孤高の兵士
45分後、魔王の城から北西に約2200メートルの森、補給地点
ユートSIDE
「というわけで、あんたは異世界に飛ばされたってわけ。」
俺は今PC(ノートパソコン型)の画面に映っている男、というよりも少年とビデオチャットをしている。
この少年は15歳くらいに見える。
ぼさぼさの黒い髪に、黒い瞳。いたずらっ子のような笑みを浮かべていて、だぼだぼのジャージを着ている。
「つまりお前は、作戦のために用意された補給地点(補給物資がそこらへんに積み上げられている簡素なもの)で寝ていた俺『ユート・ケーニッヒ』は、その補給地点ごと異世界に飛ばされた。しかも、この世界はある国と複数の国からなる連合軍が戦争中でここから南東に1キロほど行ったところにある城では今にも決着がつきそうになっていると。それにお前は俺をサポートするために神から派遣されたオペレーターだって。そんなこと言われて信じられるわけないだろ。」
俺の状況はしゃべった通りだ。
軍から命令を受け、敵基地に一人で突撃。無事に主要目標を破壊し、次の任務である重要人物の拉致のための武器や弾薬などの用意された補給地点に移動。そこにあった移動用のヘリの中で寝ていた俺は緊急用の通信を意味するアラームで飛び起きた。急いで連絡用のPC を起動させ回線を開いたらこいつが笑いながら突拍子もないことを語りだしたというわけだ。
「そうだよね~。信じられるわけないよね~。でも、事実だから。」
自称オペレーターの男はそれまではにやにやと笑っていたのに、いきなり真剣な表情で、俺を見つめてきた。
「真実が知りたいのなら双眼鏡か狙撃銃のスコープを持って、南東の方角に行ってきなよ。兵士たちの使っている武器を見れば納得するさ。おもしろいものも見られるだろうしね」
少年の言葉が頭の片隅に引っかかった。
俺がこの少年の言葉を否定していた理由はいろいろある。常識的に考えてありえないというのが一番大きいのだが、次に大きな割合を占めているのが『音』だ。
仮に、戦闘が行われていたとしてもたかが2キロほどしか離れていないのだ。戦車砲にしろ、追撃砲にしろ、何か『音』が聞こえてくるはずである。だがここら辺一帯は静かだ。さっきも鳥の鳴き声がこだましていた。ここが戦場の近くなら鳥の鳴き声など聞こえるはずがない。歩兵だけの可能性は低いだろう。戦場は城で、しかも決着がつきそうということなら出し惜しみするはずがない。すべての兵器を投入するはずだ。
そう考えて、男の言葉を否定していた。
だが、男の言うとおりここが異世界ならば武器が一緒とは限らないのではないか?
銃以外の………たとえば、剣や弓のような昔の武器の可能性もある。
推測するだけではらちが明かない。
確かめてみるか。
機内に転がっていた双眼鏡をウエストポーチの中に入れる。椅子の上に置いていた拳銃『デザートイーグル50AE』をホルスターに入れ、腰に下げる。そして、弾薬箱からデザートイーグルのマガジンも6つウエストポーチの中に入れる。一つのマガジンに弾は7発ずつ、銃自体に7+1発入っている。合計50発だ。あと、接近戦用にサバイバルナイフを腰に装着する。
俺は基本的に野戦服を着ない。市販されているワイシャツに暗めのズボン。そのうえから、オーダーメイドの黒を基調としたコートを着るのが俺の服装だ。このコートは軍服にデザインを似せている。だが、軍服の数倍動きやすく作ってある。ボタンは目立たないように黒いものを使っている。
別にこの服装はファッションを意識しているわけではない。
敵基地などの潜入ミッションの時や、夜間の視認度を下げるためである。
だが、昼間は逆に視認度が上がってしまう。しかし、基本的に昼間は敵に見つかる前にこちらが見つけて殺るので問題がないのだ。危ない目にあったことも1度や2度ではないが。あと俺が明るい色をいやだということもある。
この服は動きやすさを優先させているのでマガジンをいれるための場所があまりない。なので、軽装備の時はウエストポーチを数個。重装備の時はそれプラス、バックパックを使う。水や食料は基本現地調達している。理由はそんなスペースがあるならマガジンを入れようと思ってしまうからだ。さすがに砂漠では無理だったが。
今回はただの偵察だ。なら、ウエストポーチひとつで十分だ。
ウエストポーチを身に着け、PCの電源を落とそうと近づく。いつ充電できるかわからないのだから節電したほうがいいという判断だ。
だが、その考えは自称オペレーターの声によって阻まれてしまう。
「あっ、行くの?って、待った、待った!このPCは切らないで!」
「なぜだ?PCのバッテリーだって無限ってわけじゃな―――」
「大丈夫だから!そのPCは連絡用に絶対にバッテリーが無くならないようになっているから!バッテリー
残量のところをみればわかるよ。」
バッテリー残量?
疑問に思いアイコンに目をやるとおかしなものが目に飛び込んできた。
普通、バッテリー残量を表すアイコンは電池の形をしているはずだった。だが、俺の目に飛び込んできたのは無限を表す『∞』だった。
「ふふん。すごいでしょう。神からの使いっていうのは伊達じゃ―――」
パタン。
面倒になったので、PCを閉じた。バッテリーが本当になくならないのかどうかはわからないが、いつまでもあいつに取り合っている必要はない。電源を落としたわけじゃないし別にいいだろう。
電源を切らないでくれと言っていたことは少し気にかかったが俺はヘリを離れ、南東の方角へ向かった。
今回出てきたユートが主人公です。
自称オペレーターの彼はユートの悪友的存在?になる予定。名前の公開は結構後になるかもしれません。