僕と幸せ
この物語を読むに時に読者の皆様に気をつけて頂きたい、事柄がある。この物語はアブストラクト、つまり抽象的な日常を描いた物語。いまある常識を全て捨て去り読むことを、強く推薦する。また残酷極まりない行動をとる主人公たちが許せない方々は読むことをオススメできない。
この物語に出てくる人物たちは少なからず精神的におかしく、読者の皆様に悪影響を及ぼす可能性もある、それでも「大丈夫だ、問題ない」という方はアブストラクトデイズをお楽しみ頂ければ幸いである。
※横にして読んで下さい!
寒い冬の事だった。
雪が降り積もり時間がたち氷になる、朝日に照らされキラキラと輝きながら車道に張り付いた氷。僕は家族と静岡県の旅行に来ていた、両親の運転する車の心地よい揺れに身を委ねながら、窓の外を見ていた。車の中は家族らしい話が続いていて楽しい一時を満喫していた、あともう少しで目的地の旅館に着く。そこで入る温泉やおもてなしの食事の数々をかってに想像したりもした。
車が赤信号で止まる、息を吐くと車の中でも白くなる、運転席の父がアクセルを踏み、助手席の母が地図を見るそんな姿を僕は後ろから、ただ見つめていた。信号が青になる父がブレーキを放しアクセルを踏んだその時だった、交差点の右側から大型のトラックが叫ぶようにして、凍った道路を滑り、僕が乗っていた車の前方部分にぶつかる。滑る勢いがかなり強く、トラックは僕の乗っていた車を押し進み、そのまま民家の塀にトラックごと突っ込んだ。
民家の塀にぶつかった瞬間、車前方部分が塀とトラックの間に挟まれる様にしてペシャンコになった。赤く生暖かい液体が僕に飛んできて、顔に付いた。血だ、血はほとんどが、潰れたフロントガラスに広がる様にして付着していた。もちろん僕にも大量に。僕は両親が絶命した瞬間を一生忘れる事はないだろう。おびただしい血の量、人はこんなにも、あっさり死んでしまうのだ。
葬式の時僕は、ただ喪失感に埋もれていて、誰が声をかけても返事をしなかった。親戚連中が集まって何か話し合いをしていたのは覚えてるけど、何を話していたか、理解する気力もなかった。しばらくして伯父が僕を引き取る事が決まった。伯父は東京都に住んでいて、僕は実家の茨城を離れることになった。
心に空いた穴、この穴を埋めていた両親はもういない、両親を奪った人間を憎いと思うのが普通だろうけど、僕はそんな事を思う暇すらなかった。早く新しい環境に慣れなければ、そういう事の方が自然に僕の中で優勢された。
東京都に移って、伯父の娘である年が一個上の、加奈子に出会う。小さな頃よく遊んだらしいが、覚えてない。正直伯父とは生活の習慣の違いや意見の食い違いなどがあって、仲は良くなかった。伯父と喧嘩した時いつも気を使ってくれたのが加奈子だった。東京都に移ってから唯一の心の支えだった。
それから二年が立って高校一年になった頃、僕は一人暮らしを始めた、加奈子にお礼を言った後、家出て
高速道路の横のマンションの五階の狭いワンルームだけど、充実した生活は送れそうだ。
「アズ、本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ、かなねぇ僕は男だよ? 本当にありがとうね」
「困った事があったら何時でも言ってね」
狭いワンルームの一室、荷物を下ろして家具をチェックして、僕は早く寝ることにした、東京の夜は田舎と違って騒がしい、マンションのすぐ隣が高速道路という事もあって、仕方ないと思った。部屋に布団を敷き、布団に入る前に扇風機を切る。明日から新しい一日が始まる。
暑い夏、七月十一日のことだった、朝起きて制服にいつもなら着替えるが、僕はそうしなかった。理由は分からないが、体が疲れ切った感覚が残っていた。まるで大量の本を背中に乗っけられている様な体の重さ、僕はその日学校に行かなかった。行かないまま数日経ち夏休みになっても、体のダルさは抜けなかった。
