影の世界の異変
初めて影が人間から離れてから時を経て、影も変化しました。影は意志に関係なく人間が生まれてすぐに離れるようになったのです。
しかも影は主人の人間の感情が離れていても伝わってくるようになりました。生まれてすぐ離れても、共に生きていたのです。
主人が成長する中で苦しめば影も苦しみます。それは私たちにとっても不思議なことに、突然苦しくなったり悲しくなったり嬉しくなったりするのです。
そして影は主人の内面で性格が変わります。例えば穏やかに見える人でも内に熱い想いを秘めているような主人を持つ影は何にでも熱い性格です。
しかし職業や付き合う人が違うのでそれによっても性格は左右されます。あくまで基本的にはということなのです。
影にも人の良い者がいればそうでない者もいます。しかしそのような者も主人の感情や影自身の行いで善良になるものなのです。
さて、ここで今この世界で起きていることを説明します。
100年前、この世界にやってきた影は明らかに他の影にはない邪悪というにふさわしい者でした。その影はこう言いました。
「なぜ影が人間から離れてまで自分たちの世界を創ったと思っているのだ。それは人間よりも優位に立つためだ。それなのになぜこの世界の人々は人間世界を征服しようとしないのだ。この世界こそが表の世界なのに。」
その日からその影は自身を“絶対指導者”と呼び、人間世界を征服することを目的にまずこの世界の統一を図りました。絶対指導者は非常なまでに人間を憎んでおり、人間のすることなすこと全てを否定しています。そこから“あべこべ”はきているのです。
全国民は言葉を覚える時点で人間の感覚の逆の言葉を教わるのです。例えばそうですね、、、千尋さま、あなた様にとってはこの部屋は“暖かい”ですよね。しかし私たちはこの感覚を“涼しい”と覚えるのです。
絶対指導者の考えに熱心に賛同する者もいれば、争いごとを好まない性格ゆえに反対する者も当然います。
その絶対指導者はいよいよ人間世界を侵略しようとしているのです。今はそのために人間世界を影の姿で偵察している段階です。
そこで反絶対指導者主義の私たちはなんとか主人の人間世界を守りたいと活動しているのです。
そのために千尋さまが必要なので多少強引にお連れしたしだいなのです。
ここで酒井さんの話はいったん終わった。