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第3話『まさかの魔法』

「まずは認識の齟齬の確認ね。貴方は夢の中でお父様と喋った。これはいいわよね?」

「多分な。なんか力が欲しいかとか聞かれたな」

「うんそれで間違いないわ。そして貴方はそれに頷いた」

「おう。ついでになんか心の奥らへんを覗かれた気がして不快だったがな」

「まあ、それは…………お父様に言って」

「丸投げかよ!」


 お前が謝るっていう選択肢がないことから、なんか性格とか見えてきたな。

 そして不審者は俺のツッコミを無視して話し続ける。


「それで頷いた貴方は次に『捨てるもの』を尋ねられた」

「おう。やたらとせっつきやがって。イライラした」

「それもお父様に言って」

「…………」


 なんかもう疲れたな。

 そんな俺の思いは当然こんな性格の不審者に伝わるはずもなく、急に脚を何回も組み直しながら喋りだす。心なしか頬も赤く染まっているようだ。


「そ、そして貴方はその捨てるものに、ど、『童貞』、と言った」

「おう。ちゃんと言うもんな。童貞を捨てるって」


 あの時はキマッたと思ったね。あんな感じの展開のとき俺はどうするかって妄想してたのが役に立ったぜ。すぐに目が覚めたから反応が見れなかったけど。

 不審者は脚を組むのをやめて揃えると、両手をグーにして膝に置き、俯きながら続けた。長い金髪で顔がやや見づらいな。


「わ、私はそのど、ど、童貞……を『殺しの童貞』だと、教えてもらったわ」

「はいそこ~。俺は普通に男と女がズッコンバッコンするアレを想像してたんだけどね~」

「ずっこん……ばっこん?」

「そこ~、カマトトぶってんじゃねぇぞ~。ズッコンバッコンって言ったら一つしかないだろ。男と女が裸でする夜の大運動会。またの名をセッ──」

「う、うるさい! 言うな言うな言うなぁ!」


 不審者は顔を、限界までサウナに入った人のように赤くすると両手で耳を塞ぎ、その長い金髪を振り乱しながら叫んだ。

 仕方なく俺は黙るしかないと思い、口を閉じる。

 すると不審者は口を閉じた俺を確認してから自分も口を閉じる。そして息を荒くしながらも話の続きを話そうとして……


「またの名をセッ──」

「言うなぁぁぁぁあああああ!」

「…………」

「はぁ……はぁ……」

「またの名をセッ──」

「だぁかぁらぁぁぁぁああああああ!」


 さて、弄るのはこれくらいにして話を聞こうか。


「んで、お前は俺に『殺しの童貞』を卒業させようとしていたわけと」

「はぁ……はぁ……そ、そういうわけ……なのに貴方ときたらっ!」


 案外すぐに終わった話の続き。確認しかしてねぇよ。

 そして確認が終わった途端俺をギロッと睨んでくる不審者。いや、それはこっちがやりたい行為だから。いきなり朝から訳分からんこと言われるわ、学校には遅れるわ……


「全てはこの不審者のせいか……」

「何がよ!」

「ところでそろそろ帰ってくれませんかね~? 学校行かなきゃいけないんで」

「え? ちょ、なんで? 力欲しくないの? すっごい欲しがってたって聞いたんだけど……」

「は? だってお前殺さないといけないんだろ? 後始末は大変だし、死体をどうするかも考えないといけないし、警察にバレたら捕まるし、デメリットばかりじゃねぇか。しかも唯一のメリットの『力』が正体不明とか舐めてんの?」

「わ、私の体はすぐに消滅するし、血だってなくなる………………と思うから……」


 こいつ完全に舐めてますわ。そんな希望的観測でこの偏屈な俺が動くと思うてか。

 てかそもそも俺はこいつの言うことあんま信用してないし。

 確かにあの反響とか、夢のこととか気になるけど、どうせ何か仕込んだんだろう。寝言聞かれてたとか。

 …………だとしたら何が目的なんだ? 俺に何をさせたいんだ?