「あーうー畜生」
部屋で扇風機が何度も首を振り、風が当たる度に少しだけ涼しいのを実感できる。なんとか体を起こし窓を開けて日の光を浴びて体をリセットする。眠い目をこすり今度は私服に着替える、黒いシャツに普通のジーンズ、変わった特徴のない私服だ。そして部屋の机に置いてあるノートパソコンを立ち上げた。
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奈落「ういーす」
正和「オハヨー、一人暮らしはじめてから、学校にロクに行ってない」
奈落「いけよw」
正和「体が動かないんだ!」
ペルシャン「あなたは今パソコンをしているつまり体は動く」
奈落「動いてるよね普通に」
正和「言い方を変えよう、外に出るほど元気がない。」
ペルシャン「外ね、夜の外出は控えた方が最近はいいよ東京」
奈落「なんで?」
ペルシャン「通り魔がでるんだって」
正和「あー、テレビのニュースで今やってる」
奈落「ナンチャン?」
正和「フジテレビ」
ペルシャン「本当だ、もう10件目だよ」
奈落「近い地域みたいだね、同一犯の可能性ありか」
正和「おー(^ω^;)怖い怖い」
奈落「いま詳細ググったら、現代のジャックザリッパーなんて言われてる」
ペルシャン「マジ?wそりゃすごいな」
奈落「証拠一つ残らない、必ず首を一閃!かっこいい!」
正和「かっこいいのか?www」
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チャット画面を閉じて、完全に目が覚めた僕は、マンションの外に出た。外は太陽の光が肌にジリジリと焼け付く様に刺す、ものすごい暑さだ。東京に来て二年近く経つが未だに、土地勘が付かない。移動にはほとんど電車を使用する為か、歩いての移動は苦手だ。
気まぐれで普段使わない道のりで駅に行こうとする、ビルに挟まれた細長い一本道が続く。人々はなるべく日陰を歩くようにしていた、暑さに身を焦がされ、魂が抜けたように歩いていたら、秋葉原という標識のたった駅に付いた。言わずと知れたオタクの聖地、前々から少し興味があったから寄ってみることにした。
数時間後。
「迷った」
駅から電気街に行く途中で、見事に迷い、疲れ果ててしまった。汗がゆっくり体を伝って、アスファルトの地面に染み込む。額の汗をハンカチで拭い、近くの若林公園という、公園で休む事にした。日陰があるベンチに座る。
携帯を開き今日の気温及び天気を調べた。
「最高気温35度、一週間は晴れか。ヤレヤレ地球温暖化は深刻だな。」
公園は風通り良く木が揺らめくたびに風が自分の体に当たり涼しかった。しばらくして、公園の入口に人が倒れているのが見えた、長袖長ズボンしかも熱を吸収し易い黒色。髪はショートヘアで仰向けに倒れていた為、すぐに女の子であることがわかった。後、気になるのは眼帯だった、怪我でもしているのだろうか。とりあえず声を掛けた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題ない」
最近ネットで流行った流行語を使い、女の子は答えたが仰向けに倒れたまますごい汗で、起きる気配がまったくない。
「あーもう大丈夫じゃない、大問題だ。涼しい場所に連れて行くからそこで休め」
「くぅ…頼む」
若干呼吸が荒い女の子を抱きかかえて近くの、ゲームセンターに入ったそれなりに涼しい。女の子をゲームセンターの中のベンチに座わらせる。しばらくすると、目を開いて立ち上がった。
「感謝するぞ、愚民よ我を助けた事誇りに思うがいい。」
ああ、こいつ厨二病だ。激しく関わりたくない、僕は足早にその場を立ち去ろとするが服を引っ張られた。勘弁してくれ。
「あの…い、いや貴様名をなんと言う?」
