死んだら転生って嫌なんですけど
「いよっ……しゃぁ! 夢にまで見た転生展開キター!」
突然隣にいたバカが大声で叫び声をあげた。はっきりいって五月蝿いことこの上なく、思わずこめかみを指で押さえてしまった。
だがそれ以上に驚いているのは、テーブルを挟んで迎えに座っている目の前の白い羽を生やした女性であろう。その女性は目を丸くしながら愛想笑いを浮かべるしか出来なくなっているし、此方に助けを求める視線を向けてくるが今は無視させてもらおう。
自分の名前は高柳理央。女の子のような名前だが歴とした男だ。
正面に座る金髪での綺麗な彼女の名前はエルネット。
自分達の世界とは違う神様の使いらしく、最初の挨拶で少し自慢げに序列四位の上位天使様だと言っていた。
そんな上位天使エルネットが話をしようとしているのだが、隣のバカのお陰で一向に話が進まない。今でも鼻息を荒くしてテーブルを乗り越えそうな勢いでエルネットに詰め寄ろうとしている。
そして隣で興奮しているバカは、斎藤一彦。高校生にもなってアニメなどの本やゲーム等が趣味のオタクで、恥ずかしい事に自分とは家が隣同士の幼馴染みでもある。そのお陰で小さい頃から禄なことがなかったが、今回は極めつけだ。
何しろこのバカ。泳げもしないくせに格好つけて川に落ちた犬を助けようとして飛び込んだまでは良かったが当然泳げないから溺れた。そのバカを助ようと川に入り助けようとしたのだが、一彦がパニックに陥って抱きついてきたせいで自分も動くことができずに巻き込まれて死んでしまったのだ。思い出しただけでも腹が立つ。
「あ~ぁ……何でこのバカ助けたんだろ……」
「ん? 何か言ったか?」
「別に……。エルネットだっけ、話の続きを聞かせてくれ」
今思い付いたが、さっさとコイツだけ転生とやらで新しい世界に送ってもらえないだろうか。そうすればスムーズに話が進む気がする。
が、そう言うわけにもいかず、バカが勝手に話し出そうとする前に未だに困惑しているエルネットに話を進めるように促した。
「は、はい。では説明をさせていただきます」
未だ戸惑いながらも、促されるままエルネットが話の続きを聞かせてくれた。
転生する世界というのが一彦が期待していた通りの剣と魔法の世界、所謂ファンタジー世界だそうだ。その世界では様々な種族達が暮らしているそうだが現在戦争の真っ最中らしく、神様はその戦争を自分達に止めて欲しいというお願いだった。
隣のバカは腕を組み何故か首を縦に振ってから「戦争を止めにいこう!」と肩を叩いてきて痛いが、今は無視だ無視。
それよりも気になる事がある。
「あのさ、戦争を止めたいだけなら自分達を使うんのではなく、神様が直接戦争やってる奴等に干渉すれば良いことだろう?」
「残念な事に神様は直接人類に干渉する事ができ無い決まりがありまして……。ですから貴方方御二人の御力を貸していただきたいのです」
「俺たちじゃなきゃいけない理由は?。はっきり言って俺もコイツも何処にでもいる普通の高校生だ。特別な力なんか持っていない」
「そ、それは大丈夫です。神様から御二人に特典を与えるように言われておりますので、その特典を得て転生していただければ……」
「それは俺じゃなきゃいけない理由にはなら無いだろ!。死んでしまったのは仕方ないとしても、何で死んでまで隣のバカと一緒にいないといけないんだよ!」
エルネットの話しに怒りが込み上げ思いきりテーブルを叩きつけてエルネットを怒鳴りつけてしまった。そんな自分にエルネットは怯えていたが、一彦は肩に手を置いて満面の笑みを浮かべて来やがった。
「そんな悲観するなよ。大丈夫!。俺が勇者になって世界もお前も守ってやデブッ!」
殴りました。えぇ思いきり一彦の右頬に渾身の右ストレートをいれて殴り飛ばしてやりましたよ。
殴った一彦が綺麗に回転して飛んでいくのを横目に深いため息をついた。最早何を言っても生き返ることはできないのだろう。そう考えたら諦めて転生とやらで新しい世界で生きるしかないと考え怯えるエルネットに視線を向けた。
「とりあえず、転生の特典とやらを教えろ」
