ついに
翌日――
昨日の会議でとりあえず1週間のうち前半4日間は合同で人間世界に行くことになった。
「こんな大勢で押しかける方が迷惑なんじゃない?」
「良いのよ。大勢で行く方が喜ぶと思うわ。牧野さんお話好きだから。」
「話に行くわけじゃないんですけどね。」
「ウフフ。あ、ここよね。」
ピンポーン
「はーい。お待ちしてました。、、、わっ、こんなに?」
「ごめんなさいね。こんなに大勢で。」
「良いのよ。8人もお家に来るなんて今までないもの。嬉しいわ。良かった。クッキーをたくさん焼きすぎちゃったのよ。食べて食べて。」
クッキー!!わーい。
「やったー!!」
「ありがとうございます。しかし時間がないので向こうで食べますね。」
「なんだ、ゆっくりできないの?」
「帰ってきたらゆっくり話しましょう。」
「わかったわ。さあ、子供部屋は下です。」
そうなんだよね。子供部屋は下なんだよ。こっちと人間世界では家はずいぶん違うんだな。
私たちは昨日と同じようにして人間世界に移動した。
そして私と酒井さん以外のメンバーの興奮が冷めないうちに酒井さんが指揮をとって2つの班に分かれた。
「では、、後は頼みましたよ。」
「了解。林姉弟のことは任せて。」
特に拓と紀美香さんがすごくテンション高い。20代じゃやっぱり子供だな。
「知佳、行くわよ。」
「あ、花村さん、待って。」
まずは学校に行くことになっている。そして日が沈む前に戻ってくるという予定だ。さあ、人間世界を冒険だ!!
私と酒井さん、安藤さん、花村さんは学校に着き、まず千尋のクラスがある教室に行った。今は休み時間のようだ。
「千尋、私次の現社の教科書忘れちゃったから借りに行くの付きあって。」
「大丈夫だよ。あの先生だもん。」
「そーかな、、、。」
「ってか私もないし。」
「なんだ千尋も?」
「うん。行方不明。」
「まじ?先生に言った方が良いんじゃない?」
「うーん、やっぱり言わないとダメ?」
「どうかした?」
「ううん、なんでもない。あ、時間だよ。」
キンコンカーン
あ、あれって!?
「それでは授業を始めます。ん、牧野どうした?」
「酒井先生、あの、教科書がいなくなっちゃったんです。」
「それは困ったな。牧野の教科書は牧野が嫌になったんだな。誰か誤って持っている人はいないか。ロッカーも見てみろ。」
「え、そこまでしなくても良いのに。」
「よし。職員会議の時に他のクラスにも聞いてみるように先生に話しておく。」
「だからそこまでしなくても、、、。もう1回家探してみます。」
「そうか、じゃあ同時進行だ。」
「、、、はい。」
「ねえ千尋、なんで嫌そうなの?」
「だってなんか目立つじゃん。」
「はあ?今でも十分目立ってんじゃん。何を今更。」
「それとこれとは話が違うの。」
「よくわかんないや。」
私にもわかんないや。ってか酒井さん!先生だって!似合ってるー!!
この後戻る時間まで千尋たちの様子を見て戻り、そんな活動を1週間続けた。合間合間で敬語と歴史の勉強をした。千尋たちの様子を見ているうちに喋りたい気持ちがどんどん湧いてきた。喋るなら敬語でないと失礼になるという酒井さんの言葉が理解できて私の勉強に対する姿勢も見違える程良くなった。
1週間で発見したことがまだある。日が沈んだ後と霧が出てきた時に意識すると地面を歩くことができ、お互いに姿を見れるということだ。(ただし人間には気づかれない。)どうにか人間にわかるような姿にならなくちゃ千尋と喋るなんて不可能だ。そもそも人間と接触できなきゃ困る。
次の課題はそれだ。
探索を始めてから1週間と3日経った日の報告会。対抗策メンバーが不思議な質問をした。
「酒井さん、絶対指導者って何者なんですか?」
「何者ってどういうこと?」
「確かに絶対指導者を見たという人はいません。」
「そうなの!?」
「少なくとも今生きている人の中にはいません。」
「それって?」
「100年前に来てから1度も姿を人に見せた記録がないんですよ。絶対指導者に仕える側近は絶対指導者は不老不死だということ以外何も語らないのです。」
「その側近は代々役職を受け継いでるから絶対指導者の正体は彼らしか知らないみたいよ。で、何かわかったの?」
「いや。100年も生きている人間なんているわけないって、俺らまだみんなに教えてもらってないことたくさんあるなって、紀美香姉さんと話したんだ。」
「そうですね。拓人くんと紀美香さん、知佳さんには知らないことがまだいくつもあります。しかし、まだ時間が早い。もう少し待って下さい。」
「酒井さんがそこまで言うなら、、、。」
確かに私たちは子供。だけどもうこの大事なメンバーの一員なのに。きっともうすぐ全て教えてもらえるんだよね。
「すみませんね。では、本題です。」
「もう、雅人くんめぐって大騒ぎ!!」
「どういうこと?」
「今日、千尋様たちが話していたんだけどね。酒井先生を同じ時間に全く別の場所で見たって人がいたんですって。この前の朝から濃い霧で覆われてた日、千尋様が家の近くで見たんだけど、他の人が県外のデパートで話もしたって。」
「それってもしかして。」
「はい。恐らく千尋様の方は私でしょう。」
「見えたってことっすね。」
「その日ってあれよね。私たちが何もない空き地に一瞬コインタワーが見えたって言った。」
「と、いうことは、、、。」
「絶対指導者の支配が始まって世界間の境が無くなってきたと思うのが自然ですね。」
「でも同時に千尋様と話す機会が出来るということだわ。」
やっと糸口が見つかった。
そして室内であっても私たちの世界と同じ濃い霧に覆われるタイミングを見計らって千尋様の教室に行った。