【02】思わぬ再会
結局野宿でした。
寒かった。
死ななかったのは幸いだったが、
欲を言えば魔法バッグの初期アイテムにテントぐらいほしかった。
しかしそんな理想的な女の子と出会わせてなお欲を言うのはよくないのだ。
罰が当たるのだ。
さて、異世界で初めて迎える朝。
今日は神様への感謝の祈りからはじめたのであった。
さすが異世界というか、工業に全く染まれていない空気はうまい。
オーレリアって言ったっけ?
ある程度稼ぎが安定して、あの子とここで暮らせるものならもうすでに幸せではないか。
「おはよう、カス。」
とか遠いことを考えながら、すでに酒場に着いたのであった。
この世界では時計とかないので、時間の約束は大体雑である。
俺はあまり寝れなかったので、早めに来たつもりだが、オーレリアはすでに店の前で俺を待っていた。
そう言えばこの呼び方を何とかしてほしいんだが。
「おはよう、オーレリアさん。」
「早速だが、出発するぞ。」
と言い捨ててさっさと歩き出したオーレリア。
こりゃ…やっぱ俺のことまだ信用してないのかな。
むしろ初見で会った彼女を信用しようとする俺の方が異常かもしれない。
前世は平和の国で暮らしたせいで警戒が怠ったのか。
いかんいかん。
とはいえ仕事に手伝うとか言ったし、
俺は他に仕事の手がかりも見つからないんだよね。
このよそものに厳しい村で一人で就活するのはハードルが高すぎるので、
この子に一旦ついていく以外方法がないのも事実。
かくして俺らが辿り着いたのは、一目見てやばいというのが分かるほどの平原。
死の平原か何かかな?
「ここって…?」
「死の平原よ。」
そのままか——い。
「最近魔物の発生が活発してるの。だから村から討伐依頼があったわ。」
なるほど——
つまりギルドとかじゃなくて村から直々仕事が来るパターンか。
やっばこの子なしじゃ仕事が見つかる可能性がないね。
「あんた、ジョブは?」
「暗殺者、だそうです。」
「そういえば昨日聞いたわよね。」
全然俺の話聞いていなかったみたいだ。ちょっと悲しい。
「最悪だわ、私も暗殺者なの。これじゃ前衛いないじゃない。」
それはさておき、元々は一人で挑む予定だよな。
じゃ俺がいなきゃどうするつもりだったんだよ。
「でも、魔物を倒したらいいですよね?」
「そうだけど、暗殺者ってのが相手に気づかれてない前提で攻撃を仕掛のがベストよ?あんた本当にド素人ね。」
そうだったんですかね。
「いい?暗殺者にとって潜入がまず大前提なの。距離を縮める前にバレたら話にならないわ。こういう視野の良いところで戦うと潜入はまず無理だから前衛がいるのよ。前衛ってのが敵の注意を引き寄せてくれる人がね」
なんか話が長くなりそうなので、俺は実戦で学ぶことにした。
「ちょっと、人の話を聞けよ。なにスカスカ入ろうとしてんのよ。」
「すみませんオーレリアさん。実戦してみたほうが早いかなぁって」
「ちょっ、バカ、迂闊すぎるよ!」
彼女が俺に注意するが、その理由はもちろん俺は知っている。
地面から髑髏の兵の魔物が出てきて、俺はその殺気を感じたのだ。
この世界はゲームみたいにシステム画面が出てくることがなく、
スキルの発動は大体勘で何とかしているみたい。
俺はまた思考加速の状態に入り、周りのすべてが遅く見える。
ああ、慌てているオーレリアもやっばかわいい。
と、魔物は優しいオーレリアじゃないので、寸止めはしてくれないだろうから、
今回は思考加速の恵みをすべてオーレリアを観察することに費やせないのは残念だが、
この魔物を退治しようか。
俺の認識だと髑髏に斬撃は効きにくいので打撃にすべき、だったが、この世界はどうなっているだろう。
神様より授けたこの短剣で、私は切ってみることにした。
するとお豆腐を切っているかのような触感で、思考加速の状態なので時間の流れを遅く感じていて、切っても散らばってたりはしなかった。
なので思考加速の能力を解除することにした。
すると、やはり髑髏が動作を停止し、胸より上だけ飛ばされた。
しかも切れ目がすごく綺麗。
やはり神様はすごい。ステータス画面見れないのでどういうものなのか知らないが、これはよく切れますね。
さらに思考加速の状態でも普通に素早く動けるってことは、俺の素早さのステータス値も化け物らしい。
と、感心する時間すら与えてくれず、周りからまたたくさん髑髏が湧き出た。
