【01】オーレリア
「幸せって…なんだろう」
草原に座り込み、俺は考えた。
幸せになりなさいなんて命令された事はないし、当然考えた事もなかった。
これやれあれやれとかはよく命令されるが、あれはストレートで分かりやすい。
そういや前世であいつら仕事の後いつも飲みに行ったっけか?
酒を飲むと幸せになるのかな。
このまま座り込んでしまっても意味がない。
まずは行動しようか。
あの神にはちょっとじゃなくてかなり苛ついてしまうが、
神だからしょうがない。
おそらく俺の前世で会ったあらゆる上司よりも偉いから、逆らってはいけないだろ。
幸せになれないと片道切符の地獄流しか。
左遷はやだよな。
と言いつつ俺はすでに立ち上がり、そこで初めて隣にあるバッグに気づく。
なにこれ。
開いてみたら地図と水と食料と装備一式(投げ道具込み)が入っていましたって多いな。
見た目によらず結構入る。魔法ってやつか?
まぁでもこのぐらいがないとサバイバルド素人の俺が初心者の街にたどり着く自信がないがね。
神もおそらく俺が野垂れ死ぬのを見たくないだろうから当然か。
ノルマがやばいんだっけ?
正直その気持ちは分からなくもない。
そういえば俺もさんざんノルマとかで難癖付けられたよな。
これだけもらってるし、最低限の恩返しとして幸せになる努力をしてみるか。
俺は装備を付けた。
幸い前世でゲームをある程度やりこんだので、方向音痴ではない。
さすが異世界というか、空に浮島があって、特にでかいのがあった。
それは地図にも載ってる。それを参照し方角が分かった。
一番近い村は確か…リーシア村?
私は向かうようにした。
こういう時の定番は情報取集だな。
到着したらもうすっかり遅くなってしまった。
丁度俺も酒を試してみたいので酒場に向かった。
どうやら俺のパシップスキルで気配を薄くするのがあったっけ、
正直スキルの数多すぎで細かく見ていなかった。
とにかく俺が声をかけるまで、カウンターの後ろにいるオーナーらしき男は俺に気づきもしなかった。
「おおっ、びっくりしたぜ。ニーサン影薄いな。」
「こっちこそすまん。なんか定番な酒を出してくれないか。」
「じゃ蜂蜜酒ね、はいよ」
黄色の液体が入っている木製の小ジョッキを出してくれた。
いい香りがする。一口すると、意外にも奥深い味だ。
私はあまり酒に詳しくないが、これは確実にうまい方だと思う。
ひんやりしていて、アルコール度数はそれほど高くない。
ビールよりは飲みやすく、前世の記憶ではビールは苦い液体という認識だったのであまり好きではなかったが、これはなかなかいける。
それに蜂蜜酒とか言うが、おそらく他にもいくつか果物とハーブが入っているので、
蜂蜜の味がそこまで際立つイメージではなかった。
おそらく私の知らない異世界のものなので、
はっきりとどういう風味なのかはいまいち説明が難しい。
「これはうまいな」
「そうだろう?隠し味としてサリシの実を入れてるのさ。分かんなかっただろ。」
そりゃ分かるわけがない。やっぱ異世界の果物じゃん。
「そういえばニーサン、見かけない顔だね。この村に旅人は珍しいもんだ。」
「ああ、日本という遠い国からきているのだ。」
俺は初対面で且つ親切してくれる人に対して嘘は付きたくないし、
どうせ日本なんか分かるわけないからいいだろ。
「そうか…そんな遠くからきたのか。それりゃ大変だ。」
ちょっ…ええ?
「日本が…ご存じですか?」
「なに冗談を言うんだニーサン。現世の英雄アッシュ様が作った国でしょう?再生歴以来初めて巨獣を倒し、新しい大陸ができたもんな、知らない方が難しいぜ。」
ま、待って、情報量が…
「そ、そうですね。すみません。」
「辺鄙な村だからって舐めてんじゃねぇぞ?」
「いや、そういうつもりじゃなくて、ははは…」
情報取集が目的ですが、この成果はなんというか、なんだかできすぎて消化が間に合わない。
とにかくこの世界にも『日本』があって、もちろんそれは俺の今まで住んでいた日本ではないが、そのアッシュ様とやらは日本人に違いないというのはまずはっきりした。
同じく日本人なら、いつか会ってみたいもんだ。
この世界の日本に行くのを一旦目標にしたい…というのは山々だが、オーナーのニュアンスから察するとかなり遠いみたいなので、もう少しこっちに慣れてからにしよう。
「んで、ニーサンは何しにきてるんだい?」
そうだね、私は何しに来てるんだろ。
「私は、強いて言えば幸せになるためかな。」
とにかく、下手な嘘は付かない方がいい。
「へー」
オーナーは変な反応をする。
「そうかい。まぁニーさんも事情があると思うから、俺は詮索する気はないが…」
なんかすごい誤解されていないか?
