二匹の羊と一匹の山羊
あるところに、二匹の羊がいました。
一匹は普通の白い毛を持っていました。
でも、目の色だけは緑色でした。
もう一匹は普通じゃない黒い毛を持っていました。
しかも、目の色が空色だったのです。
白い羊はお兄ちゃん、黒い羊は妹でした。
二匹は毛の色も目の色も違うけど、一つだけ同じものを持っていました。
それはぐるぐるした角です。
二匹は群れから離れて暮らしていました。
妹羊は言いました。
「二匹でいれば、怖くないね」
あるとき、二匹は不思議な羊と出会いました。
その羊は灰色の目とピンク色の毛を持っていたのです。
しかも、角がぐるぐるしていなかったのです。
おまけにあごにヒゲが生えていました。
その羊は言いました。
「僕は山羊だよ。お前たちみたいな羊とは違うんだ」
二匹はびっくりしました。
羊とそっくりだけど、山羊は一人が好きで怒りっぽい、なんだか嫌なやつ。
群れにいたときにそう教わったからです。
ピンクの山羊はすぐに高い山を登っていってしまいました。
二匹の羊は山羊のことが気になってしまいました。
それでも追いかけることはできませんでした。
羊は高いところに行ってはいけないのです。
それでも気になったお兄ちゃん羊は、妹羊が昼寝をしているときに、こっそり山を登ってみました。
お兄ちゃん羊は、すぐにピンク山羊を見つけました。
ところが、なんだか様子が変なのです。
ピンク山羊は泣いていました。
「寂しいよぉ、寂しいよぉ。一人は怖いよぉ」
お兄ちゃん羊はゆっくりと近づきました。
「そんなに泣いちゃって、どうしたの」
お兄ちゃん羊が声をかけると、ピンク山羊はびっくりして泣くのをやめました。
ピンク山羊は怒りました。
「羊なんかに泣いてるところを見られた!僕は孤独を愛する山羊なのに!」
お兄ちゃん羊は不思議に思いました。
「山羊は一人が好きって聞いてたけど、なんだか君は違うみたい」
お兄ちゃん羊は言いました。
「おれは羊だけど、高い山が好きだよ。だから、山羊の君が孤独を怖がるのは変じゃないよ」
ピンク山羊はその言葉に嬉しくなって、お兄ちゃん羊についていきました。
妹羊はびっくりしました。
昼寝をしている間に、お兄ちゃん羊がピンク山羊をつれてきたからです。
でも、すぐに妹羊はピンク山羊と仲良くなりました。
妹羊も一人が怖かったからです。
ピンク山羊も妹羊も、お互いが大好きでした。
お兄ちゃん羊はほっとしました。
寂しがりやの妹羊は、もうお兄ちゃん羊がいなくても大丈夫だからです。
妹羊のそばには、同じ寂しがり屋のピンク山羊がいつもいます。
お兄ちゃん羊は、夢の中でこっそり祈りました。
「神様、どうかあいつを羊にしてください」
ピンク山羊は山羊よりも羊が似合っているのです。
本当は高いところは苦手だし、寂しがりやなのです。
しかも、山羊と羊が一緒にいると、何も知らないやつらが馬鹿にしてくるのです。
優しいピンク山羊と妹羊を傷つけたくありません。
お兄ちゃん羊がそう考えていると、本当に神様がやってきました。
「その願いは叶えてあげましょう。でも、一つだけ条件があります。ピンク山羊を羊にする代わりに、あなたが山羊になりなさい」
お兄ちゃん羊はうなずきました。
朝、いつも通り起きた妹羊は驚きました。
隣で寝ているピンク山羊が、羊になっていたからです。
ピンク山羊のまっすぐだった角はぐるぐるになり、あごひげはすっかりなくなっていました。
妹羊は慌ててピンク山羊を起こしました。
起こされたピンク山羊も、自分の変わった姿を知らされて驚きました。
そして、お兄ちゃん羊に自分が羊になったことを伝えようとしました。
ところが、お兄ちゃん羊の姿が見つかりません。
妹羊はあちこち聞いて回りました。
「緑の目に白い毛の羊を、知りませんか。わたしの大事なお兄ちゃんなんです」
ピンク羊もあちこち聞いて回りました。
「緑の目に白い毛の羊を、知りませんか。僕の大事な友達なんです」
誰かが答えました。
「羊じゃなくて、山羊なら見たよ。緑の目に白い毛の山羊なら、あそこの山にいたよ」
妹羊とピンク羊は言われた通りの高い山に登りました。
すると、そこには確かにお兄ちゃん羊がいました。
でも、その角はまっすぐで、あごにはヒゲが生えていました。
お兄ちゃん山羊は言いました。
「おれはもう山羊になったから、君たちとはいられない。おれは一人が好きだから、どこかにいってくれ」
妹羊とピンク羊は言いました。
「だったら、どうして泣いてるの」
お兄ちゃん山羊の目からは、涙がこぼれていました。
お兄ちゃん山羊は、また言いました。
「おれは一人にならなきゃいけないんだ」
そして、お兄ちゃん山羊はずっとずっと遠くに走っていきました。
もう二匹の羊に会わないように。
一匹になったお兄ちゃん山羊の目からは、涙がもう流れませんでした。
お兄ちゃん山羊は呟きました。
「ああ、おれには山羊が似合っていたんだな」




