【03】リアのご機嫌取り
これは気まずい。
旅人の少ないこの町だからいつか偶然にもまた会うだろうけど、
こんなにも早いとは予想外。
オーレリアもおそらく同じことを考えているだろう。
しかしよりによってオーナーの娘か。
オーナーには悪いが多分オーレリアは母親似だ。
今朝の集合地点は酒場だということも、
オーレリアは早かったというのも腑に落ちるので、
昨日も後ろのキッチンで俺らの会話を聞いたってことか。
「どうした二人とも。もしかしてもう知り合いか?」
「そ、そんな感じだわ。支度してくる。」
逃げるように階段を上がったオーレリア。
「へー、今日は凄腕の冒険者の助けで、早く依頼を片付いたと娘が言ってたな。ニーサンってことかい?」
おっと?
俺はそんな風に言われているのか。
もしかしてもしかすると、俺への点数はそこまで低くなかったりして?
「まあそうだな。魔物と言ってもただの髑髏だし、どうってことないさ。」
「ほっほう」
オーナーは妙な目で俺を見るようになった。
「それより蜂蜜酒だ。」
俺はもう一枚銀貨を出して、酒を催促した。
オーレリアが上から降りるまで少なくとももう一杯は飲みたい。
「はいよ。」
俺は一気に飲み干して、立ち上がろうとした。
残念だが妙な事になる前退散したい。
「やっば俺の目に狂いはないぜ。ニーサンはすごかったってことか。」
「すまんが本当に大した事していないんだ。もう遅いから今日は…」
「こんなに急いでなくても、あんた暇でしょ?」
やばい、こうも早く降りてくるとは。
というかエプロン姿のオーレリアもかわいいなあ——なんて考えているところじゃないか。
「座ってよ。今日助かったのは本当だし。報酬も渡していなかったしね。」
あれ?
確か銀貨八枚ちゃんともらったよな?
私も空気読めない男では決してないので、
疑問を腹に飲み込み、
素直に座って、重そうな袋を受け取った。
「山分けで銀貨50枚よ。」
おっ、おお、多いのでは。
あの髑髏ってそんなに金になんの?
初心者村の魔物で?
「ニーサンが言うその髑髏ってんのがな、グレートアンデッドって俺らが呼んでるわけさ。物理はもちろん、魔法でもあまり効き目がないので、皆手が焼いてるさ。構わなくても死の平原から出たりしないが、商人たちが回り道しなきゃいけないので、大助かりよ。」
俺の反応に気づいて、オーナーが説明してくれた。
「そうなんですか…じゃ俺抜きでオーレリアさんはどう対処するつもりだったですか?」
「遊撃よ。一匹ずつ確実に倒していくのよ。そもそもこっちの方が普通なんだけど。」
そうか、そんなにズバズバ倒せる相手ではないことだけ分かった。
「それと、昨日私はこのリーシア村は戦争から一番遠い街って言ってたの覚えてる?」
俺は頷く。
「その理由は、この村の周囲のほとんどの魔物がバカみたいに手ごわいからだわ。」
えっ?
ここって初心者村じゃないのか?
神様って、俺をどんなところに飛ばしたんだよ。
スキルの使い方に困っていないのは幸いだが、
これって一つでもヘマしたらやばかったってこと?
俺防御力紙みたいなもんだが。
なんだかんだ言っている間オーダーが来たので彼女はキッチンに入った。
「あんたら、昨日でもう知り合ったのか?娘が急に出かけるって言ったのはそういうことか。」
「んで、どこまで進んだ?」
「蜂蜜酒。」
俺は銀貨一枚出す。
こいつ父親なのにこんなこと訊いていいのか?
普通ならもっと怒ってもいいぐらいだぞ。
父親ってのが娘が一番かわいいもんじゃないのか。
「はいよ、後これもサービスね。んでどうなんだ?うちの子かわいいだろ。」
俺は遠慮なく渡されたオーク肉ロースを食べながら酒を飲み、
酒の勢いを借り顔を黒くして返事をする。
「ああ、ごもっともだよ。オーレリアは可愛いすぎる。おかげで攻撃に反応出来ず片目が潰されるとこだったぞ。」
「つ、潰され…」
俺としたことか。このことをオーレリアのためでも隠しておけなくては。
「すまんなうちの子が、母親似だろうから前からそんな感じなんだ。」
いや母親似ってんのが察しがつくけどよ。そういうとこも母親似はどういうこと?
