和風洋風
ここは、とある研究所。
休憩中、今日も今日とて、博士さんと助手君の無駄話が始まるのです。
「私、和風って駄目なのよ」
「日本人なのに? 僕は好きですけど。全体的にあっさりしてて、美味しいですよね」
「美味しい? 助手君は、おいしく食べられるの?」
「モノにもよりますけど、大体食べられますね、好き嫌いあまりないですし」
「いや、それもう好き嫌いってレベルじゃないと思うけど」
「…何の話ですか?」
「何の話も何も、和風の話よ」
「料理では無く?」
「フランス風とかイタリア風とか、見てみたくはあるわね。和風と洋風しかないけど」
「…下の話か。紛らわしいですよ、和式洋式って言って下さい。それと、フランスやイタリアには、洋式の座る部分がないトイレがあるみたいですね」
「へえ、そうなんだ。で、どんな味だった?」
「食べませんよ!? 食べられませんから!」
「中華風はどんな感じ?」
「そうですね、床に溝が一本通っていて、それが隣あった部屋で共通なんです。そこに水が流れていて…って、何説明させてるんですか!」
「ちょっと臭うからあんまり近寄らないで」
「不条理だ…。それで、トイレの和式と洋式がどうしたんです?」
「え、まだ続けるの?」
「いや、え?、…続けないんですか?」
「続けるけど?」
「僕どっか行きますよ」
「和式に、洋式に?」
「トイレじゃありません! そんな頻繁にトイレ行きませんよ。…はいはい、わかりましたから、続けて下さい」
「仕方ないわねえ。この前、ふと気になったのよ」
「何がです?」
「いや、和式のあの、水流すとこあるじゃない、あのレバーみたいなやつ」
「ええ、ありますね」
「アレって、しゃがんだままの体制だと、何か微妙な位置のところにない? 手を伸ばすと位置としては若干遠いくせに、わざわざしゃがんだまま近づいてレバーを下げると、何か負けたような気分になるのよね」
「もう僕は足でやっちゃいますけどね」
「足!? 助手君、いったいどんな関節してるの!?」
「一旦立ってですよ!? しゃがんだまま足で押せるわけないじゃないですか!」
「ああ、そうよね。助手君なら、出来ると信じてたのに……」
「僕の知らないところで、勝手にハードル上げないで下さい」
「でも、足で押すのって汚くない?」
「まあそうなんですけど。わざわざ後からトイレットペーパーで拭きますしね」
「そこまでして踏みたいんだ?」
「いやあ、何かアレ、気持ち良いんですよ」
「いち、いち、ゼロっと」
「無意味な通報は止めてっ!? 警察だって暇じゃないんですから」
「そもそも、和式のあのしゃがみを強要するスタイルが嫌いだわ」
「ああ、しゃがむのしんどい時とかありますもんね」
「そうよ。第一、しゃがむ時に、自然と全身に力が入るじゃない。その時、売れない芸人がテレビ番組の収録本番前に、前座で会場の空気を温めておきましたみたいのが、ひょっこり顔を出しちゃうじゃない」
「色々ひどいですが、わかる気もします。一日が終わって、お風呂に入る時に、下着が汚れてると、何だがすごく残念な気分になりますしね」
「それに、しゃがんでなんやかんやしてる間、手のポジションニングにいつも戸惑うのよ。足はいいわよ、踏ん張ってる。だけど、手は!? 手はどこにスタンバってればいいの!? 何かレバーのとこじゃ微妙に低いし遠いし、胸の前に気合い入れてポージングしてるのも何してるんだろって悲しくなるし。こう、便器の頭の方に、ちょうど良く掴まれる場所をトイレメーカーは作るべきだと思うわ」
「そうですねえ。最近は和式じゃなく洋式だけのトイレも増えてきてますし、嫌なら洋式を使えばいいと思いますが」
「甘い、熱を出した時のポ●リより甘いわっ、助手君っ!」
「熱を出した時のポ●リの甘さは、元気な時より甘く感じない気もしますね。味覚も若干麻痺してますし。でも、熱を出した時のポ●リが美味しいのは確かですけど。それで、甘いというのは?」
「女の子のトイレは戦場なのよっ!」
「確かに、男性と違って女性の方が大変そうですよね。男子トイレは空いているのに、女子トイレはいつも列を作っているイメージがあります」
「そう、それゆえ女子に便器の選択権など無いっ! 便器の自由を取って社会的に死ぬか、下着が死ぬかしか無いじゃないっ!」
「いやそんなことも無いと思いますが。あとそれフラグですから」
「だから私は、いつも代えの下着を、勝負下着を含め、複数枚、バッグに常駐させているっ!」
「わしは聞きとうなかった、そんな情報。一度実際あってびっくりしたんですが、女子トイレがあんまり混み過ぎていて、明らかに中年と思われる女性が、平気な顔で男子トイレに入ってきて用を足していったことがありましたね」
「その手があったか! …けど、私にまだそんな勇気は無いわね」
「いらないですそんな勇気。しかし、男子トイレと女子トイレっていう表記もどうなのかなあって思いませんか? 確かにそんな年の子も利用するわけですけど、良い大人が男子女子っていうのも」
「助手君」
「はい、何でしょう?」
「女はね、いつも少女でいたいものなのよ」
「…煙草、吸ってきますね」
「貴方煙草吸わないでしょ」