「ニーサンは悪い奴じゃないと思うからこれだけは助言したい。この村ってんのはピリピリするヤツが多くてな、よそ者は歓迎されないもんだぜ?」
オーナーは声を低くして言う。
確かに店に入ってからずっと視線を感じる。オーナーと会話するほどすれば集まって来る視線が多い。
これも多分なんかのパシップスキルの効果だろ。とにかくこれ以上ここに滞在するのは良くない。
せっかくオーナーが親切してくれているのだ。迷惑をかけたくない。
「ご助言感謝するよ。ではお勘定を頼めないかい?」
俺は蜂蜜酒を一気に飲み干す。
やっばうめぇ。ゆっくり楽しめないのはかなり残念だが、いずれまた機会はあるだろう。
「おうよ、銀貨1枚な。」
俺は魔法バッグを拡げる。中にやたら大きい金貨が10枚入っていて、正直私にはいまいちその価値がわからない。
ちょうどいい機会なので、この世界の価格基準を決めたいと思う。
この小ジョッキの蜂蜜酒は、俺の見立てでは日本円800円は相当するだろう。
専門店並のおいしさなので高めに見積もったのだ。
計算しやすいようにするとざっと1000円。
もし金貨対銀貨は1対100なら、この金貨一枚の相場は100000円ってところだろう。
すると俺は金貨一つ出す。
「すまないが、俺はこれしか持っていないもんで…おつりをお願いします。」
「お前っ…!早くそれを仕舞え!」
オーナーが俺の金貨を見て思わぬ反応をした。
極限まで声を殺して俺に命令をする。
なんだ?もしかしたら銀貨1000枚に相当するってこと?にしても反応大きすぎないか。
「ニーサン…お前何者だ?そんなのおつりができるわけがないだろう。白金貨は金貨100枚もくだらないぞ。」
なんてこったい——
あの神様は俺が早死にするのをどれだけ怖いんだ?
てかこれ10枚あるってことは一生働かなくても行けるんじゃねえ?
しかし別の意味で困ってしまったな。いくら金があるからって、ものに換えないじゃ意味がない。
どうやら目下は早く普通に払える金を稼げないといけないみたいだ。
俺は一文無しになっちまったからな。
「お代はいいから…今日はすまんが帰りなっ」
周りの視線がどんどん多く熱くなったのはおれも分かる。
オーナーもそれが気づいたのか、周囲を回り見ながら俺に小声で言う。
おそらくさっきオーナーの過剰反応で皆多少察しが付いたかね。
差し当たり今の俺って、『日本』という遠い国から来た常識のないバカボンボンってキャラだよね。
美味しすぎる。
俺は自分のおいしさに自覚を感じて、今日はオーナーのご厚意に甘んじて、さっさと撤収するとしよう。
かくして、俺は全員の視線の焦点となりながら、店から出たのだ。
しかし困ったな…撤収するとか言っても俺帰れる場所がないんだけどね。
金貨十枚あったので宿でも借りればと思っていたが…
これは安易に使えない金みたい。
白金貨だっけ?どうりで金貨なのに真ん中白いの嵌めてんなと思った。
異世界転生初日野宿かぁ…凍死したりしたら神様に怒られないかな…
いや片道切符の地獄流しに決まってんじゃね?
