千尋と知佳の共演
丁度千尋が駐輪場に自転車を置き終えた時、チャイムが鳴った。
駐輪場と教室棟の間は道路が挟んでいて、結構な距離がある。
教室棟が見えた時、千尋はある教室に向かって叫んだ。
「あっ、知佳ーおはよー!!無理、無理、間に合わないー!!」
千尋が手を振る先には、、、私がいた。
私と同じ名前で同じ顔で同じ背格好の女の子が千尋に呼ばれて、手を振り返していた。
「千尋!また遅刻ー!?まだ大丈夫だよ。走れー!!」
もしかして、いや、もしかしなくても、、、。
「酒井さん、あの人って私の主人だよね?」
「ええ、そうですね。当たり前ですが本当に同じなんですね。私のご主人様にも会えるでしょうか。、、、ところで知佳さん。」
「え、なに?」
「あなたは自分のご主人様にさえ敬語を使わないんですか?」
「だってさ――」
「だって、ではありませんよ。これからご主人様に接触する必要があるのです。徹底的に勉強するべきです。そうしなければご主人様に失礼ですからね。」
「そうかなー。でも、話してみたいな。」
「そうでしょう。では戻って勉強を始めましょう。」
「え、もう帰るの?」
「ええ。今日の目的は達成しましたので戻って次からの計画を立てるのです。」
「じ、じゃあもう少しだけ!!」
「ふう。仕方がないですね。本当に少しですよ。」
「やった。じゃああの教室まで行こう。」
そして私たちは彼女たちの教室まで飛んだ。
「アウトー!千尋、遅刻だよ。」
「、、、はあ、はあ。だから間に合わないって言ったじゃない。」
「最初から全力で走ってれば間に合ったよ。」
「そんなことない。あーもう、無駄な体力を使ってしまった。」
「またそんなこと言って。あ、先生来たよ。」
「なに!?先生まだだったの?なんだセーフじゃん。」
「牧野ー。またお前は遅刻か。」
「いえ。間に合いましたよ。」
「嘘をつくな。反対側の階段から見ていたんだ。」
「げっ。違うんですよ。来る途中で妖精を見つけたんです。2匹。それで不思議に思ってたら遅れたんですよ。」
え、妖精2匹ってもしかして私たちのこと?
「またそんな嘘を。高校生にもなって妖精なんて。」
なんだ。嘘だったのか。
「、、、嘘じゃないのに。家から着いてきてたんだって――」
千尋が小さく呟いた言葉は酒井さんしか聞いていなかった。