真夜中の攻防
風が止んでジワジワと室温があがり、肌に汗が浮き上がり始める。
寝苦しさで眠りが浅くなったところに、泣き声が耳に届いた。
眠い目をこすって、時計に目をやると三時四十五分。
――ああ、授乳の時間か。胸も母乳が張り、チリチリと痛む。
左手を伸ばしてわが子に触れようとしたが、汗を含んだタオルのパイル地の感触しか指先に伝わらない。
あわてて体を起こし息子の姿を確認すると、ぐずる息子を胸に抱く夫の姿が目に入る。
至福の時を噛み締めるような、とろけた表情で息子を擁く。
「ちょっと、なにしてるのよ」
「えっ、泣いてたから」
「お乳の時間なんだから返して。あんたお乳でないでしょう」
「粉ミルクならあげれる……」
「明日、会社でしょう。馬鹿言ってないで、さっさと寝る!」
夫の腕の中から引っ手繰るように息子を取り返すと、不満げににらまれる。ああ、鬱陶しい……。
乳房を目の前に与えられた息子は、目を爛々とさせて乳首にむしゃぶりつく。
ごくごくと喉を鳴らして母乳をガブ飲みすると、空腹感が満たされ、泣き顔は恍惚とした表情に変わっていく。
乳房の中に溜まっていた母乳が吸い出され、放乳感に緩やかな悦びが身体を満たして、ほっとため息が漏れる。
不満そうに頬をふくらませながら、息子と私の姿を恨めしそうに見つめて夫が呟いた。
「げっぷは俺がやる……」
こいつ長生きしないな……。