【04】小さな旅の始まり
「シュンヤ起きて。」
宿のベッドは柔らかい。
昨夜宿で二人それぞれ部屋を取った後、
俺は枕に頭がつくとあっという間に寝込んだ。
今朝もリアが起こしてくれていて、どうやら彼女は早起きの習慣があるらしい。
俺も見習わないと。
「今日は依頼を受けに行くよ——昨日換金する時、サリアから打診があったの。」
俺たちはギルドに向かっている途中。
サリアってあの受付嬢の名前だっけ。
「商人の護衛だそうよ。この季節であちこち魔物が活発して、特にリート村への道はあまり使われていないから、すっかり魔物の巣になったみたい。」
「リート村もまた辺鄙な村で、報酬もそこまで高く出せないから、他の冒険者は受けてくれなくて困ってるだって。サリアも手を焼いているみたいだわ。別にシュンヤは今金に困っているわけではないでしょ?」
「ああ、そうだ。困っている人がいたら力になりたい。この借り物の強さを他に活かせる方法もないしさ——何より、白金貨の換金であの受付嬢にはご迷惑をかけたしな。」
恩を受けたら恩で返す。
力があればいつかこういう大人になりたいってずっと思ってた。
「ふん、いいこと言うようになったじゃない。」
あれこれ会話を続いていて、まずギルドで依頼を受け、依頼人の方へ向かう前、俺は装備を整いたいと言い出した。
「…なによそれ。」
甲冑を身にまとう俺を、リアは半目で見た。
「そりゃ、俺の防御力が一桁足りないぐらい低かったから、このぐらいにしないと心もとないからな。」
思考加速も継続時間は具体的にどのぐらいあるのか分からないし、
万が一肝心なところで切れてしまったら即あの世行きだ。
神様のノルマを達成してあげたいのはやまやまだが、
俺はもう少しリアと一緒にいたい。
せっかく仲良くなったしな。
なにより、神様から頂いた装備は強すぎるので、依存してしまうと一生本当の意味で強くなれないと思う。
「でも俺はパワーバランサーというエクストラスキルがあるから、この良さげな剣さえあれば素早さもそんなに低くならないよ。」
別に素早さを借りて攻撃力を底上げしなくても、逆手にとって攻撃力を借りて素早さを保つのも手だ。
店主の得意作だそうで、試し斬りもしたから、確かに業物だった。
値段はやすくないが、今の俺には問題ない。
俺が思うに、男にはあっても使ってはいけない金と、なくても使うべき金、二種類がある。
俺は今こそ後者の場合だと思うので、気前よく購入したのだ。
「それにリアだって、前衛がほしいって言ってたでしょ?」
「はあ…そうだけど。」
リアは深く嘆いた。
「…シュンヤは暗殺者じゃない?今は暗殺者のあの字も見えないわ。」
「でも暗殺者だって色々あると思うのだ。敵が気が付く前に倒せば立派な暗殺者だと、私は思うぞ。」
「いいこと言ったつもりだろうが屁理屈ね。やっばシュンヤの常識は斜め上にイカレているわ。」
リアもなんだかんだ言って結局俺を止めなかったし、
その言葉は褒め言葉として受け取ろう。
依頼人のところに着くのは昼頃。
前にも聞いたが依頼人は獣人族らしい。
獣人族って、オークとどんな関係なんだろ…オークはうまかったし…
いやこれは深く考えっちゃいけないことだ。
などと変なことを考えながら、俺の前にいるのは小柄で、栗色の短髪しているケモミミ女の子である。
詳しく言うと犬類の耳に見える。
うーん。
そういうことか?
獣人族は獣の一部の特徴を持つ人間で、オークは魔物ってことかな。
興味津々で犬耳を見る俺に、リアの鋭い視線を感じた。
「何?もう浮気?」
「ちっ違うよ、初めてだし興味があっただけ。」
結合部はどうなっているのか、前世で死ぬほど興味あったよな。
なにせアニメや漫画では、髪と繋がっているように見えるし、
本物はどうなっているのかずっと気になっていた。
俺の釈明を鼻の「フン」で返すリアなので、
この好奇心も一旦放置するしかない。
「冒険者様は獣人族を初めて見るんですか?初めまして、私はリリスと言います。」
すごく礼儀正しい子だ。
冒険者様というのも、なんか学校の後輩が呼ぶ「先輩」みたいないい響きだ。
「初めまして。私はリーシア村のオーレリアよ。横のこの変態名前長いからカスと呼んだらいいわ。」
はいカスへの逆戻り——
「あはは、すみません先ガン見してて、どうも俺には珍しいからな。可能ならカズヒコと呼んでもらえると助かるだが…」
私の言葉を聞いて、そして斜めで俺をみるリアを見るリリス。
「はい、分かりました!カス様!」
さすが商人だけある。
空気読むなあこの子って。
リリスは多分俺が知りうる限り一番立ち回り上手な人だ。
リアの扱いに関しても、俺なんかより全然うまい。
リアは結構リリスに気に入っただろうから、遠くから見ると仲良し姉妹に見えてしまうな。
出立するのはまた翌日の朝である。
この世界って、電車とか飛行機がないから、全体的にペースがゆっくりするイメージかも。
前世だったら、午前中出張が決まれば、大体午後はもう新幹線に乗っている。
この世界の場合は、移動に時間がかかるので、別に半日ぐらい早く出発するより、翌朝にするのが一般的な考え方らしい。
そのおかげでまったりと午後の時間を過ごせることができた。
翌朝、リリスはL字に組み立てた木製の棚を背負って、一杯まで詰め込んだ大きな袋を載せている。
落ちないようにしっかりロープで固定してあり、その荷物の大きさはすでに彼女二人分を相当するくらいだ。
この世界も一応馬みたいな車を引ける動物はあるが、
「馬車」というのは道路が整備される前提ではじめて使えるものだ。
今回は利用できない。
その場合彼女みたいな商人は皆、こうやって商品を背負って移動するという。
その小さな体でどうやってそんな力を出せるのは不思議だ。
でも今回神様からもらってる魔法バッグもあるし、
私も前からどこまで入れるかを試してみたかった。
すると不思議にごろっと丸ごと入った。
これって多分無限に入るんじゃね?