俺は無意識に思考加速の状態にまた入り、まずは俺とオーレリアとの二人っきりの時間を邪魔するヤツを排除することにした。
そういえば飛び道具もあったような気がするので、投げてみた。
すると、なるほど、力いっぱい投げたので決して遅くないはずだが、
俺から見ればやはり遅い。
しょうがない。10本全部異なる標的に投げつけ、残りは自ら片づける事にしよう。
思考加速の状態のまま、私はあちこちに湧く髑髏を切り捨てたのだ。
走り回るだけで退屈するので、他にやることもないから私はその余った集中力をオーレリアに費やすことにした。
ああ、美しい。かわいい。俺って語彙力ない。
とか無駄なことを考えながら、敵はすべて散った。
「えっ、なにが…」
オーレリアにとっては一瞬だっただろ。
「潜入完了…ってな。」
「…潜入?」
「敵に気づかれていないでしょう?」
俺の発言に呆れるオーレリアだが、
俺は何かおかしいこと言ったのかな。
気づかれる前に倒しているし、暗殺者ってそういうものだと私は認識している。
「お前は本当…何者なの?」
「昨日言った通りです。私は転生して、神の恩恵を受けた暗殺者です。」
彼女から感じる視線は少し変わったような気がする。
おそらくだが俺をある程度信じてくれたと思う。
オーレリアは賢い。昨日私はその気になれば、最初に俺に向かってくる矢が地面に挿すより先に、彼女を殺せることを理解したはずだ。
正直私も思考加速の持続時間の長さに感服している。
これだけやってもなお疲れを感じないので、おそらくもっと長く継続できただろう。
神様からとんでもない力が授かったことを俺は初めて実感する。
「…失礼。」
彼女が俺の前に来て、俺のおでこに手をかざした。
柔らかい手だ。ちょっとひんやりもしていて…じゃなくて!
「俺は熱なんて…」
熱でおかしくなったかを確認するためだと俺は思い込んだのだが、
そうではないみたい。
「なっ、なんだよこのステータスは…!!」
驚く彼女の様子から、
どうやら彼女は俺に鑑定をかけているみたい。
そうか、画面とかやっば出ないか。
「でもこれで信じてくれたでしょう?私は神に恩恵をもらっていて、そして悪気はないんだ。」
「ってことは、昨日はずいぶん舐めた真似をしてくれたわね。なんで斬りかかって来る相手に対して抵抗なんてしないのよ。」
ここは肝心なとこだ。
私は決して彼女を舐めているわけではないが、常識で考えてみると、確かに殺気敵意丸出しの人間が襲い掛かって来ると、
何もしないというのはありえない。
私は、ここで本当のことを言うと覚悟した。
ひかれるかもしれないけど、ここで嘘をつくよりはマシか。
熟考の末、私は言い出した。
「実は私に思考加速の能力があります。昨日オーレリアさんが襲い掛かって来るとき、正直私には止まって見えるほど感じていました。昨日嘘をついてしまってすみませんでした。」
私は真摯にペコリと謝る。
「しかし、反応ができなかったのは本当です。その場もしオーレリアさんは寸止めしてくれなければ、私は少なくとも片目を失っていました。」
「なぜなら、俺はオーレリアさんほど綺麗で可愛い女の子を見たことないからです。」
「あなたの綺麗な脚、顔、体つきには見惚れてしまい、身動きが取れませんでした。本当です。」
私はまっすぐに彼女の目を見て、絶えずに言った。
すべて本当のことなので、言葉に一切の無駄がなく、流暢に話せた。
「ちょっ、待って、待ちなさいってばっ!」
私の演説を遮るように彼女は言う。
彼女の綺麗な顔は真っ赤になり、それは当然か。
私でもちょっとは恥ずかしく感じている。
でも少なくとも俺は嘘を言っていないし、これだけは伝わったはず。
「ほ、報酬よ。依頼はここまでよ。」
数枚銀貨が入っている袋を投げつけられて、彼女は帰ろうとした。
「あっ、その…」
「ついて来ないでよね。キモイから。」
と、冷たい言葉が突如矢のように俺の体を貫く。彼女は止まることなく去った。
想像以上の威力だな。
言葉の力ってすごい。
私は長い間立ちすくんでしまい、身動き一つ取れなかった。
でも、そうだよね。
いきなりこんな事言われるとね。
俺もこの借り物の強さに少し酔っていたかもしれない。
自分が強くなったと錯覚してしまうし、
私は本当は弱いままだ。
今後もっと謹んでいこう。
私はショックから少し回復した後、袋の中身を覗いてみるとした。
やはり案の定銀貨でした。
8枚が入っていて、日本円だと8000円あたりか?