しばらくして飛んでいった一彦の復活をまってエルネットが転生特典とやらの説明をしてくれたが何て事はない。よくある特殊能力や不思議な力を与えてくれるらしい。
だが、特典にも制約があるらしく無敵や不死身といった能力は不可能で、他にも死んだ人物を甦らせたり地球の現代兵器の召喚等も無理だという。更には特典も三つまでと数まで決まっていた。
「特典が三つとは、神様も案外ケチだな」
「申し訳ありません……」
「なに言ってるんだ!。そんなでたらめな力を手にいれても世界は救えないぞ!。仲間と共に困難に立ち向かい、苦楽を共にして敵にたち向かって……」
復活した一彦が無駄に熱く語り始めるが右から左へと軽く聞き流しながら与えられる特典は何が良いか考える。下手に使えない能力を手にいれても意味がない。
今思い付くものといったら、強靭な肉体や圧倒的な魔法を使う力などの一彦が考え付きそうな能力だ。
色々と考えているとエルネットがテーブルに何も書かれていない二枚の紙を差し出してきた。一枚は一彦の前に。もう一枚は自分にだ。
「これは?」
「決まった特典をそちらにお書きください。転生したときにその特典を得て転生しますので」
「まだ決まってないんだけど?」
「いえ……その……斎藤様が……」
隣を見れば差し出された紙に勢いよく書き出している一彦に気がついた。
「出来た!。エルネット、俺の転生特典はこれだ!」
書き終えた紙を自慢げにエルネットに突きだし手渡した一彦。その内容を見たエルネットは困惑気味に何度も紙を見直している。
「えっと……本当にこれで良いのですか?。もっと他にも……」
「それで十分だ!。さあ、俺のは決まったんだ。早く新しい世界に連れていってくれ」
心配そうなエルネットをよそに一彦は一刻も早く新しい世界に転生したいとせがんだ。
そんな一彦を心配そうに見つめていたエルネットだったが、軽くため息をつくと 諦めた様子で紙に大きな判子を押した。
その瞬間に一彦を光が包みだしたのである。
「転生特典採用いたしました。斎藤様は希望された特典を得て転生されます。武運を祈ります」
「よっしゃあ!。悪いな、先に新しい世界で生まれ変わって待ってるぜ!。」
そう言うと一彦が光に包まれ消えていった。驚きながらもこれで静かになって良いと思ってしまった。
ちなみに一彦はどんな特典を選んだのか気になる。
「エルネット、一彦はどんな特典を選んだんだ?。参考になるかもしれないから良かったら見せてくれないか?」
「それは構いませんが……その……あまり参考にならないと思います……」
困った様子のエルネットから渡された紙に書かれていた一彦の転生特典はなんだろう。
『勇者になる!』『王子様になる!』『聖剣が欲しい!』
……参考にならない。
と言うよりも、こんなにざっくりした書き方で本当に特典得られるのか疑問になる。だが、紙には大きな判子で『承認』と印が押されているから問題はないのだろう。
一彦の書いた紙を返すとエルネットが話しかけてきた。
「高柳様はどの様な特典を望まれますか?」
そうだな、とりあえず一彦と同じ特典は無い。
ではどんなのが良いのだろうか。戦争に参加するのなら強力な武器がある方が良いだろうし一人で戦うにしても、限界がある。そこを踏まえると間違いなく仲間が必要だろうが、それはゆっくり探すことにしよう。
しばらく無言のまま考えると良い特典を思いついた。最後に確認だけしておこう。
「質問だけど能力以外でも良いのか?。例えば知識や誰かに好かれるとかでも?」
「そういったものでも可能です。あくまでも先程お伝えしたもの以外なら特典として得ることができます」
エルネットの答えを聞いて安心し、紙に希望する特典を記入してエルネットに渡したが、紙を見た瞬間に目を見開いて驚いていた。
「あ、あの最後の特典は……」
「駄目って言ってないだろ。『天使エルネットを自分の使い魔として使役する』っていうのはさ」
自分が希望した三つの特典、一つは『地球の現代兵器を含めた様々な武器又は兵器の作成・使用方法の知識の取得』、二つめに『錬金術の能力』。そして最後に希望したのが『神様の使いである天使エルネットを使い魔として使役する』という内容だった。