「成瀬東」
「なるほど、良い名だな」
意外にまともな質問だ、喋り方は厨二病患者だが。
「私の名前は、ナイトシーカークエスだ」
うわ、絶対違う。絶対偽名だ、ヤレヤレこういう人間は初めてだ、どうしたらいいんだ? 僕はとりあえず帰りたかった。
「待て、アズよ」
いきなりあだ名ですか、本当に勘弁してくれと思いつつも、振り返ってしまう。
「我は貴様に、その…だな…礼がしたい、だから少し付き合え。」
「礼? 礼なんて僕はいらないよ」
「いや、させろ させて下さい!」
いきなり敬語になった、まぁここまで言われたらさすがに僕も引く事はないだろうと思い、クエスという偽名の少女にしばらく付き合うことにした。
クエスは僕の頼みなら今日は何でも聞くと言うが、今はとりあえずゲームセンターに来ているので何かワンプレイ奢ってもらうことにした。
アーケードゲームの格闘ゲームで今はやっぱり熱いのは、ブラックブルーだ。ブラックブルーとは初心者でものめり込み易い操作システムやストーリーの面白さ、キャラの個性を生かした多種多彩な自由戦闘ができる、超人気2D格闘ゲームである。人気なだけあって台の乱入率も非常に高い、ここは秋葉原ということもあって上級者が互いに腕を競いあっている。
「おい、あの眼帯の子レジェンドじゃないか?」
見知らぬオタク達が騒ぎだす。クエスはどうやら有名人のようだ。
「愚民たちよ! 台を開けるのだ!」
「はい!」
ブラックブルーをプレイしていたオタク達が揃って返事をする。その光景はかなりシュールで全員揃った動きで台を開けた。
「クエス、なんかこいつらの弱みでも?」
「いや、我はここで最強なだけだ。ここでは、強者が絶対であり弱者は強者に服従しなければならない」
秋葉原にはそんな掟があったのか、恐ろしいな。僕はそんなどうでもいい事をすぐに忘れプレイする、使用キャラクターは「カザマ」
さぁ始めよう、だが秋葉原の格闘ゲームの本質は乱入だ、乱入者が来なければつまらない。そこで僕はクエスに相手を頼んだ。
「おい、クエス相手頼む」
場が一瞬静まり返り、そしてまた一気にざわめきだす。
「おい、あいつ正気か?」
「相手はレジェンドだぞ、かなうわけない」
オタク達の鬱陶しい声、彼らの様子から察するにクエスは相当強い。楽しめそうだ。
「我に挑んだ事を後悔するんだな、アズ」
「使用キャラクターはラダナか、悪いが最初から僕は本気でやらせて貰う」
カズマVSラダナ 勝負は三本先取
ラウンド1 ファイト。
「おい、レジェンド押されてないか?」
「まさか、本気は三本目からだろ」
「三本目が始まるぞ!」
数分後三本目の勝負、僕のカズマの勝利が決まったそれもアブストラクトフィニッシュと言う、超必殺技で。
「私が負けた! なんで! どうして!」
「クエスは十分強かったよ」
「何が強かったよだよ! 三本パーフェクトじゃないか! しかもアブストラクトフィニッシュって」
周りで見物していたオタク達が驚いた表情で僕を見る、今まで自分たちが慕っていたレジェンドが負けた、クエスが負けた。泣き出す奴もいれば、僕を憎しみの表情で見る奴もいる。
「そんな、レジェンドが負けた」
「あいつ何者だ?」
「レジェンド…」
クエスが地面にガックリと膝を落とし僕を見る、強者は絶対の掟があるのを僕は思い出す。
「我の負けだ、煮るなり焼くなり好きにしろ。」
「別にどうもしないけど…いや、じゃ僕にもう少し付き合ってくれる?」
クエスは一瞬キョトンとした顔で僕を見てから立ち上がる、そして僕が連れて行ったのは、プリクラコーナー。色んなプリクラが並ぶ中コスプレ専用機を選び、クエスにコスプレさせる。
「着替え終わったぞ」
「おお、コスプレだ、この町に来てからコスプレ一度も見てなかったんだよね」
クエスが選んだコスプレの服は某電子のアイドルのコスプレ。分かる人は分かるよねー!