「あれはああ見えて繊細なんだ。色々言うことと考えてることが違うんだよ。大目に見てもらえるとありがたい。」
「ああ、俺も彼女を責めてるわけでは決してない。むしろ感謝だ。こうして堂々と蜂蜜酒を飲めるからな。」
「こんなに気に入ってもらえるのは嬉しいな。」
俺は言葉を交わしているうちにまたジョッキを空にした。
どうせ金にもう困らないから今日は心行くまで飲むことにした。
「はいよ。」
頼む前に酒が出されるのはありがたい。
しかし今度は小ではなくメガサイズのジョッキだった。
俺は遠慮なく頂くことにして、オーナーは続いて言った。
「どうだい?今日はうちに泊まっていかないか。丁度空き部屋が一つあるからさ。」
大事な酒を吹き出すところだった。
危ない危ない。
「えっ、いいんですか?」
オーナーは笑って言う。
「いいとも。あの子もいい年だが…あの性格だからね。嫁にもらってくれる物好きさんはいないのさ。」
いやいやいや。
ちょっと素直じゃないのは分かってるけど、その条件で彼氏ならいくらでも探せるだろ。
俺の思考を読めたのか、オーナーの表情にちょっと曇りが出た。
「気に食わない男が近づくと躊躇せず目玉狙って刺してくるんだよ。皆から怖がられている。鋼鉄の乙女って二つ名までな」
こっわ。なにその鋼鉄の処女みたいな二つ名。
妙にマッチするのは確かだが。
てか昨日のあれはいつものこと?
よそ者の俺に対してではなく気に食わない野郎に全員あれか?
ちょっとツッコミが追い付かないのは苦しい。
「自分より弱い男は無理ってな。しかしうちの子ってああ見えても冒険者として上位ランクなんだよ。」
「そういうことか…確かに普通の女の子よりは腕利きだなとは思ったが。」
「そうだよ。本当に手が焼いているわけよ。あの子と仲良くやってくれると助かるよ。今日は泊ってきな。」
お言葉に甘えて——と言いたかったが、正直俺も彼女をどう接したら良いのかまだいまいち分からない。
金の猶予もあったわけなので、距離感をおきたいかな。
まぁ俺さえ良ければというのもどうかなと思うし、
少なくともオーレリアは素直にはいとは言ってくれないだろう。
千里の道も一歩から、ということで、今夜は一旦宿を借りて、俺も心の整理をする時間と空間が欲しい。
「ごめんオーナー、俺は…」
「いいんじゃない。泊まってきなよ。」
料理をもってキッチンから出たオーレリア。
聞き間違いかと耳を一瞬疑ったが、マジか?
キモイって言ってたのに?
「ほう、どうしたの。今日は素直じゃないか。」
「うっさい。」
親父に対しても遠慮なしか。
「泊まっていいってさ。」
「いや…でも俺はその…」
「泊まってよね。明日朝早いんだから、待ち合わせする手間を省けるわ。それとこの村宿なんてないから諦めてよね。そもそも旅人なんてめったに来ないし。」
さっさと料理を出し終えて戻るオーレリアは相変わらず容赦しない。
明日の朝ってまだ予定があったのか。
てっきりもう俺なんかに仕事の手伝いはさせてくれないと思った。
しかし宿がないのは確かに盲点だったな。
考えてみればあった方が不自然かも。
「…すみません。そういうことならお言葉に甘えます。」
「敬語いい加減にやめたら?気分悪い。」
「分かった、オーレリアさん。」
「さん付けもいらない。それと…リアでいいよ。長くて呼びづらいだろうし。」
よくよく見ると、彼女は少し顔が赤かったかもしれない。
先まで俺は彼女と目が会うのが怖かったので気づかなかったけど、
彼女って照れてんのか?
キモイという展開から呼び捨てまでのこの流れに俺はさすがに戸惑うが、
ひとまずはグレードアンデッドを倒したことで点数をある程度稼げたことにしよう。
しかしこれって何かの罠じゃないんだよな…?
結局呼び捨てでリアで呼んでまたキモイって言われません?
