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第2話『美少女ktkr』

 雀が鳴き、否応なく朝だとしらしめられるこの時間。俺の意識はゆっくりと浮上し始めた。


「う……うぅん……」


 しかし布団の魔力とは恐ろしい。

 俺は布団の中でもぞもぞと動くだけで、なかなか外へ出ることは叶わない。

 外へ出よう、外へ出よう、と思ってはいるものの布団が、まだ眠たいよね? じゃあ寝ようよ~、と俺を誘うのだ。

 この現象は特に冬に起き易く、心の弱いものからどんどん堕落していくことになる。


「…………今日休もっかな……」


 そしてそれに嵌った者は、今度は学校自体を休むことを考え出す。

 そう、今の俺のように!


「ねぇ」


 だがそれに気付いていても俺は動かない。だってまだ時間はあるし。

 それに俺にはあの魔法の言葉がある! そう! あの【あと五分だけ! 五分で起きるから!】である。


「ねぇ」


 そうと決まれば有言実行。あと五分だけこの惰眠を貪ろう。

 ……そこで、有言っていっときながら喋ってないよね~、と考える俺は寒いのだろうか……

 まあ寒いならちゃんと毛布被らないとな。さあもっとヌクヌクとした居心地のよい世界へ旅立とう!

 毛布をもっと首元まで手繰り寄せて……


「ねぇってば! 聞いてよ!」

「さっきからなんだよ! せっかく人が気持ち良く『遅刻するけど布団から出ず、そのイケナイ感じを楽しんでる』感を味わってた……のに…………よ?」


 布団を剥ぎ取られた俺は勢い良くベッドの上に立ち上がり、人のものを盗む不埒な輩を糾弾する。

 だが、その言葉は最後まで威勢よくとはいかなかった。

 何故なら……


「……不審者だぁぁぁああああ!」

「…………え? ちょ、待って! 違う! 違うの!」

「なんだよその『浮気現場を見られて動揺する浮気妻』みたいな反論はぁぁぁぁああ!」

「はぁ?! もう! あなたが何を言ってるか訳わかんない!」

「俺の方がわかんねぇよ! 朝起きたら知らない人に布団剥ぎ取られるとかどんな恐怖?!」

「もう! もう! 今の状況を説明すると! とにかく、えっと、ええっと……もう! 【音響(バウンドサウンド)】!」


 やんややんやと騒ぎ立てる俺と目の前の不審者。てかモウモウうるせぇよ、牛かよこの女! 胸は牛みたいだけどな!

 そしてこの状況を説明しようと不審者は思考するが、混乱の極みにあるためか、なんかイタイことを言い出した。何? バウンドサウンド? 跳ね返る、音?


