2-10
ドンパチ始まるまで毎日更新。
公共福祉都市の中心部にある歓楽街、その歓楽街に軍の募集事務所はあった。
まだ昼にもなっていないのに、歓楽街でショッピングを楽しんだり酒を飲んだりしている人間で周囲は騒がしいというのに、そこだけは、軍の募集事務所周辺だけは人が避けるようにポッカリと穴が開いていた。
煩わしい広告も無く、ただ正面に小さな立て看板で『汎人類連邦防衛軍募集事務所』とだけ書いてあった。
僕はその事務所が見える場所にあるオープンテラスのカフェでリタを待っていた。
リタに今日、軍に入隊届けを出すつもりだとメッセージを送ったら、自分も一緒に出すという事なので、ここで待ち合わせをしているのだ。
わざわざ二時間近くかけて公共福祉都市に来てすることかと思うのだが、リタがそうしたいと言うのなら、僕としては断る理由は無かった。
それから一時間と二十分程経ってリタと集合し、二人で娑婆最後のコーヒーで乾杯をして笑い合った。
募集事務所は実務一辺倒の物だった。
カウンターに大人二人ぐらいが座れる小さなソファが一脚。他には観葉植物すら置かれていなかった。
そして更に驚くべき事にカウンターの中には人間が立っていた。
禿頭の大男だった。
胸板は厚く、その二の腕の太さは僕の太もも程もある。
男は入ってきた僕達二人を一度じろりと見ると、その後は興味が無くなったかのように無言で前を向いていた。
これには流石に僕もリタも唖然としたが、ここで帰るわけにもいかないので、僕は意を決して男に話しかける事にした。
「すいません、軍に志願したいのですが」
僕のその言葉に男は溜息こそつかなかったが、僕が軍に志願する事がさも残念であるかのような目を向けてきた。
「軍に本当に志願するのですか?」
失礼ではあるが、見た目のイメージと違う男の丁寧な口調に一瞬怯む。
「はい、軍に志願したいのですが……」
男の態度に一瞬疑念が走る。
「ここで宜しいんでしょうか?」
「はい、確かにここは軍の募集事務所であり、ここで軍の志願を受け付けております」
男はここでもう一度あの目をした。
「本当に志願するのですか?」
「どういう事ですかそれは」
流石に態度が酷すぎないだろうかと僕が抗議の声を上げようかと思ったらリタの方が早かった。
「いえ、言葉通りの意味です。毎年何人かのお調子者が冷やかしに来るもので」
男の声は平坦で淡々としていた。
それで僕もリタも黙ってしまう。
男はそんな僕とリタを見ても態度を一切変えずいっそひょうきんとすら思える態度のまま言う。
「それで本当に志願するのですか?今でしたら私は見なかった聞かなかった事に出来ますが、これから先に進むとあればそうもいかなくなります。それでも宜しいのですか?」
僕は軽く深呼吸してから言った。
「はい、お願いします。僕は軍に入る為にここに来ました」
僕のその言葉に男は先程までの態度が嘘のような満面の笑みを浮かべた。
「そうですか、ではこちらの記載事項をよく読み各種空欄を埋めてから最後にサインをお願いします。終わりましたら私に提出してください」
僕は男の突然の笑顔に驚きながらも、データパッドを受け取った。
リタが続けてデータパッドを受け取る。
そのままカウンターで記載事項を読み、空欄を埋めていく。
名前に年齢に出身惑星に住所に両親の名前に……ふと僕の手が止まる。
これは考えてなかったな。
僕は自分の手が止まった欄に目をとめる。希望配属先と書かれた空欄がある。
よく考えれば自衛隊でも陸海空とあったのだ、軍に入るとなればどこか選ばなければならないわけで、これをまったく考えていなかったというのはどうかしてると言われても仕方が無い事だ。
空欄の横をタップするとズラッと選べる項目が出てくる。
本来ならここは真剣に考えて結論を出すべき所なのだろうが、残念な事に僕はまったく考えていなかった。
困ったな、という時は友人に頼るに限る。
「ねぇリタ、君はどこを希望するの?」
随分と要点を端折った質問だったけど、リタは正しく理解してくれた。
「私?私はここよ」
そう言ってリタがデータパッドを見せてくれる。
宙兵隊(艦隊勤務)――成る程宙兵隊か。
字面からして海兵隊のような物だろうか?だとしたらそれは外征軍だ。
この異世界を存分に旅できるだろう。
僕はそう思い空欄をタップする。
宙兵隊と。
まぁ実際に希望通りになるかは注意文によると分からないらしい。個々人の特性を鑑みて最終的な配属先が決まるとのことだ。
全ての入力を終えた僕とリタは二人してカウンターで彫像のように微動だにしない男へとデータパッドを提出した。
男はチラっとデータパッドを確認すると、ゆっくりとした動作でカウンターからこちら側へ出てくると、僕達の目の前で立ち止まった。
何事かと僕とリタが戸惑っていると男は両足の踵を揃えて敬礼してきた。
リタが驚きに目を見開く。
「ようこそ若人よ!我ら汎人類連邦防衛軍は諸君らの入隊を心より歓迎する!」
僕とリタはどうにかして下手くそな敬礼を返した。




