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第8話『力』

「は?」

「貴方は人間……私は悪魔……そしてこの身体は偽者……なら私と貴方、どちらを優先するかという、ことよ……」


 わけがわからない。偽者の身体だとしても痛いものは痛いだろうに。

 現にルルナは背中が痛むのか、額の脂汗は止まらず溢れてきているし、顔も必死に痛みに耐えているようにしか見えない。

 何故だ? 何故他人のためにそんなに痛みを許容出来る?

 そんなの……まるで…………


「おおぉ、中々悪魔らしからぬことを聞きましたね。これだから私たちは貴女方が邪魔であり、嫌いなのですよ」

「ッチ! おい! 動くぞ!」


 人が考えているというのに、あの悪魔は俺ら目掛けて炎を伸ばしてきた。


 あのKY、後でぶち殺す。


 俺はすぐさま俺の腰にもたれかかるように捕まっているルルナを抱えるとその場を飛びのく。お姫様抱っこは痛そうだったから腹部に腕をリフトのように入れて持ち上げた。

 炎はさっきまで俺らのいた地面に当たると放射状に広がり、自然に消える。

 さっきからそうだが、どうやらあの炎は伸ばした先で方向転換は出来ないようだ。つながっているくせに。


 とりあえず俺はルルナに声をかける。


「おい! お前回復魔法とかないのかよ! そんだけいろんな魔法を使えるんだから一つくらい!」

「ご、めん、なさい……わたし、それだけは、使えな、いの……」

「ウソだろ?! ならもういいや! あれあったじゃん! 『転移門』! あれ出せよ! あれなら逃げれるだろ?!」


 自分で万能だと言っていたルルナのまさかの発言に俺は驚く。

 しかしそれならそれでいいと、先ほど思いついていた『転移門』の存在を言う。

 だがルルナは……


「ダメ、よ……そしたらあいつが学校を……」

「んなこたぁどうでもいいだろ! 逃げないとお前が死ぬんだぞ! 人のことなんてどうでもいいだろ! 自分と他人、どっちをとるかって言われたら自分に決まってる!」


 自分でも最低なことを言っているという自覚はある。

 しかし考えてみろ。今の日本、いや世界に他人のために命を賭けれるやつがどれだけいる? 先進国だって発展途上国だって、白人だって黒人だって、子供だって大人だって、関係無しに捨てれると答えるやつは少数だろう。

 他人が知り合い、友達と変わっていってもそれは変わらないに決まっている。

 だってそれが今の世界で、人間の考えだから。

 人間なんて勝手で結局は自分のことしか考えないクズしかいない。

 どれだけ上辺を取り繕ったって結局は自分のためであり、見栄のためであり、人のためなんてことはない。

 俺がクラス全員に『仮面』を被ってまで仲良くしていたのだって友情でもなんでもない。

 『ただそうしないと俺が不利益を被るから』だ。


 しかし俺の考えとは裏腹にルルナは言う。


「それは、違う……皆、わたしと仲良く、してくれた、大切な、人たち……だから、せめて、こうやって……」

「アホかお前は! 人間ってのは恩を仇で返すような生き物だぞ! お前がこんなことやったって誰も知らないし、むしろ勝手に単独行動したお前を非難すらするんだぞ! それを分かってんのか!」


 先ほどから傍観しているファライアが気になるが、攻撃してこないなら好都合。さっさとこいつに『転移門』を開かせるために説得してやる。

 しかしルルナは中々その自己犠牲をやめようとしない。そんなの無駄であり、自己満足でしかないのに……


 それよりも、なんで俺はこんなにもルルナを説得しようとしているのか。

 ルルナを助けるため? ……違うな。

 こんな考えを持っていると主張するルルナの本心を理解させるため? ……これも違うわ。

 

 なんやかんやと考える俺。そしておのずと答えは出てきた。


 …………あ、『転移門』を開いてくれないと俺が逃げれないからか。


 そう、なんだかんだと説得してはいるが、結局は俺が死にたくないという『自分のため』であったのだ。

 自分のため……全ては自分のため……

 俺は心の中で蠢く何かを感じながらも自分の考えを変えようとはしない。したくない。させない。

 だが、ルルナは言う。まだ、言う。


「それでも……見捨てる、理由には、なら、ない……」

「ッ!」


 俺はその言葉を聞いて自分の中の『何か』を知った。

 それは、『劣等感』というものだ。

 俺は世界が、人間が、こういうものだと考えて、自分もそれで何もおかしくない、と妥協している。

 なのにルルナは悪魔のくせに、妥協をしない……


「わたし、は、ただ、恩を、返したい、だけよ……」

「……なんなんだよ、お前」


 はっきり言おう。

 俺はルルナのような考え方に憧れを持っている。

 だけどこの世界じゃそんなやつはただ不幸になるだけ。自己満足で終わり。

 排斥され、本当のことなんか何も知らないやつらに蔑まれ、終わり。

 だから俺は諦めた。

 自分に言い聞かせた。 

 妥協を……した。


 俺はもう続く言葉を言えず、俯く。


「あらら、貴方がその小娘を説得して意識を変えてくれると思ったのですがね。全く、悪魔らしくない悪魔などやはり消えればいい。もういいですよ。死ね」


 突然、傍観に徹していたファライアの声が聞こえてきた。

 しかし俺は相変わらず俯いたまま。そんなのに構っている暇はない。

 俺は自分の感情を抑えるので精一杯なんだ。


 本当になんなんだよお前は……悪魔だろ……


 今まで理性で抑えていた感情が激しく暴れ、理性という蓋を弾き飛ばそうとする。

 その感情は俺がこの世でいらない、むしろ邪魔になるといって封印した感情──憧憬。

 物語の主人公のように誰に知られずとも影で皆を守る、そんなヒーローのようになりたいという憧憬。

 カッコよくて、そんでどうしようもない……だけど自分に恥じない生き方をしている、そんなヒーロー。

 俺は、どうなんだ……

 なりたいのか?

 なりたいに決まっている。だが、なりたくない気持ちもある。

 何故だ?

 そんな生き方は辛いから。

 どうして?

 頑張ってもそれは報われない頑張りだから。

 だから?

 ……何?

 報われなくても自分に恥じない生き方にはなるだろ。

 …………それでも辛い。

 ならそこで終了。一生憧憬を抱いたまま死ねばいい。

 ………………それは、嫌だ。

 ならどうする。

 ……………………なる。

 何に?

 ヒーローに。

 どうやって?

 なるったらなる!

 だからどうや──


「うるせぇよ! 俺がなるってんだからなるんだよ!」


 俺が叫んだその瞬間。俺の中の何かがはじけた。

 それは何かの開放にも思えるし、何かの誕生にも思えた。

 その時だ。


【今までにない感情の爆発を確認。これにより、『感情開放の童貞』を捨てた。よって対象者に『力』を授ける】




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