「そしてその…ひどい事言ってた。ごめん。あんたが急に変なことを言い出したせいよ。」
「ただ…嘘ではないのは分かったから、許す。」
してまたさっさとキッチンへ戻るオーレリア、じゃなくてリアだった。
か、かわいい。
今俺ドキュンとしたかも。
許すって、どういうこと?
これは信じていいやつだよね。いや俺は信じたい。
やった——
「難儀な娘だなあ。でも今日は異常に覚えるぐらい素直だったから、ニーサンのことちゃんと気に入ってると思うよ。」
確かに意外だったな。
しかしそれこそ俺はあまり調子を乗らないように用心しなくてはいけない。
どういう経緯なのかわからないが、これは俺にとって二度目のチャンスだ。
神様のノルマはちゃんと達成してあげないといけないし、そのためじゃなくても俺はリアと仲良くなりたい。
その後私はもうしばらく蜂蜜酒を楽しめた。
リアと言葉を交わす事はなかったが、食事に集中できたので割と気分が良い。
この店はどうも看板は蜂蜜酒とオークのステーキ焼きらしく、
一度は注文してみたのだが、オークはやっばうまかった。
調理するのにかなり時間かかったので、おそらくそれだけ手数がかかる料理なんだろう。
あまりリアの負担を増やしすぎるのはすまないから、一日に一度しか頼まないという自分ルールを決めた。
美味しい料理を堪能すると時間がすぎるのは速い。
あっという間に夜が深けてしまい、客も皆帰った。
どうやら店締めの時間は特に決めていなく、客が皆帰ったら締めるらしい。
オーナーからはお代は結構だといただいているが、それはさすがに俺の気がすまないので、きっちり払った。
銀貨11枚はしたので、いくら何でも食べ過ぎたな。
いかんいかん。
部屋を案内してくれるのはリアだ。
二階に三つしか部屋がなく、一つだけ空いている部屋は先まで誰かが使っているようにも見えるほど、ちゃんと整理清掃している。
「ここは母さんが使ってた部屋よ。大事に使ってよね。」
過去形か、余計な詮索はしないでおこう。
「ごめん、世話になる。」
「それと明日、ちょっと道が遠いから早めに起こすね。その…しっかり休んで。」
俺の目線をかわしながら言ったあと、彼女は素早く自室へ退散した。
努力して言葉遣いを柔らかくしているような感じである。
どうやら本当に今日俺への「キモイ」という一言に対して反省しているみたいだ。
なんだろう。俺も妹がいればこんな感じなんだろうか。
すごく心が暖かく、懐かしい気持ちだ。
これが幸せというものなのか。
もし本当にそうであれば、前世の俺は多分ある時以来幸せなんて感じたことはなかったかもしれない。
私は今でも前世の自分がどれだけ不幸だったとは思っていないが、
どうやら神様の言う通り幸せでもなかった。
彼女と仲良くなろう。
そう決めて、俺は深く眠りについた。
蜂蜜酒をたくさん飲んでいたせいか、起きたらすっかり朝だった。
リアはもう支度ができたようで、俺を起こしに来てくれている。
「どうしたのよ。悪い夢でも見たのか?それとも元の世界が恋しくなった?」
昨日リアはずっと俺をちゃんと見ようとしなかったが、
今はすっかり回復したようだ。
こうしてくれると俺もありがたい。
でないとどう接したら本当にわからなくなってしまう。
そして彼女の問いで、俺は自分が涙を流しているのを気づく。
どうなんだろう。昨日は死んだかのようにいい睡眠が取れたから、夢の内容なんて覚えていなかったかも。
そりゃ前日は野宿だったし、よく眠れなかったのに加えて蜂蜜酒を大量摂取したからな。
「いやごめん、多分いい夢見たから嬉しい涙だ。すぐ起きるから下で待っててくれる?」
「分かったわ。はやくしてね。」
当然リアを長らく待たせるつもりはなく、俺はさっさと支度をした。
神様からもらった装備を付けると確かに身がとても軽く感じるので、
なんというか、自分の体が完全に思う通りに動けるという万能感である。
今日も欠かさず、神様への感謝の祈りで、一日が始まったのである。
「リア、おはよう。待たせたな。」
俺はすぐ降りてきて、リアに言う。
彼女はちょっと照れくさいようで顔が少し霞み、挨拶を返してくれた。
