第1話『何を捨てる?』
深い……深い暗闇の中……俺は漂っている。
視界はなく……手足の感覚もなく……何も分からない……
一体ここはどこなんだ……俺は、どうしたんだ……
『ち……がほ………』
突如、俺の脳内に何かが響く……
なんだ、これは……声、なのか……?
分からない……分からないけど…………
『ち……らが……ほし……か』
俺の意識が引き込まれる……この言葉に否応なく考えさせられる……
これはなんなんだ……? 何を言いたいんだ……?
『力が……しいか?』
力……? あぁ、力……か……
俺の意識は力というワードにつられて思考をめぐらす……
俺に力があれば……何でも出来たのかもしれないなぁ……
『力が欲しいか?』
そしてとうとう聞こえたその声……俺の脳内に直接語りかけてくるように言うその言葉……
俺はその言葉の意味を自分の中に取り込んだ……そしてその意味を自らに問う……
力……ねぇ……俺は……
俺の中で様々な出来事が思い出される……力がないせいで傷つき続けた俺の記憶が……
欲しい……心の底から……力が欲しい……
気付けば俺はそう思っていた……心底それを望んでいた……
それを認めた瞬間、俺の今まで抑えてきた【何かの】蓋が弾け飛び、言葉が溢れ出して来る……
上から目線で話す大人が嫌だ……人を見下す人が嫌いだ……
人を裏切る奴はクソだ……人を利用することしか考えてない奴はクズだ……
表面を取り繕って内心で何を考えてるのか……ヘラヘラ笑って内心でどんな罵詈雑言を浴びせているのか……
どんなに頑張っても理不尽で報われない奴がいるこの世界はなんなんだ……真面目な奴が損をするこの世界はなんなんだ……
人を食い物として生きている人間はおかしいだろう……嘘と欺瞞に満ちたこの世界はおかしいだろう……
人が人を憎むのは普通なのか……強者として世界に君臨した人間が全てを下に見ているこの世界は普通なのか……
同じ種族で争う人間は狂っているだろう……同じ人間を差別する人間は狂っているだろう……
正義と言って自分に言い訳をするな……正当性が自分達にあるといって他人を巻き込むな……
一人では何も出来ないくせに徒党を組むと調子に乗る奴はなんだ……ネットで匿名だからと人を平気で傷つける奴はなんだ……
皆が皆悪意を持っているこの世界が嫌いだ……悪意という化け物を腹の中で飼っている人間が俺は大嫌いだ……
『……ならばお前は何を捨てる?』
俺の思考が一息ついた瞬間……声はまたも問うて来た……
俺の思考はその言葉で一瞬途切れ、その一瞬でまた蓋は閉じられる……
そしてスッキリした頭でその問いの答えを考えた……
何を捨てるか、だって……? はは、よくある悪魔との取引みたいだな……
『お前は何を捨てる?』
俺の茶化すような言葉に、声は俺をせっつくかのように繰り返す……
うるせぇよ……何を捨てるかなんてとっくに決まってらぁ……
『ならばそれを言え』
ッチ、その上から目線がイライラするな……だが殴りたくても手足がなければ叶わない……
だから俺はさっさと言うことにした……ずっと、捨てたかった、アレを……
『さあ、お前は何を捨てる』
俺は……捨てるぞ……俺の……俺の………………
【童貞を!】