「お前ちゃんと説明しろ、って耳いてぇ?!」

「ふぅ……今この部屋に結界術【防音(バウンドサウンド)】を張りました。これは音を内側へと跳ね返す術です。だからあまり大きな声を出すと大変なことになりますよ」


 うぉぉおおぉぉ……耳が、イカレル……


「どうやら落ち着いたようですね」

「これは悶えてるっていうんだよ……!」

「落ち着いたようなので私がここにいる理由について話します」


 人の話聞けやこの金髪。


「私はお父様に命じられて貴方の元へと送り出された者です」

「は?」

「とりあえず聞いてください。貴方はお父様の問いかけに『是』と答えたはずです。そしてその対価も提示しました」

「ちょ、マジで意味分からん……いつの話だ、それ?」

「いつって……ついさっきしたじゃないですか」


 ついさっき…………その言い方だと昨日のことではなさそうだし……やっぱこれって……


「あ、はい。人違いですね分かります。新人さんってそう言うの多いですしね」

「え?」

「これからは気を付けてくださいね。あと外国ではどうかしりませんが、人の家に勝手に入り寝起きを襲うのは日本では犯罪です。気をつけましょう」

「えぇ?!」

「では、勝手に出て行ってください。僕は二度寝に入ります」

「…………」


 全く、これだからゆとり世代は……っていうか外人だからゆとり関係ないか? いやでも日本語ペラペラだったし日本で育っててもおかしくはないなぁ。

 そんなことを考えながら俺は至福の二度寝タイムへと移行する。

 しかし……


「…………」

「ちょ! だから人違いっつってんだろ! 警察呼ぶぞマジで!」


 盗られた布団を奪い返し、布団に潜った瞬間また布団を剥ぎ取られた。

 不審者を見逃す寛容さを持つ流石の俺でも、これは見逃せない。

 キレた俺は国家権力を行使することも辞さないと強気の態度に出るが……


「いえ、貴方で間違いありません。……貴方は力を欲しましたよね?」

「ッ?!」


 俺は金髪牛乳(うしちち)女の言葉に息を呑んだ。

 それは俺が目が覚めたときから考えないようにしていた悪夢だ。そう夢なんだ。

 なのに何でこいつが……


「その反応、ちゃんと記憶はあるようですね」

「……おま、ちょ、え? 何? あれ夢だろ?」

「はい、あれは確かに夢です。しかし夢であると同時に現実でもあるのです」


 ッチ、こいつは悪徳商人かよ。なんかこう、よくわからん言い回しでごり押しして契約書にサインさせるやつ。

 だがこいつは俺の反応お構いなしに話を続ける。


「そして貴方はあそこで『力』を欲した。武力、権力、財力、魅力、とにかく『力』を欲した」

「……そうだな」


 と、ここで俺は一つ気付いた。

 さっきからこいつはあの夢のことを話しているのだろう。

 ならばこの『力』とやらを受け取る代わりに俺は何か『捨てなければいけない』。

 そして俺はその捨てるものを夢の中で大々的に叫んだ。

 その上でこの美少女が来たってことは…………


「…………まさかお前が俺の童貞をもらう相手ってことか?」

「むっ、悪魔の話を遮るとはいい度胸ですね。ですがまあ言いたいことはそう言うことです」

「キタコレぇぇぇえぇえええ! ヒャッホォォォオオオオ!」

「……え?」

「美少女とあんなことやこんなことをする機会がとうとう俺にぃ!」

「え? え?」

「ならば早速! 据え膳食わぬはなんとやら! いっただっきま~す!」

「え? ……って、いやぁぁぁぁあああぁぁぁあああ!」


 肯定されたので、反響してくる音など無視して美少女へと抱きつきに行った俺だが、激しく拒絶されてしまった。具体的に言うと金的を蹴られた。何故だ。


「グォォオオ……」

「な、な、なによ! いきなり!」


 股を押さえて蹲り、獣のような唸り声をあげる俺。そこに降りかかる羞恥に満ちた怒鳴り声。

 チラと視線を上げれば美少女が、片手は胸を、もう片手は股間を隠してこちらに対して半身になっていた。

 関係ないけど侵入者から牛乳女になって、最終的に美少女ってすごい成り上がりだな。

 本当に関係ないので俺は美少女へと疑問を投げかけた。


「い、いや、童貞をもらってくれるって言うから……」

「だからって絞め技とは限らないでしょ! 貴方には今から刀を渡すつもりだったのに!」

「はぁ? 絞め技? 刀?」

「だから童貞を卒業するために…………」


 俺の疑問に対しチンプンカンプンな返事をする美少女。

 もう、情報が足りん。この日本人だからこれくらいで伝わるよね? っていう感覚はやめて欲しいんだが。皆が皆俳句を読んでるわけじゃねぇんだよ。

 しばらくお互いに理解を求める空気が続く。

 そして何かに気付いたのか彫像の如く固まる美少女。

 と思ったらその顔がどんどんと赤く染まっていくではないか。どうした?


「ば、ば……馬鹿じゃないの?!」


 と思ったら突然叫ぶ美少女。あの不思議結界? のせいでやたらと反響して鼓膜破れそう。

 それより、美少女の顔がりんごみたいに真っ赤になってる。口もわなわなしててなんか恥ずかしがってるみたいだ。


「私が言ってるのは『殺しの童貞』よ! えっと、そのぉ…………えっちなことの童貞じゃないわよ!」

「えぇー……」


 当たり前じゃない! と叫んで顔を逸らす美少女。てかその見た目年齢で『えっちなこと』って……カマトトぶってんじゃねぇよ。あれか? 私はそんなえっちなことなんて知らない純情美少女ですよ~ってか? …………美少女だから許しそうになった俺は馬鹿だな。


 ていうより朝のハイテンションで不法侵入者とやり取りしてた俺だけどなんかヤバくね? 

 と、ここで急に冷静になる俺。落差やべぇ、と自分で言ってみる。

 うん、ちょっと考えたらこの状況って不審者野放しにしてるようなもんじゃん。しかもそいつに抱きつこうとか……頭沸いてんだろ……うん、そうだな、美少女でも犯罪者は犯罪者なんだ。割り切ろう。

 勝手に自己完結した俺は枕元に置いてある携帯電話へと手を伸ばす。もちろんかける番号は百十番。


「もう……って何してるのよ貴方!」

「ちょ! 近寄るな不審者! 俺は冷静になって気づいたんだ! この状況がおかしいって!」

「え?! 今まで気付いてなかったの?! 気付いた上で話してくれてると思ってたわよ!」

「知るか! 昨日は深夜まで筋トレしてたんだよ! そのせいで割と疲れてんだ! テンションだっておかしくなるわい!」

「自業自得でしょうが! 自己管理くらいしっかりしなさいよ!」

「…………」


 正論を言われて固まる俺。


「えい!」

「あ……」


 そしてその隙に俺の手から携帯を奪い去る不審者。

 不審者は手に持った携帯をペタペタと触りながらなんとか通話ボタンを切った様子。機械音痴か。


「ふぅ、いきなり何をし出したかと焦ったわ」

「いや、ただ俺は常識に乗っ取って不法侵入者を撃退するため警察に連絡しようとしただけなんだが……」

「うるさい!もう! とにかく話を元に戻すわよ。後認識の齟齬も確認しましょう」

「へいへい」


 そう言って俺はベッドへ、不審者はピッピッと指を振りながら手近にあった椅子へと腰を下ろす。なんだ今の。ま、いっか。

 なんやかんや言って落ち着く俺ってやっぱどっかおかしいんだなぁ、と自分は特別という厨二的な考えをめぐらせながら不審者の言葉を待つ。

 不審者は椅子に座り、その無駄に長くて白くて綺麗な美脚を組むと話し出した。



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