馴初め
「お母さんとお父さんは同じ職場で働いていたの。今お父さんが働いてる会社でお母さんも結婚するまで働いてたのよ。」
18年前―――
今日は会社の忘年会。小さい時から好きだったおもちゃ会社の企画部に入ったのは今から4年前。1年めは苦手な敬語に苦戦してたけど仕事はすぐに覚えた。2年めは少しずつ発言できるようになった。3年めは初めて企画のチーフを任された。そして4年めの今年は大きな仕事を任されて大成功させた大躍進の年だった。そんな年ももう終わりか、、、。そう言えばこの忘年会を最後に寿退社する女性社員が何人かいるんだよね。あー、仕事に夢中で恋人さえこの4年間いなかったよ。来年には27歳か。まだ平気かな?どうだろうか。んー。
「なに難しい顔してるんだ?」
「ああ、瑠璃垣くん。」
「もう1年が終わるんだ。悩み事は今のうちに解決した方が良いんじゃないか?」
「おっ。まっちゃん。良いこと言うねー。」
「話してみ。俺らが聞くぜ。なっ、和宏。」
「あ、ああ!!」
「そうね。瑠璃垣くんはちょっと頼りないけど、まっちゃんなら私より長く生きてるしね。」
「5つしかかわらないって。でもまあ人生においては先輩だよな。ドンと話してみ。」
5歳って結構離れてると思うけど、、、。まあ良いや。この人はまっちゃん。歳は5つ年上だけど同期。教員免許はとれたんだけど教員採用試験に落ちてから自信を持てなくなって一般の会社に就職したんだって。今の会社は2社めらしい。新入社員挨拶の時なんていきなり「まっちゃんって呼んじゃってください。よろしくっす!!」なんて言うからチャライ人なのかなって思ったけど案外仕事熱心だし年上だけど話しやすくて良い人。
それでこっちが瑠璃垣くん。彼も同期なんだけどあんまり話したことはないな。すごい静かって訳じゃないんだけど、、、ぶっちゃけ嫌われてると思ってた。今声かけてくれたのもびっくりしたもん。でも、私こういう仕事熱心な人、結構好きなのよね。
「えっとね。今日が最後で寿退社する人が何人かいるじゃない?私、結婚なんて出来るのかなって。」
「知世ちゃん、結婚願望あったんだ?」
「そりゃあ、ねえ。」
「仕事バリバリだから全然興味ないのかと思ってた、なあ、瑠璃垣。」
「あ、ああ。そうだな。ってか俺ら3人とも仕事優先って感じだったじゃん。」
「あー、共通点だよね。4年間走りつづけてたって感じ!!」
「じゃあそろそろ恋愛でもしてみれば良いじゃん!!」
「あれ、でもまっちゃんって彼女いなかったの?モテるでしょ。」
「ん?告られるけど振ってた。」
「何でよ?」
「俺が好きになったコとしか付き合いたくないから。」
「付き合ってから好きになれば良いじゃん。で、瑠璃垣くんは?彼女いないの?」
「こいつはさあ。恋愛には不器用なんだよ。でも仕事は器用になんでもこなすんだよ。なんたってあのT大学卒だし。もう一緒に飲んで酔っても俺にはわかんない難しい話を永遠に力説するんだよ。あ、でもそんな堅苦しいやつじゃなくてふわってしてるとこもあるんだぜ。」
「ちょっと、それはわかったけどなんでまっちゃんがそんなこと説明するのよ。」
「チッ」
「チッ?なんで舌打ちなのよ?」
「あー、もう良いからっ。南も、気にしないで。」
「えー、なんなのよ。」
「あ、ちょっと失礼っ。」
「え、ちょっと、どこ行くんだよ。」
「ちょっとだよ、ちょっと。じゃあな!!」
「あ、行っちゃった。」
「まったく、、、。」
「、、、どっかと合流しよっか?」
「えっ!?」
「いや、瑠璃垣くん、私のこと嫌いでしょ。」
「そ、そんなことないよ!!だって、、、俺、お前のこと、好きなんだっ!!」
シーン―――
――なんだ?瑠璃垣のやつ告ったのか?