「うん、おはよう。その…シュンヤ。」
ぐっ、これもなかなか刺さる。
彼女も俺のことを認めてくれたみたいなので何よりだ。
そして照れてる彼女はやっぱり可愛い。
調子に乗るような真似はしないようにと自分に言いながら、
私は過剰に反応することなくやり過ごせた。
かくして、オーナーの「いってらっしゃい」で、俺たちは酒場から出た。
「そういえば今日は道が遠いって言ってたよな。どこに向かってるんだ?」
俺は彼女の足並みに揃えるようにペースを落としながら彼女に聞く。
「一番近い街に行くのよ。この村冒険者ギルドはないから、村から直接仕事を受けてるの。シュンヤのおかげで唯一仕事と言えるものを片づけたから今日は街ね。」
話によると、普段リアは酒場の手伝いで、たまにしかない魔物退治の依頼をこなしていたそうだ。
村は小さいので、あまり仕事がなく、若者はほとんど外で稼いでいるらしい。
実力をつけたのは、こういう手ごわい魔物が周囲にごろごろいる環境だから、
リーシャ村出身の人間は大体弱くない。
もちろん遠出もほとんどしないので、今日は私のため仕事を見繕ってくれるほか、ギルドでの登録、そして白銀貨の換金についても聞いてみたいそうだ。
俺のために色々考えてくれて本当に嬉しいな。
同時に俺のせいで迷惑をかけたというのもなんだかすまない。
「いいんだよ。シュンヤのおかげで本当に助かってるし、私なりのお礼よ。」
彼女の足並みに合わせたとはいえ、彼女もまた素早さのステータスが高いようなので、半日で着くようになった。
これも昨日アンデッドたちを討伐したおかげか、確かに死の平原とやらを無事通り抜け、
他は魔物何匹かと遭遇してはいたが、ついでに倒せるぐらいなので印象には残らなかった。
これはリーシャ村の一番近い、ダーゴン街というところだそうだ。
まだまだ人が混むような程度まで繁栄した町ではないが、これだけ人が集まるところに来れたのはなんか懐かしいような気がする。
異世界に来てまだ三日目だが、色々あったなあ。
寒い夜に野宿したし、うまい料理と酒も飲んだし、
何よりリアに出会えて、一時誤解はあったが今はすっかり仲直り。
なんか一昨日まで日本にいたのは不思議に感じるぐらいだ。
ギルドの登録はリアの保証があるので簡単に済ませた。
どうやらリアは凄腕の冒険者というのは本当らしく、
受付嬢はオーレリア「様」って呼んでいた。
そうと呼ばれたあと、ひそかに俺にどや顔を見せる彼女もまた可愛いらしい。
ただ白金貨の換金はそうまでスムーズに行かず、
審査とか手続きとか、あと鑑定士の方の書類も必要だそうで、受付嬢は代わりにやってくれるみたいだけど、まだ半日はかかりそうだ。
しかも換金するのは今回一枚だけにした。
オーナーのあの反応から察するに一枚でも大事なので、
あれが実は10枚持っているなんてひとまず伏せておきたい。
「そういえばさ、シュンヤ」
何か思い出した様子をするリアは良からぬ顔で俺に言う。
「私がいなきゃおそらくあれ一生換金できないと思うだけど、そもそも私というA級冒険者が保証人としてついてないと、身元不明のシュンヤは登録するとこでつまずくよね。」
「はい、A級冒険者リア様のおっしゃる通りかと存じます。」
「んで、私の取り分でいくら払ってくれるの?」
ぐっ、さすが商売人の娘か。こういうところしっかりしってるな。
言葉の感謝より金の方が確実だ。
もちろん私も一応ちゃんとしている社会人のつもりなので、この道理も分かっている。
「そうだな、では半分はどうだ。」
「ちょっ、冗談で言ってるのよ。なに真に受けてんの?」
思わぬ返答だっただろうか、彼女は少し慌てた。
「いや、多くはないな。全くリアの言う通りだし、この世界じゃ俺は左も右も分からないので、下手したら今頃どっかで凍死してたかもしれない。なので遠慮せず、頂いてもらいたい。」
「…何よ。私のご機嫌取りのつもり?」
「そうだな。じゃリアのご機嫌取りってことで、夕食は私のおごりにしよう。」
彼女が笑ってくれた。
そういえば初めてかも。彼女の笑顔をみるのは。
語彙力皆無の俺では、太陽のように眩しい笑顔としか形容しようがないが、