しかも転生初日でバッグに入っている食料品は、別に保存食に見えないのに、四日経ても痛む気配はないので、これ鮮度保持の機能もあるのかな。
神様のおかげで、今回の旅は楽できそうだ。
旅路は退屈なので、色々話ができた。
私というこの世界の常識を持っていない人間のため、リリスとリアたちがいっぱい教えた。
まずこの世界に海がないのだ。
すべての大陸は空に浮かんでいる。前世の知識を借りれば、ここは気体惑星である。
惑星を構成してくれたほとんどの「気体」は、生き物が生きるための酸素など以外に、
魔力という万能粒子もたくさん含まれている。
この世界の人は魔法を使うギミックというのは、
生き物が酸素を吸って、二酸化炭素を排出するのと同じようなものみたく、
魔力というのはそもそも体内で作っているわけではなく、
外側のをその場で借りているみたい。
それができる人間は十人に一人と言って、リーシャ村には一人もいないらしい。
そしてこれは最近20年ぐらいで分かった事だが、
どうやら大陸というのは古代の巨獣の死体のようだ。
100年に一度星の深くにいる古代の巨獣は、人間を襲うらしい。
20年ぐらい前に、それを撃退ではなく倒した英雄、アッシュ様がいたと。
その倒された巨獣の膨大な魔力は変質し、豊かな大陸が形成された。
そしてその新しい大陸に新しく作った国の名前は「日本」だという。
正直色々情報が入ってしまい、頭が痒い。
筋肉が付けている証拠なのかな。
「カス様は本当に何も知らないのね!」
「そうだわ。彼のことを空から降りて来たお星さまだと思ったらいいわよ。」
…カスというお星さまはいません。
そしてなんだかんだで、旅の一日目は平穏に済ませたのだ。
二日目、今日こそ魔獣が活発するところを経過するらしい。
暗殺者らしく、敵が気が付く前に倒してみたいと思う。
私が思う暗殺者らしさをリアに実際見せれば、きっと彼女も分かってくれるはずだ。
かくして、敵陣の前。
私が考案した戦法はこうだ。
甲冑により防御力と質量が上げたおかげで、
速度さえ出せばそれだけで武器になる。
いつの時代、いつの世界でも、質量兵器は最も有効的な暴力だ。
運動エネルギーは質量と運動速度によるもの。
物理法則はどの世界も同じなはず。それに加えて剣を装備することで得られる攻撃力ステータスの補正、
これぞ二つの世界の知識の集大成。
「リア、そこでしっかり見ててくれよ。」
俺は面鎧を下し、剣を構え、潜入する構えをした。
「シュンヤ…気を付けてよね。」
リアは心配そうに言うけど、私の理論は完璧なはずだ。
それを今から証明する。
すると私は地面を蹴り、今のできるだけ精一杯の速度を出した。
なるほど、パワーバランサーの効果でやはり速い。
神様装備の時とは比べられないが、オリンピックに出場しても楽勝で金メダルもらえるぐらいはある。
面鎧のせいで視野が狭くなってしまい、
正直どんな魔物だったかよく見えなかったが、
元々相手の出方を見てかけひきするような戦法ではないので、
私はどの方角に敵がいるさえ分かればいい。
結果は思った通りで、剣と盾、そして甲冑でフル装備している俺が全力疾走するだけで、
衝突する瞬間敵は爆散する。
それこそ、気が付く前に、な。
気が付くとも、「うん、なんの声だ」程度だと思うので、全く問題ない。
こうして運動エネルギーと攻撃力ステータスの補正により、
敵はすべて爆散した。
「どうだリア、潜入完了だ。」
俺は面鎧を上げ、リアに自慢げに言う。
「…掃蕩ありがとう。」
どうもリアにこれは暗殺者の戦い方とは認めてくれなかったみたい。
「カス様…!後ろ!」
リリスは大声で私に注意するが、俺はもちろん分かっている。
今の俺の防御力なら問題ないはず、大金を積んだ装備だ。その性能を見せてくれようぞ。
すると爆発音にも聞こえる「ドカン!」だが、俺は別に何事もなかった。
相手はオークらしい、棒みたいな武器を使っていて、同じく金属製である。
体型の差は5倍ほどあったが、これがステータスの暴力か、俺はこいつの一撃を止めた。
この防御力ならかなり安心できそうだ。
ん?