――相手は?、、、南?
ワーワー
「え?」
「あっ!!」
「コホン。お二人さん、こっちこっち。」
「あ、ああ。」
「え、ええ。」
まっちゃんが呼んだのはお店の出入り口。今、私告白されたの?まだぼんやりしてる。だってこんな何十人でやってる忘年会で、だよ。居酒屋貸し切ってやってるんだよ。ってそれは関係ないか。あ、外に出たからちょっと頭が冷えて冷静になってきたかも。
「あの、ごめんなさいっ!!」
「え?何が?」
「えっと、だから、こんな大人数のいるとこで、その、、、。」
「あ、ううん。それは、気にしないで、うん、、、。」
「それで、その、返事の方は?」
「え?あー。うん。良いよ。」
「良いよ、ってことは!?」
「付き合おっ!!」
「ほ、本当にっ!?」
「うん。」
「や、やったー!!」
―――
それで2年間の交際を経て私たちは結婚したのよ。まっちゃんには結婚式の仲人もしてもらったの。それと後から聞いたんだけど、お父さん、入社した時からお母さんのことが好きだったんだって。ウフフ。
「へー、お父さんがねぇ。あんなに無口なとこからじゃ全然想像できない。」
「それは知佳がお父さんに冷たくするからでしょ。お父さんだって喋る時は喋るわよ。」
「そうゆうお年頃だもん。」
「もう、知佳ったら、、、。でもおばさん。そのまっちゃんって人、今どうしてるんですか?」
「それがねー、私たちの結婚式の後、会社辞めてどこかに行っちゃったの。」
「え?何も言わないで?」
「そうよ。でも私たちも結婚してからここに住むことになったからまっちゃんも私たちがどこに住んでるのかわからないから連絡できないのかも。」
「なんか、かっこいーですね、まっちゃんって。話聞いてるだけでも良い人って感じです。さっといなくなっちゃうところも。」
「そうね。あ、結婚式の時の写真があるわ。」
「え、見たい見たい!!」
「ちょっと待ってて。」
まっちゃん?正広とか正樹とかかな?
「はい、これよ。あ、これこれ。このツンツン頭で決めてるのがまっちゃん。」
「「えっ!!」」
「何よ、2人して。」
「、、、先生っ!!」
「うん!!え、お母さん、この人うちの学校の先生だよ!?」
「え?」
「絶対!!うん、私先生に昔の写真見せてもらったことある!!」
「マジで?知佳?」
「千尋も見たことあるじゃん?ほら、去年の文化祭でっ。」
「あっ、そう言えば!!教科担任でもなくて関わりなかったのに、出し物の景品に使えって見せてきたやつッ!!」
「、、、あ、やりそう。」
「ええ。まっちゃんならやるわね。」
「え、面白いっ!!知佳。明日酒井先生にきいてみよーよ!!確認っ。おばさん、この人、酒井って名前でしょ。」
「ええ、酒井雅人よ。」
「「ワオ!!やっぱり!!」」
「驚いた。まっちゃんが教師になってたなんて。」
「ああ。知佳、まっちゃん連れてきてくれ。」
「う、うん!!」
「飲むぞー。」
「ふふ。16年振りね。私も楽しみ。知佳、よろしくね。」
「うん!!」
あー。驚いた。まさかこっちでも酒井先生が恋のキューピットだっただなんて。
――はい。本当にびっくりです。
――わっ。びっくり。酒井さん。忘れてた、、、。
――忘れないでくださいよー。
――ごめんごめん。
――しかし馴初めもこちらと似ていますね。
――え、酒井さんもチャラかったんですか?
――いえ、そこはあまり似てませんが。仕事関係の会合で2人をくっつけたのは同じです。長い間和宏くんの片思いを応援してたのも。
――えー。偶然にしちゃよく出来た話ですね。
――興味深いですね。私たちも私のご主人さまに話をする時にご一緒してよろしいですか?
――良いですよ。じゃあ明日の休み時間に行くことにします。
――はい。
明日が楽しみ。この後私は知佳と明日の約束をして家に帰り、もう1人の知佳や酒井さんたちもあっちの世界に帰っていった。