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二匹の羊と一匹の山羊

作者: 手嶋田 過完
掲載日:2026/05/17

あるところに、二匹の羊がいました。


一匹は普通の白い毛を持っていました。

でも、目の色だけは緑色でした。


もう一匹は普通じゃない黒い毛を持っていました。

しかも、目の色が空色だったのです。


白い羊はお兄ちゃん、黒い羊は妹でした。

二匹は毛の色も目の色も違うけど、一つだけ同じものを持っていました。

それはぐるぐるした角です。


二匹は群れから離れて暮らしていました。


妹羊は言いました。

「二匹でいれば、怖くないね」






あるとき、二匹は不思議な羊と出会いました。


その羊は灰色の目とピンク色の毛を持っていたのです。

しかも、角がぐるぐるしていなかったのです。

おまけにあごにヒゲが生えていました。


その羊は言いました。

「僕は山羊だよ。お前たちみたいな羊とは違うんだ」


二匹はびっくりしました。

羊とそっくりだけど、山羊は一人が好きで怒りっぽい、なんだか嫌なやつ。

群れにいたときにそう教わったからです。


ピンクの山羊はすぐに高い山を登っていってしまいました。


二匹の羊は山羊のことが気になってしまいました。

それでも追いかけることはできませんでした。

羊は高いところに行ってはいけないのです。


それでも気になったお兄ちゃん羊は、妹羊が昼寝をしているときに、こっそり山を登ってみました。


お兄ちゃん羊は、すぐにピンク山羊を見つけました。


ところが、なんだか様子が変なのです。


ピンク山羊は泣いていました。

「寂しいよぉ、寂しいよぉ。一人は怖いよぉ」


お兄ちゃん羊はゆっくりと近づきました。

「そんなに泣いちゃって、どうしたの」


お兄ちゃん羊が声をかけると、ピンク山羊はびっくりして泣くのをやめました。


ピンク山羊は怒りました。

「羊なんかに泣いてるところを見られた!僕は孤独を愛する山羊なのに!」


お兄ちゃん羊は不思議に思いました。

「山羊は一人が好きって聞いてたけど、なんだか君は違うみたい」


お兄ちゃん羊は言いました。

「おれは羊だけど、高い山が好きだよ。だから、山羊の君が孤独を怖がるのは変じゃないよ」


ピンク山羊はその言葉に嬉しくなって、お兄ちゃん羊についていきました。






妹羊はびっくりしました。

昼寝をしている間に、お兄ちゃん羊がピンク山羊をつれてきたからです。


でも、すぐに妹羊はピンク山羊と仲良くなりました。

妹羊も一人が怖かったからです。


ピンク山羊も妹羊も、お互いが大好きでした。


お兄ちゃん羊はほっとしました。

寂しがりやの妹羊は、もうお兄ちゃん羊がいなくても大丈夫だからです。

妹羊のそばには、同じ寂しがり屋のピンク山羊がいつもいます。


お兄ちゃん羊は、夢の中でこっそり祈りました。

「神様、どうかあいつを羊にしてください」


ピンク山羊は山羊よりも羊が似合っているのです。

本当は高いところは苦手だし、寂しがりやなのです。


しかも、山羊と羊が一緒にいると、何も知らないやつらが馬鹿にしてくるのです。

優しいピンク山羊と妹羊を傷つけたくありません。


お兄ちゃん羊がそう考えていると、本当に神様がやってきました。

「その願いは叶えてあげましょう。でも、一つだけ条件があります。ピンク山羊を羊にする代わりに、あなたが山羊になりなさい」


お兄ちゃん羊はうなずきました。






朝、いつも通り起きた妹羊は驚きました。

隣で寝ているピンク山羊が、羊になっていたからです。


ピンク山羊のまっすぐだった角はぐるぐるになり、あごひげはすっかりなくなっていました。


妹羊は慌ててピンク山羊を起こしました。


起こされたピンク山羊も、自分の変わった姿を知らされて驚きました。

そして、お兄ちゃん羊に自分が羊になったことを伝えようとしました。


ところが、お兄ちゃん羊の姿が見つかりません。


妹羊はあちこち聞いて回りました。

「緑の目に白い毛の羊を、知りませんか。わたしの大事なお兄ちゃんなんです」


ピンク羊もあちこち聞いて回りました。

「緑の目に白い毛の羊を、知りませんか。僕の大事な友達なんです」


誰かが答えました。

「羊じゃなくて、山羊なら見たよ。緑の目に白い毛の山羊なら、あそこの山にいたよ」


妹羊とピンク羊は言われた通りの高い山に登りました。


すると、そこには確かにお兄ちゃん羊がいました。

でも、その角はまっすぐで、あごにはヒゲが生えていました。


お兄ちゃん山羊は言いました。

「おれはもう山羊になったから、君たちとはいられない。おれは一人が好きだから、どこかにいってくれ」


妹羊とピンク羊は言いました。

「だったら、どうして泣いてるの」


お兄ちゃん山羊の目からは、涙がこぼれていました。


お兄ちゃん山羊は、また言いました。

「おれは一人にならなきゃいけないんだ」


そして、お兄ちゃん山羊はずっとずっと遠くに走っていきました。

もう二匹の羊に会わないように。






一匹になったお兄ちゃん山羊の目からは、涙がもう流れませんでした。

お兄ちゃん山羊は呟きました。

「ああ、おれには山羊が似合っていたんだな」

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