「待てよ、こいつオークだよな。リア。」
「そうだわ。」
「ってことは、食えるんだよな。」
「もちろんよ。」
「俺、ステーキ食べたいんだけど。」
「いいわよ。最低限の調味料なら持ってるから——」
やったぜ。今日はご馳走だ。
俺は再び面鎧を下し、戦闘姿勢に入る。
暗殺者でも、不意打ちされる時はある。
その時でも対処できる強さはいる。私はそう思う。
しかし参った。
どうやら神様からもらった攻撃系のスキルは、ほとんど短剣を前提にしている。
ロングソードで私はド素人である。
すでにバレてしまったから、質量兵器戦法ではまずい。
野球みたくあのド太い棒に真ん中くらってしまえば俺の死体を集める事すら困難だ。
しょうがない。しかし私はまだ神様からもらった短剣を抜きたくはない。
このぐらいのことで音を上げ、神様に頼っちゃ困る。
それに私は有効打を打てない一方、オークも素早く且つ固い俺に歯が立たないのだ。
こういう戦いというのは、先にぼろを出した方が負けなのだ。
それに私も決して一人ではない。
俺に突進してくるオークだが、武器を大上段に構え俺に襲ってくる。
ちょこまかと逃げる俺のせいで血が上ったのだろうが、
その大振りをずっと待ってた。
俺ではなくリアがな。
オークの大上段構えは、準備姿勢でそのまま止まった。
すると、首が先に地面に落として、切り口は綺麗である。
オークの巨体が地面に重く倒れると、その上にリアの姿がいた。
「見たかシュンヤ?暗殺者というのはこういうジョブなのよ。」
俺は彼女に親指を立てる。
「かっこよかったよリア!今度は本当によく見えなかったからさ。」
俺の思考加速の倍率は、おそらく素早さのステータスに関係する。
戦闘中はずっと発動していたが、止まっているように見えたりはしなかった。
おそらくどれだけ加速できるのかは、その加速した状態で通常通り体を動かせるかどうかで決まるらしい。
確かに思考だけ加速しても、体をうまく動かせなきゃ、仕掛けてくる刃が少しずつじわじわと体を貫いていくのを隣で見ることしかできないからな。
それを抜きにしても、今日のリアは初対面の時よりも全然速い。
あの時はおそらく本気ではなく、元々寸止めするつもりだったんだろ。
日がそろそろ暮れるので、俺たちは食事の準備をする。
リアは丁度いい石を見つけたので、石板焼きにした。
オークの死体を血抜きして、分解。
さすが酒場の娘だけあって、サクサクと分解してくれた。
食べきれない分は全部葉っぱで包み、魔法バッグに収納した。
あの巨体にして結局食用できる量は少ないな。
リアは念入りに各部位から少しずつ厳選して、本日の分にしたらしい。
なんだか和牛一頭買いの気分になって、わくわくした。
石板の温度を上げ、まずは脂を塗る。
オークの脂はかなり臭いが、加熱するといい匂いに変える。
塗ったら捨てる。そしたらカラ草を敷いて——カラ「草」とは言うが、葉っぱに似た形——その上に肉を置く。
どうやら、カラ草を焼くとめちゃくちゃ煙が出るので、それを借りてオーク肉の臭みを取っているのだ。
煙が抑えると、黄色に焼け、オークの脂をたっぷり吸ったカラ草を、今度はオーク肉の上に載せる。
たっぷり加熱したカラ草は石板のように簡単には冷めないので、石板と上下同時に焼いて、厚切りしてもちゃんと焼ける。
最後はカラ草を取って、スパイス四種類混ぜた瓶をフリフリ、もう少し熱したら塩振って完成。
「リーシア村名物よ、お召し上がり!」
「わ——い」
リアもどうやらテンション高いようだ。
リリスもはしゃぐ。
「それにしてもよく何種類の調味料も持ち歩くな。重くないのか。」
「旅では必要品よ。さすがに調理道具は現地調達だけどね。干し肉は高いから贅沢できないわ。基本食料は旅路で何とかするのが基本よ。」
「そしてその…私は…シュンヤにまずいメシを食べさせたくないからね?」
「うん?なんか言ってた?」
オーク肉をもぐもぐしながら俺は聞く。
「な、何でもないわよ…」
と照れながら肉を食べ始めるリア。
まぁ、本当は聞こえたんだよね。
でもこの照れてるリアが見たいからわざとなんだよね。
リアって、もしかしてかなり俺のことが好きだったりして?
あまり調子を乗ったら良くないが、明日は手をつないでみようか。