それはやだ。
とにかく今夜をどうにか凌ぐのを最優先事項として考えよう。
と、俺があれこれ考えているところ、殺気を感じた。
初めて感じるものだが、それが殺気と俺ははっきり分かる。
俺は少し体をずらせて、かわした。
矢だった。
短い仕様だから、暗殺向けの小さいクロスボウによるものだろう。
「へー、あんた強いね。」
女の子の声がする。
「どうなんでしょうね。多分俺レベル1だから弱い方かなぁと…」
俺は声の方へ向くと、陰なかからフードを被っている女の子が出て来た。
顔はよく見えないが、体つきからするとすんなりとした体つきだ。
防具は最小限にしか付けていなく、素早さ特化の装備だと分かる。
そのおかげで、丁度いい肉付きの太ももがまず俺の目を最初に奪ったのである。
いい、かなりいい。
細すぎず、太いわけでもない。最高にバランスのいい太ももだ。
しかも月の冷たい光で、とても白く見えた。
「あんた何見てんのよ。」
「あっすまんすまん」
やばい、元居た世界じゃこれほど極上の脚を現実にあまり見たことなくて、
つい見入ってしまった。
俺は決してスケベではないが、
それほどこの子の脚は完璧だったのだ。
「あんたさ、何が狙いなの?」
彼女は敵意を隠さず垂らしながら言う。
「…その前にあなたは何者ですか?」
少なくても名前を聞いておきたい!
「リーシア村に忍び寄る日本から来た白金貨持ちの貴族…敵が多すぎてどれなのか分からないってこと?」
やっぱ完璧に誤解してる——
「違うよ。それはお前らの認識の中の日本じゃなくて——」
「くどいっ!」
ありえない速さで俺に襲い掛かる彼女。
しかしその一瞬は俺にとってとんでもないほど遅い。
時間が遅くなったか、俺の思考が加速しているのか、多分後者だと思う。
あのふざけた神様のおかげで、この子の攻撃に俺は全く脅威を感じることなく、
そんなことより他に俺の注意を奪ったものがあった。
突進してくる彼女のフードは風に取られ、はっきりと顔を見えるようになった。
俺の語彙力のなさを生涯一番よく思い知らされるほど、美しい。
お人形みたいな顔だ。月の光りによってさらに白く見え、身長も俺より15センチほど低く、160センチ弱ってところ。
肩にかかるぐらい長さの、美しい白よりの金髪。
四肢の肉付きはもちろん言うことなく完璧で、その上一握りでつかめる胸と腰が俺の好みにピンときた。
俺はこういう身長は自分より低めの子で、すんなり且つ細すぎない体形、胸もちょっとあるぐらいの女の子が好みなのだ。
なんでこんなところでばったり会えるんだろ。これも神様の導きってこと?
感謝します。本当に感謝します。今までの不満をすべて吹き飛ぶほど俺は神様への感謝でいっぱいである。
こうして、スキルによる得られた加速思考で恵んだ思考時間は、俺はすべて彼女の美しさを観察することに費やした。
気が付くと、彼女の短剣は俺の目玉の1ミリセンチほど前で止まっている。
「…なんで避けないのよ」
「えっ、あっ、すみません、速すぎたので…」
「私を舐めてんの?ちっとも驚いていないあほ面でそれを言う?」
そうか、今の俺ってあほ面だったのか。
さすがに見惚れたって言うのは失礼だから、俺はこの世界に来て初めて嘘をついた。
「…ふん、興醒めしたわ。」
彼女は先の突進でちょっと乱れた髪を整理しながら言う。
「んで、あんた一体何なのよ。」
やっと話を聞いてくれるようになったのか。
やったぜ!
経緯はともかく、結果オーライだ。
そしたら私は嘘偽りなくここまでの事を話した。
前世の日本の事、神に会った事、恩恵を授かった事、ここにきて一文無しで、すぐにでも仕事がほしい事など。
どうやらこの子は私のことをどこか人に追われる貴族の隠し子だと思い込んだらしい。
彼女の話によると、
この村は世界で一番戦争に縁がない村と言われていて、
よく追われる者や、よからぬことを考える人が逃げ込んだりするみたい。
面倒事はご免なので、こうして敵意を向けたそうだ。
「…嘘、ではないみたいだね。」
どうやら俺の話を信じてくれたようだ。
「でも本当の事も言っていないみたいだわ。半分嘘半分真実ってとこかしら。」
「いやいやいや百パーセント紛れもない真実ですよ…!本当ですから信じてください…」
「そんなことより、あんた、仕事がほしいでしょ?」
「あっ、はい、そうです。」
なんだいきなり。
「じゃ明日私の手伝いに来てよ。」
なんだか小悪魔の笑みが浮かんだのは気のせいか?
どうもいい予感がしない。
「あんた名前は?」
「和彦俊也です。」
「…長すぎるわ。じゃカスね。私オーレリアよ。それじゃ明日の朝酒場でね。」
…かずひこだから少なくともカズにして?