一つめの理由は簡単だ。素人の考えだが戦争といえば火力のある武器を持った方が強い気がするためだ。本当は、現代兵器の召喚とかが良かったが出来ないのであれば自ら作ってしまおうと考えたからである。
二つめの理由は、武器の「召喚」が駄目なら、錬金術による「作成」ならはいけると思ったからだ。
…反則ギリギリな気もする…。
そして三つめだけど……。
「た……高柳様、なんですかこの特典は!?。わ、私なんかを特典にしなくても……」
「ん~……何となく」
「何となくってなんですか!。そんな事で私を使い魔にしないでください!。そんなに使い魔が欲しいなら他の天使を紹介しますから!」
子供のように両腕を振り回しながら目元に涙を溜めて抗議をしてきた。だがこれにもちゃんと理由がある。
「冗談だよ。理由ならある。上位天使って事は、世界の全てを知ってるって事だろ?。それなら一々調べなくてもエルネットに聞けば分からないことが分かるし、自分が知らないところで何かが起こったら知ることが出来る。だからエルネットが側にいてほしいんだ」
理由を説明しても納得した様子もなく涙目で此方を睨み付けてくるが全く怖くない。寧ろ可愛い。
そんな時、いきなり目の前に艶のある黒髪の少女の映像が現れた。
『その特典承認しま~す』
「シャルエル様!?」
突然現れた映像を見て驚いたエルネットが立ち上がり映像に映っている黒髪の女性…いや、少女といって差し支えない姿に向かって名前を叫んだ。多分だが、このシャルエルと呼ばれた女性は転生しようとしている世界の神様なのだろう。
シャルエルは楽しそうな様子で此方を見つめてくる。
『突然現れてビックリした?。ごめんね、何だか面白そうな事になってるみたいだったからさ。改めて自己紹介、私の名前はシャルエル。エルネットの上司で神様やってま~す』
「ずいぶん軽い神様だな」
『よく言われる』
「それよりシャルエル様!。どうして承認何ですか!?」
エルネットの抗議を気にせずに映像外から紙を引き寄せると、その紙に何やら書き込むシャルエルは書き終わってからエルネットに視線を向けた。
『え?。だって制限に入ってないじゃん、天使を使い魔にしたら駄目ってさ。それに面白そうだし』
「面白そうって何ですか!?。私がいないと仕事が回らなくなりますよ!」
『だ~いじょうぶだって。あんた一人いなくったって、アルネット達がいれば仕事は回るよ。それと理央君』
エルネットとの話を終わらせるとシャルエルが此方を見てくる。
「年下に君づけで呼ばれたくないだけど?」
『ハハ、こう見えても君なんかよりもよっぽど年上なんだよ。何ならシャルエルお姉ちゃんと呼ばしてあげよう』
「冗談はそれくらいにしてくれ」
『可愛いげがないね。所で、一つ目と三つ目良いとして、二つ目はねぇ…』
顎に手を当てながら考える様子を見せるシャルエル。
だが、あくまで「召喚」ではなく「作成」だ、通るか?。悟られないように表情には表さないが、内心緊張している。
『…ま、特別に許可してあげよう。いいかい、今回だけだからね。シャルエルお姉ちゃんに感謝したまえ』
誇らしげに希望の許可をするシャルエルに、エルネットは深くため息をつく。
感謝は口にはしない。なんかムカつくから。
すると突然シャルエルが話題を変えてきた。
『それはそうと理央君、君は一彦君が大嫌いみたいだね?』
「あぁ、大嫌いだ。なにしろ今回の事も含めて何時も面倒を起こす度にその尻拭いをしてきたからな。特典があと一つあれば一彦から離れて転生させてほしいほどだ」
シャルエルの質問に忌々しげに答える。そんな答えが面白かったのか、手元の紙になにか一文を付け加えた。
『アハハ、正直者は好きだよ。だったら特別だ。その願いも聞き届けよう』
自分が頷くと書いていた紙に大きな判子を押した。すると突然自分の体が一彦の時と同じように光だした。
『それじゃあ私の世界で待ってるよ。理央君、また会おうね』
シャルエルの言葉を最後に自分は新しい世界に転生したのだった。