ここまで来るまで正確な時間は分からないが、一時間ぐらいだと思うので、
戻る時間も入れても、通勤手当込みで時給4000円ってことか。
すごくうまい話ではないか。
しかしその様子だと次はないだろうけどな。
今は帰るのにまだ早すぎるので、
稼働初日の時間を存分に利用すべく、私は寄り道することにした。
何かモンスターでも倒して、金目のものがドロップしないかなあと思ったけど、
どうやらこの世界ってゲームと違って魔物倒してもドロップアイテムが出ないようだ。
普通に考えたらそうだろうけど、オーレリアの助け抜きで金稼ぎの手がかりは見つからないのは現状だ。
しかし全く収穫がないわけでもなく、一応この付近の魔物ならすべて楽に倒せることだけ分かった。
初心者村というのもあるだろうから当然か。
これで依頼さえ受けられれば稼ぎに困らないということだ。
こうして日が丁度暮れる頃私は酒場に戻った。
憂鬱な事は後回しにして、
今日稼いだこの銀貨8枚の使い方は俺はもうとっくに決まっている。
とにかく今日は飲む!
今日こそあの蜂蜜酒を堪能するのだ。
昨日の借金があるから7杯頼んで店締めのギリギリまでちまちま飲んで、
そしたらどっかでまた野宿をしよう。
どうせ野宿も初めてじゃないんだ。
一晩増えた所で問題ない。
それより昨日から楽しみだった蜂蜜酒は減る方がよほど痛い。
パシップスキルの効果を発揮し、変なこと言わないように注意を払えば、
視線の焦点にはならないはず。
幸せになる為というメインクエストを、誠実に遂行しようではないか。
こうして俺はまたカウンターに座り込む。
今度私はオーナーに声をかける前に、ちゃんと手も上げた。
「オーナー、蜂蜜酒を頼めるかい。後昨日は悪かったな。これは昨日の分だ。」
言いながら、私は銀貨二枚を出した。
「おお、ニーサンもしかして仕事見つけたのか。いいじゃないか。」
して、オーナーは小ジョッキで蜂蜜酒を出して、もう一皿ソースかけたローストビーフらしきものを出してくれた。
「酒だけじゃ寂しいだろうから、これはサービスだ。昨日は悪かったな。追い返したような真似しちまって」
俺は別にオーナーのことを悪く思っていないが、むしろ感謝している。
しかしせっかくなのでいただくとしよう。
一口食べてみるとやはり牛肉の食感に近い。燻製の味が効いているが、しかしそれでも獣の臭みが若干残っている。
そりゃこの工業化が進んでいない世界で日本に匹敵するほどの処理を望んではいけない。
しかしこれはこれで癖になりそうだ。
ソースもピリッと辛い香辛料の味がして、それにやはり何かハーブの香りがする奥深い味だ。ソースは全体的にさっぱりしたイメージで、この獣の臭みをいい感じに調和している。
俺はどうもこういう工夫した丁寧な料理に目がないみたい。
前世で牛丼大好きだったが、どちらかというとやはりこれがいい。
一度食べ始めると手が止まらなく、これは蜂蜜酒にも相性が抜群だ。
「うまい、これはうまいなオーナー。」
いつの間にか一皿食べつくして、ちまちまで飲む予定の小ジョッキの蜂蜜酒も飲み干してしまい、俺はやっとフォークを止めた。
「気に入ってくれてなによりだよ。しかしオークの燻製肉なんてこうもおいしそうに食ってる奴は面白いな。」
…これってオークだったの?
うまかったからしょうがない。
しかも周りを観察してみたら、これ結構皆普通に食べているようなので、オークはうまいということだけ覚えておこう。
「しかしニーサン。仕事どうやって見つかったかな?」
オーナーは小声で言った。
どうやら私が汚い金に手を出したではないかと疑っているのね?
「そうだ聞いてくれよオーナー、オー…」
「ただいまっ」
オーレリアのオの字しか出ていないうちに、突如現れる声に遮られた。
「おお、お帰り。着替えしてキッチン頼むわ。」
オーナーは返事するが、そのあと固まった俺に気づいたのだ。
「ニーサンどうかしたのか?」
俺は返事をしない。その理由も単純明快である。
私の手助けをした人物はまさに先ほど声の主であったからだ。
カウンターに座り、オーナーの話し相手である俺に気づくその声の主も、
気配からすると同じく固まったらしい。
さて、これはどう説明したらいいのかな?




