人間世界
「絶対指導者に反対している人たちがいるなんて知らなかった。けど何度かニュースになったみたいね。私、世の中のこと全然知らないのよ。あはは!!」
「「あはは、、、、。」」
本当、よく喋る人だな。
「、、、人間世界で私の子供に会えたらどんな子か教えてもらえる?」
牧野婦人はさっきまでとはまるで違い、とても寂しそうにそう言った。
そうだよね。当時の子供にかける想いは私には計り知れないほどだよ。いくら割り切ったって言っても親子になるはずだった子供に会える機会があるなら会ってみたいよね。
私は牧野婦人が我が子の成長を喜ぶ多くの母親と同じような眼差しで写真の女の子を見て、微笑んでいる姿が目に浮かんだ。
「ねえ、酒井さん。牧野さんも人間世界に行っちゃえば良いんじゃないの?」
「それはできません。もし私たちが人間世界に行ったことが絶対指導者に知られれば大変なことになります。そんなことに反絶対指導者主義者ではない牧野さんを巻き込むわけにはいきませんから。」
「あ、そっか。」
「では、そろそろ行きましょうか。」
酒井さんは部屋の明かりを消し、写真を落ちてきた場所に置いた。
すると次第に辺りの霧が消え、同時に自分の体が見えなくなった。
「何が起こったの!?ってか酒井さん、どこー!?」
「どうやらここが人間世界のようですね。」
思ったよりすぐそばから酒井さんの声が聞こえた。
「ここが人間世界?何もさっきまでと変わらないけど、、、。」
「そうですね。でもほら、霧がありません。霧は影が生きるために必要なものです。人間世界には霧そのものがないかもしれません。あくまでも推測ですが。」
酒井さんでもわからないことかぁ。そりゃそうだよね。人間世界に来るなんて世界初だもん。どんな文献にも書かれていない未知の領域だよー!!
「知佳さん、どうしたんですか?お互い姿が見えないんですから黙らないでくださいよ。」
「あ、ごめん。」
「とりあえず外に出ましょう。」
「はい。」