乙女ゲームのモブに転生したので、悪役令嬢と仲良くしていたら展開が変わったようで…?【2000文字】
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「はじめまして、マチルダと申します。あなたのお兄様と婚約することになりました」
に、兄様の顔立ちが整っているなあと思っていたら、ここ乙女ゲームか…!
私は、ジャネット。
攻略対象者の兄様の妹なんだけどぉ…、知らないキャラだしモブに転生したみたい。
妹の私に挨拶するマチルダは、可哀想なくらい表情が抜け落ちていた。
マチルダは、このゲームに数名いる悪役令嬢のうちの1人だ。
家族から政略結婚の駒扱いのマチルダは、誰の愛情にも触れることなく育つ。
婚約者ならもしかしたら愛してくれるかもしれないという淡い期待は打ち砕かれ、ヒロインに奪われ、自暴自棄になってヒロインを殺そうとする。
それは未遂で終わるんだけれど、一家没落、修道院エンドを辿る、というキャラクター。
なんか、うちの兄がすみませんんんん!!!!
マチルダと目が合っているはずなのに、焦点が合っていない気がする。
兄様が捕まえておかないなら、私が仲良くする…!
気づいたら、マチルダの手を取っていた。
「私、お姉様が欲しかったの!マチルダ様、姉様って呼んでもいいですか?」
無言のままのマチルダの目が僅かに見開かれて、コクリと頷いてくれるのだった。
「姉様、私ともお茶してください」
「姉様、一緒に人形遊びしませんか」
「姉様、今日は庭を散歩しましょう」
婚約者の義務で兄様に会いに来る日は、毎回マチルダを誘いに行った。
手を引いて、屋敷中を連れ回した。
雑談もしなかったマチルダが、私とは話してくれた日には、夜こっそり泣いた。
時々笑ってくれるようにもなった。
ゲームの中では兄様が『あいつは感情がないから、一緒にいてもつまらない』って言ってたっけ、じゃあお前が寄り添えよ…!
「ねえ、ジャネット。私、学園に行くのが今から不安なの」
いつものように兄様抜きでお茶をしていた時、マチルダが突然そう言い出した。
え、入学前から何か感じているの…?
乙女ゲームの舞台である学園は、ヒロインが当たり前にいる生活の始まりだ。
私が入学できるまであと2年。
そばにいられないから、私もすごく不安だし、なんかザワザワする…。
「私うまくやれるのかしら…」
「姉様なら大丈夫だよ!」
「…ジャネットが一緒だったら心強いのにね」
「じゃあ、私に手紙を書いてよ!全部返事書くから!」
私の言葉に弾かれたように顔を上げて、心配の滲んだ笑顔を見せた。
「ありがとう、何かあったら話聞いてくれる?」
「姉様のことならなんでも知りたいから、いっぱい教えてね!」
とは言ったものの、一通目の手紙から頭を抱えることになるとは…。
『ジャネットへ
お友達ができたわ。特待生で平民のアリスさんという方が私と一緒にいてくださるの。
とっても可愛くて、まるでジャネットみたいなの。
アリスさんがたくさんのお友達を連れてきてくれるから、毎日賑やかよ。』
そのほかに羅列してあった友達の名前は、全員悪役令嬢たちだった。
ヒロインと悪役令嬢仲良しうふふ学園生活だと…!?
『ジャネットへ
最近王太子殿下やあなたのお兄さんが、アリスさんを独占しようと躍起になっているの。
でもアリスさんはすごく嫌がっていて。
だから、女性陣で固まるようにしているんだけれど…。
どうやって断るのが正解なのかしら、アリスさんが不憫だわ…。』
攻略対象者と拒絶するヒロインと、そのヒロインを守る悪役令嬢。
それはすごい見たいけど、実は乙女ゲームじゃないとか…?
『ジャネットへ
アリスが言い寄ってきた男性陣を全員蹴散らしたわ!
すごくかっこよかったの、あなたにも見せたかったわ!
アリスってなんでもできるのに、驕っていなくて、彼女のお友達として恥ずかしくない自分になろうと思えるの。
アリスがいたら、私なんでもできる気がするの!』
悪役令嬢がヒロインの信者へと進化した…。
ヒロイン神格化系ストーリー?
…それにしても、アリスのことばっかりだな。
私のことは、何も訊いてくれない。
それ以降の手紙の内容は、全部アリスだった。
学園に通うまでは、「ジャネット、ジャネット」って私のことを呼んでくれていたのに。
胸の中が、黒く燻っていくのがわかった。
ようやく私も学園に入学できるようになって、いの一番にマチルダに会いに行った。
マチルダは女の子たちに囲まれていて、その中でヒロインと腕を組むほど近い距離にいた。
それを見た途端、視界が揺らぐほど強烈に血が上った感覚がした。
「あら、ジャネ…」
「姉様に触らないで!私の姉様なんだからっ!」
そう言って、気づいたら初対面のヒロインを払い除けていた。
ヒロインは目をパチパチさせて混乱している。
他の悪役令嬢も同じような感じで戸惑っている。
マチルダだけは、悲痛な色の目で私を見下ろしていた。
「ジャネット、どうしたの…。気に食わないからってそんなことしてはダメよ?」
はじめて会った時のような怯えている顔のマチルダに、何かを悟った気がした。
…ここ、ちゃんと乙女ゲームの世界だ。
私が、『悪役令嬢』だったんだ。
了