それ以上の何かを見た気がする。
「ふふ、じゃ今日は豪華でいきたいな。」
白金貨の換金が終えるのは、すでに日が沈む頃だった。
オーナーの言う通り、金貨100よりも多くいただいていて、引き渡しもカウンターではなく、貴賓用の接待室でした。
さすがにこんなのを持ち歩けないので、一旦まとめて神様からもらった魔法バッグに収納することにした。
小さな山も作れる金貨だったが、難もなく収納できたので、この魔法バッグはどこまで入れるか試してみたいけど、
そんなことより今はもっと大事な事がある。
それはリアとの食事だ。
俺がおごることになっているが、私よりリアの方がよほどこの町に詳しいので、
店は彼女が選んでもらうことにした。
この町で一番うまい店という、看板料理はキコ肉シチューとワイバーンのしっぽステーキ焼きだそうです。
聞くと、キコというのは一般的な家畜として扱っている動物らしく、ワイバーンのしっぽも極上の食材。
ただ調理する難易度が高く、これを調理できる店は全大陸で五本の指で数えられると言われている。
頼むとしても常備しているわけではないので、換金を待つ間にリアが先に行って予約を取ってきてくれた。
値段ももちろんありえないぐらい高く、一人分で金貨二枚は必要で、それは一般家庭の一か月すべての出費になるらしい。
金貨一枚は銀貨100枚なので、金貨二枚は20万円になる。
どうやら俺が見積もったレートは大体合っているようだ。
かくして、俺たちは店に入った。
入ってすぐ濃厚な肉の匂いがして、食欲がそそられる。
「いい匂い——私ずっと食べてみたかったよね。」
はしゃぐリアは子供っぽかったが、それだけ楽しみだっただろう。
彼女が喜んでくれるのは私ももちろん嬉しい。
どうやら「リアのご機嫌取り」は効果抜群のようだ。
他にもいくつか頼んでいて、オーク肉ロースと蜂蜜酒はもはや俺の食卓に欠かせない存在。
比べて飲んでみると、やはり蜂蜜酒はオーナーの方が一枚上だったようだ。
ワイバーンのしっぽはもちろん言うことなく、
鶏肉の食感に上質の和牛のうまみと肉汁が凝縮しているようなものだった。
これこそファンタジーの味。
私の知りえない香辛料や調味料で地球に暮らす人間——そしてリアという異世界のご当地の住民の想像よりも遥かに超えるおいしさだった。
かなりのボリューム感があったしっぽ肉だが、気が付くと皿は空で、ソースまで舐めつくすところだったが、
さすがにリアの前ではそんな無様はできないので、我慢。
「本当においしかったわ——コキのシチューもどうやったらそんなにおいしくなるだろうね。」
リアはハーブティーを飲みながら、満足そうに言った。
彼女の顔を見て、今ここで死んで神様のノルマを一年分達成できるのではないかと素直に思った。
「シュンヤもお口に合った?って聞かなくても分かるわよね」
そうりゃ、空っぽの皿は何よりの証拠だからな。
「これでまたリアに一つ借りができたみたいだな。俺じゃこんないい店一生わからないからね。」
「ふふん、じゃちゃんとこの借りの返し方を考えておくわ。」
彼女はハーブティーのコップを机に置き、俺に言う。
「シュンヤって、不思議だよね。とことん非常識で、素直で、そして強い。最初はただの金持ちのボンボンだと思ってたわ。」
「そう言ってくれるのはありがたい。だが俺は多分リアが思うほど強くはないな。」
私はまっすぐに彼女の目を見て言う。
「神様から借りた強さを除くと、俺はこの世界一人で生きていけないぐらい弱い。リアに出会えたのは一生分の幸運を使ってしまったと思う——なにより幸せという言葉の意味を思い出させたのもリアだしな。」
「なあに、私のご機嫌取りの続きかしら。」
蜂蜜酒のせいだからか、彼女の顔は少し赤い。
「ご機嫌取りなんかじゃない、本気だ。私はリアのことを大事に思っているし、そんな私をリアのいる世界に来させた神様にだって、毎日感謝の祈りをささげるつもりさ。」
「なにそれ、やっばキモっ」
と言いつつ、笑ってくれるリアだった。
この夜がずっと続くといいな。
なんて現実味のないことを考えながら、
異世界転生三日目を円満に終えた。




