多脚装甲歩兵になるような人間の数はもっと少ないだろう。そこから更にこんな馬鹿げたアイデアを実行に移す者は更に少ないだろう。
そして僕以外にいたとしても、使った後に低血糖でしばらく動けなくなるような歩兵に意義を見いだす者がいるとは思えなかった。
そんな物よりもお手軽でもっと残酷な武器は山ほどあるのだから。
実に素敵な異世界だな、と僕は思った。
いや、ホント、実に素晴らしい異世界だ。
僕はその光景を見て皮肉を込めて思った。
僕のそんな考えが漏れたのか、AIがこれは現実です、と的外れな忠告をしてくれた。
そう現実だ、これは紛れもなく。
僕は降下艇の残骸が幾つも転がる光景に唖然としながらも、苦いそれを渋々認めた。
ビラルが誰かいないのか、と声を出しながら周囲を確認してまわっているが答えはいっこうに返ってこない。
僕とビラルが遠くからこの惨状を確認したのは二十分程前で、それから十分程かけて出来るだけ観測してから、ようやく僕は確認する為に近づく事を決意した。
周囲にはワーカーの特徴的な足跡だらけで、相当な数に襲われたのが分かる。少なくとも十や二十じゃない事だけは間違いない。
ビラルが諦めたのか首を横に振りながら僕の方へ歩いてきた。
そして、戦利品だ、と言って僕にライフルを投げてよこした。受け取るとすぐにライフルと僕のリンクが繋がり、どこも壊れていないのが分かる。
「まあ、銃が増えただけさっきよりはマシになっただろ」
ビラルが獣人種らしいポジティブさに溢れた非憎げな諧謔を披露する。
「まったくだな」
僕はあえてその皮肉に乗っかって笑う。
しかし笑ってばかりもいられないのも事実で、僕はこれからどうするべきなのかを考える。
降下艇の様子――、地上降下後は装甲を展開して防壁になるがそうなっていない――、から見て襲撃があったのは降下直後だろう。
それはもう完璧な奇襲だっただろう。
だがそれでも多脚装甲歩兵が“たかが”その程度で全滅したとは到底思えない。降下艇の残骸の数から言っても相当数の多脚装甲歩兵がいたはずだ。
だとしたら相当数生き残っているはずで必ず逆襲の機会を狙っているはずだ。
これは僕の妄想でも希望的観測でもない、確信に近い。
おそらくこれに関してはビラルも同じはずだ、何故なら僕らは多脚装甲歩兵なのだ、その結論に疑問は無い。
AIが私もです、と僕に同意を示す。
ならばやはり仲間との合流を目指すという目標に変更は無い。
「ビラル、部隊との合流を目指す。まずはどの方向に移動したのか特定するぞ」
僕が命令するとビラルが、命令するのに慣れてきたな、と笑う。
幸いというか、多脚装甲服の痕跡を探すのに苦労はしなかった。だがそれは同時に相当に慌てて移動したという意味だ。
やろうと思えば多脚装甲服を着た歩兵は砂漠でも無い限り足跡を残さず移動できる。つまりはそんな余裕など無かった、という事だ。
敵意性AIとの戦闘後らしく、死体が一つも残っていない戦場跡を歩き回って僕達は大まかな移動先を決めた。
AIが視覚に予定移動方向をマークした時だった。
〈センサー感有り、味方発砲音です〉
僕とビラルはその声に思わず顔を見合わす。
何故ならAIが示した発砲音の方角が、移動方向とは真逆だったからだ。
だが迷っているような時間は無かった。
僕とビラルは無言で走り出した。
今度は多脚装甲歩兵らしく、素早く、そして静かに。
ビビるのはもう止めだ。




