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夫婦ともに37歳で新婚ですが、それが何か?  作者: Tora
大福さんの旦那さん
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安城(あき)ちゃん、お待たせ。あれ、もう飲んでるの?那月(なつき)も?普段から2人、そんな仲いいの?」

 大福さんが戻ってきた。

「いやいや、今日この場でだけは、『旦那さん』と『安城(あき)ちゃん』なんで。そこんとこ、よろしくっす。」

「ん、ラジャ。」

「そういうことなんで、大福さんも旦那さんも、俺の会社でのこととか、話題にしないでくださいね。俺も大福さんと、旦那さんの会社でのことを話題にしないんで。」

「分かった。」

 と、『旦那さん』はえらくホッとした様子。

安城(あき)ちゃんがそう言うなら、いた仕方ない。」

と、大福さんは何やら不満げな様子。

幸海(ゆきみ)、やっぱり髪、乾かしてないな。」

 ソファに座った大福さんにビールを注いでやりながら、『旦那さん』が言った。

「ん~。」

「仕方ないな。」

 と、『旦那さん』、大福さんの後ろに回りこみ、どこぞから取り出したタオル二枚を、一枚は大福さんの肩にかけ、もう一枚で丁寧に髪を拭きだす。

「ちょっと、安城(あき)ちゃん居るのに恥かしいじゃないのよ。」

「せめてタオルでとれるだけは拭いておかないと、冷房もきいているし風邪をひく。ドライヤーはかけないから、そのまま安城(あき)ちゃんと話してろ。あ、安城(あき)ちゃんが土産にビール持ってきてくれたぞ。幸海(ゆきみ)の好きな銘柄のやつ。」

彼女なしの俺には目の毒だ。ていうか社長、好きになった相手にはデロデロに甘いんすね。普段の冷酷メガネからは想像もつかないんだが、これがいわゆるツンデレってやつかね。

「ありがと、安城(あき)ちゃん。発泡酒じゃなくてビール?気を使わなくてもよかったのに。」

 いや、そこはばらさないでくださいよ。

「いえいえ。それより、約束より早く来てしまって、段取り狂わせてしまったみたいで、すんません。」

「気にしなくていいよ。それにしても、どうしたの?」

「初めて行く場所だからすぐに分からないかもしれないな、と、早めに出たら、何度か仕事で上司の送迎をしたこの建物でしょ?すぐに分かってたどり着いちゃって。」

「この時間に着くってなると、安城(あき)ちゃん家からだと結構かかるし、昼ごはんちゃんと食べた?遅れるとか気にしなくてよかったのに。」

「昼飯はちょっと早めに食いましたよ。いや、遅れると、ゆっくり話ができないじゃないっすか。」

「ん?安城(あき)ちゃん、夜、用事あるの?」

「ないっすけど。」

大福さんの方が、夕飯の準備とかあるんじゃないっすかね。そんぐらいは俺だって気をつかえますよ。5時ぐらいにはここを出るつもりだから、逆算して早めに到着するように家を出たのだ。

「だったら夕飯も食べていくだろ?独身の1人暮らしの子だと聞いていたから、夕食、3人分仕込んであるんだが。」

 と、『旦那さん』が言った。

…え、社長、飯作れるんっすか!?てか、社長作ったんっすか??

「食べていきなよ。那月(なつき)のご飯、おいしいよ。今日はね、ロールキャベツだって。」

 しかも、なんか難しそうなレシピだし。

 イケ面で金持ちで社会的地位も高くて、妻限定でデロデロ甘くて、おまけに飯まで作ってくれるって、大福さんあんた、すんげえ優良物件つかまえましたね。普段は天然タラシの冷酷メガネだけど。

「あ~…。悪いっすね。ゴチになります。」

「ところで、その紙袋、貸してくれるって言ってた漫画?」

「そうっすよ。あと、借りてたやつと。高橋洋介って、全然知らなかったんっすけど、ホラーがいいと思ったのは初体験っすね。サンキューです。」

 と、紙袋ごと渡す。ホラーって言うなら、今日の社長ほどホラーなもんはない。『旦那さん』と思ってなきゃ、やってられない。

「古すぎて手に入りにくいんだよね。他ので私が持ってるやつは全部貸すから、それ以外のを見かけたら、買っといてくれる?」

「了解っす。」

「で、こっちが貸してくれる分?絵、丁寧~。わ、噴出しの台詞、長っ。」

 と、パラパラと漫画をめくる大福さん。

「それ、台詞の斜め読みはお勧めしませんよ。台詞もすぐにはまりますって。」

「どんな話だ?」

 大福さんの後ろから『旦那さん』が大福さんの肩に首を載せて覗き込む。そのついでに、手を伸ばして大福さんのグラスをとって口に含んだ。

「料理漫画よね。」

「そうっす。アラフォーゲイカップルの、日常の食事風景を描いた秀逸な作品で…。」

「ブッ」

 突然『旦那さん』が、ビールにむせた。

「ちょっと那月(なつき)、汚いなぁ~。」

 それには返事せずに、咳き込む『旦那さん』。

 あ、もしかして!

「ちょっ、旦那さん、誤解しないでくださいよ。俺、腐男子じゃないっすから。全然腐ってないっすからね!」

那月(なつき)、大丈夫?」

「あ、ああ。」

 口元を大福さんの髪を拭いていたタオルで抑えて、フラフラとダイニングに向かう『旦那さん』を、大福さんは手櫛で髪を整えながら見送っていた。

「大福さん、このチョイス、まずかったっすかね。もしかして俺たち、旦那さんに腐女子腐男子の腐った仲間と思われたんじゃ?キスシーンもないんで、こんぐらいなら大丈夫かと思ったんすけど。」

 ヒソヒソと言う。

「それは大丈夫なんだけど。ま、気にしないでやってちょうだい。」

 いや、めっちゃ気になりますけど。俺、社長に腐男子認定されてたら、どうしよう~。ま、ここでのことは口外無用なんで、大丈夫か。



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