オタク達が一瞬にして集る、この光景もまたシュール。だがクエスはいま完全に僕が独占状態、オタク達の目が怖い。
「くそう! リア充め!」
「俺達のレジェンドになんてことを!」
「けしからん! いいぞーもっとやれ。」
「この中にカメラ小僧はいないのか!」
なんと言うかオタクが怖くなった、この人達未来に生きてるなぁ。プリクラの撮影ポイントに入る。照明の光が若干眩しい。
「クエス、プリクラ初めて?」
「初めてだ、友達とかいないから」
なんと言うか不憫な子だな、眼帯とれよ
「クエス笑って!」
「え? こうか?」
写真がしっかり撮られラクガキコーナーへ移る、ラクガキコーナーで顔にいたずら。
「くははは、貴様の顔などこうしてくれる!」
「あーやったなぁー、ならクエスはこうだ! あはははは」
意外にクエスも女の子らしく笑える、今気づいたクエスかなり可愛い。
「最後の一枚だ」
「最後の一枚だね、ラクガキせずにこのままにしておこう」
「なぜだ?」
「クエスが可愛いく写ってるから」
クエスの顔が赤くなり耳まで、真っ赤になる。ほう、こいつ意外に照れ屋なのか。
「な、なにを 私が、可愛い訳ないわよ」
「喋り方が普通に戻ってる」
「あ~もう、貴様は黙っていろ」
なぜか、怒られた。まぁいいだろう今日はかなり充実した時間が久しぶりに過ごせたし、楽しかった。
クエスと二人でゲームセンターの外に出る、大分時間が経ってしまっていて日はとっくに沈みかけ、空は紫色に染まっていた、車の騒音が車道から聞こえる、どうしてもあの日の事が忘れられない。いや、きっと忘れてはいけないだろう。
「気分でも悪いのかアズ?」
「いや、なんでもないよ僕は平気」
クエスが気を使ってくれた、ちょっと嬉しい。
「貴様、夏休みは暇か?」
「まぁ暇だよまだ高校二年だし」
「なら我らが、サークルとやらに明日くると良い!」
「へぇクエスはサークルに入ってるんだ、どんなサークル?」
クエスは眼帯をとり怪しいポージングをとりながら語りだす。眼帯が外れて見えた瞳は青く光っていた。
「我がサークルの名はアンデッドヒーローズ、普段は同人誌や同人ゲームを作っているがそれは世を忍ぶ仮の姿! 本当の目的はこの東京にはびこる怪事件を解決する英雄の集まりだ!」
「なるほど、わからん」
適当な返事をする、だがどうせ夏休みは暇だから、顔を出して見るのもいいかもしれない。
「まぁ楽しめそうだから明日覗いてみるよ!」
「ならば貴様にこれを渡そう」
そう言って、クエスは僕の手に何かを手渡した。地図のようだ、分かりにくい字が汚い、ものすごく見ずらい。
「じゃまた明日」
「フフフ、待っているぞ我が同士よ」
日が完全に沈み、夜になる。この世に神様なんていない、だから人生は楽しい、たとえどんなに辛い事があろうと、自力で乗り越えた先にきっと幸せは待ってるんだ。こんな事を家に帰りながら考える僕を人は夢の見過ぎと、笑うかも知れないだけど、僕は今日とっても楽しかった。
家に着く、今日はもう疲れたから風呂に入って早く寝る事にした。繰り返し思う、今日は楽しかった。
夢の中は自由だ、楽しくて、自分の思うように物を変えたり出来る。故に行き過ぎた夢を見る事もある、だけど朝に起きれば全てはなかった事。全てはチャラになるのだ。さぁ今日はどんな夢を見れるかな、今日会ったクエスの夢、明日の想像、どちらも楽しい夢には変わりないだろう。
ポケットの内側に何か固い物が入ってる、取り出して強く握るとするどく光るナイフの様な刃がでる、今自分が立ってるのは暗い夜道で、人の気配がまったくしない、右手でナイフを持って走り出す、暗い道の先に人がいる。右手が勝手に動いて、一瞬で何かを切った感触全身に伝わる。いい、気持ちいい、そうだ次はあいつ! あいつを!
「うわぁぁ!…夢か、最近こんな夢ばかりだな、最近体がだるいのは夢のせいか、もっと楽しい夢がいいのに。」
また静かに狭いワンルームの一室で眠る、高速道路の車の騒音が部屋に漂う。
記念すべき二作目です。これからも頑張っていきます。