「ど、どうしたのよ。急に黙って考え出して」

「…………何か証拠は?」

「え? なんの?」

「お前の言うことが本当だと言えるだけの証拠は? 『力』だの何だの言ってるが、怪しすぎる。何か証拠を提示しろ」


 結局結論が、寝不足で回らない頭では出なかったので、取り敢えず証拠を求めてみた。

 普通なら、『力』? 頭沸いてんの? ってなるしね。


「いちいち癪に触るわね……証拠、か」


 不審者は俺の態度に文句を言いながらも何か証拠になりそうなものを考え始めた。

 数秒後、不審者は何かに気付いたかのように手をパンと合わせると、片手を目の前へもって行き、掌を上へと向けた。


「いい? ここを見ててね。【火球(ファイヤー・ボール)】」


 そして不審者の言葉と共に現れる丸い火の玉。


「…………」


 何も言えない俺。

 不審者は数秒で火の玉を握り潰すように手をギュッと握ると火の玉を消して俺に聞いてきた。


「どう? この世界の人間はこんなこと出来ないんじゃない?」

「…………」

「むっ、まだ信じてないようね。ならこれならどう? 【闇球(ダーク・ボール)】。【水球(ウォーターボール)】。【風球(ウィンド・ボール)】」


 俺がポカンと何も言えず固まっていると、不審者は更に三つも球を出してお手玉のように回し始めた。

 ブラックホールが如く深い黒色の球、やや形を崩しながらもしっかりと丸い形を保っている水の球、そこだけ不自然に空間が歪み軽く緑色となっている球。


「…………」

「む~、まだ信じないの? なら……」

「いや、もういい。信じるよ。信じる」


 それを見てやはり声が出せない俺。更にその俺を見てまた何かをしようとする不審者。

 俺はいろいろ諦めてとりあえず不審者の言葉を信じることにした。何かを仕込んでいたとしても、俺相手にやる必要性が見当たらないしね。

 俺は両手で顔を覆うと、大きくため息をついてから不審者に話しかけた。


「はあ~…………それで、俺はどうすればいいんだ?」

「えっと、私を殺せばいいのよ」

「そうか…………てかさ、お前はそれでいいのかよ。殺されるんだろ?」

「私の今の体は本物じゃないから大丈夫よ。……ちょっと痛いと思うけど」


 不審者はそうは言うものの、嫌そうに顔をしかめる。

 そりゃあ誰だって死ぬ思いをしたいとは思わないだろう。究極のドMだってそれは断るに決まってる。……もし了承するやつがいたら多分伝説になるんじゃないかな。ほら、一つのことに突き抜けてるやつって伝説になりやすいとか言うし。Mに突き抜けていれば、あるいは…………

 またもアホな方へ思考が逃げていこうとしたので、ガッシリと捕まえて現実に引き戻す。

 それにしてもなんだかなぁ……もやもやするわぁ……なんか、こう、心の隅に引っかかるって言うの?

 どうしても何かが引っかかると思った俺は不審者に尋ねてみる事にした。


「…………なぁ、それってお前が来たいっていったわけじゃないだろ?」

「え? そうだけど? 当たり前じゃない」


 不審者は、何当たり前のことを、と言わんばかりに俺を見てくる。

 そりゃあ……そう、だな……


「……じゃあ、お前の言ってた、俺の夢に出てきた『お父様』とかいうやつがお前をここに来させたってことか?」

「うん、そうよ。お父様が『私にはお前を私のようにする義務がある。そしてそのためにお前は一度死んでもらわねばならない。つまり、私が言いたいことは分かるな?』って言って私を追い出したの」

「…………ッチ」


 俺は不審者のお父様とやらの話を聞いて自分の中のもやもやがなんなのかはっきりした。

 俺が感じていたもやもやと言うのは、この不審者の意思が感じ取れなかったところにある。あとお父様とやらの態度。

 つまり、誰かにこう言われたからこうする、こうしろと言われたからこうする、という所謂人形状態なんだよ。お父様とやらは普通にウザイ。俺の嫌いなタイプ。

 そしてそれに気付いた俺は思わず舌打ちをしてしまったというわけだ。お父様とやらめぇ……胸糞悪ぃ。


「ねぇ、どうしたの? また黙り込んで」


 俺の感情が表情に出ていたのか、不審者が怪訝な顔で俺を見てくる。

 もやもやが晴れた代わりにイライラが募っていた俺は、それにすら苛立ちが募り、思わず乱暴な言い方で不審者に問い詰めた。


「……お前は俺に殺されに来たんだよな」

「え? そ、そうだけど」

「じゃあ俺がお前を殺さなかったらどうなるんだ?」

「そ、それは…………分からないわ」

「まあ何でもいいわ。そんじゃ、お前に俺の意思を伝えるぞ」

「え?」


 俺の意思を伝える旨を聞いた不審者はポカンと呆ける。

 まさかこんな返しをしてくるとは思わなかったんだろうな。

 人形は言われたとおりのことしかやれない。臨機応変に対応ということができない。

 だから俺は最後にこう言ってやった。


「俺はお前を殺さない。以上だ、帰れ」


 そして立ち上がる俺。時計を見ると時刻は既に九時半。今から行っても二限目間に合うかな……

 そう思いながら不審者の横を素通りして扉に手をかけると……


「ちょ! 待ってよ!」

「なんだよ、帰れよ。俺の意思は伝えただろ? ほら、かーえーれ! かーえーれ!」

「…………」


 俺の帰れコールにだんだんと目が潤んでくる不審者。身長が低いため自然と俺を上目遣いで見てくる。

 その様子はとても保護欲をそそり、罪悪感を感じさせる。


「え? ちょ、涙目とか卑怯だろ。誰かに見られたらどうす……誰もいないから大丈夫か」

「…………っ!」


 だが、社会的になんの被害も受けないと分かった俺は、すぐさま涙目の不審者を無視して扉を開けた。

 しかし、扉を開けてそのまま出ようとした瞬間、クイッと服を引っ張られる。

 なんだよ、まだなんかあんのか?

 そんな思いを込めて面倒くさそうに振り返ると、


「…………殺してよ……」

「………………」



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