もう1つの世界
自分たちの世界に戻った千佳たちに思ってもみなかった訃報が届いた。
「お母さんが消えかかってる?」
「それは本当ですか?」
「はい。今から1時間ほど前から。」
「酒井さん、どうゆうこと?消えかかってるって。」
「人間世界の知世さんがもうすぐ亡くなる、ということです。」
「えっ。じゃあ、、、。」
「ご主人さまが亡くなれば影であるその影も消えてしまうのです。」
「そんなっ、、、。」
「言ったでしょう。この世界にはまだまだ千尋さんの知らないことが山ほどあるのです。もっとも、死に関わることは身内にそれがなければ二十歳になってから知ることとされています。」
「私、お母さんのとこに行ってくるっ!」
「あっ、待ってください!知世さんは特別な施設にいます。」
「は?特別な施設っ?」
「はい。消えかかっている段階ではご主人さまの死までまだ日があります。ですがその様子を幼い子供に見せないように特別な施設で過ごすのです。」
「じゃあ行こう!!早くっ!」
「はい。」
――
「それで、千佳のお母さんはどうだったの?」
「いつもと変わらないようでしたがたまに身体が薄くなったり元に戻ったり、という感じで、、、。」
放課後、学校近くの公園で千佳が昨日こっちの世界から戻った後の出来事を話してくれている。
「酒井さん、千佳のお母さんを助ける方法はないんですか?」
「普通ではなにもできることはありません。ご主人さまの死を予言、いえ予言といいますか、定めといいますか、とにかくご主人さまがなにか大変な病気で治す手段がないという状況でも直前で医療法が見つかって助かるというような時は影は消えません。消えかけた人が元に戻るということもあります。」
「こっちでどうにかすれば変わる可能性もあるんですね?」
「おそらくは。」
「あと何日ぐらいなのかわかりませんか?」
「あの様子ではあと3日かそれより前かというところです。」
「じゃあ私、千佳に言っておばさんをどうにか助けられるようにしてみる。信じないと思うけど頑張って話してみる、千佳、だから大丈夫だよ。」
「、、、はい。今から行くんですか。」
「うん。今から千佳の家に行こっ!」
私は千佳に今から家に行くとメールをして千佳の家に向かった。
ピンポーン
「はーい。」
「千佳、いきなりでごめんね。」
「ううん。あ、入って入って。」
「うん。お邪魔します。」
千佳の部屋に着いて私は「信じられないと思うけど、、、」と切り出して影の世界について私が体験したことの色々とおばさんのことを一気に話した。千佳は意味がわからないという顔をしている。
「千尋、大丈夫?」
「やっぱりそうゆう反応だよね、、、。」
「千尋が嘘とか冗談で言ってるとは思わないけど。だからなんか、病気?」
「嘘でも冗談でもましてや病気でもないんです。真面目なんです。」
「うーん。まあわかった、わかった。」
「わかってくれるの?」
「夢だな。」
「夢?違う違うっ。」
「だからその夢には付き合ってあげるよ。けど、お母さんのことはいくらなんでも、酷くない?冗談でも勝手に人を殺すなんて。」
「うっ、でも本当なんだよ。」
「はいはい。もう話は終わったよね。じゃあ帰ってっ!!」
「えっ、でもっ。」
――バタンッ
千佳は私の背中を押して追い出すように家の外へと出させた。