第六章 乱舞
雪の夜、蔵の外は静寂に包まれていた。
だが、微細な金属粉が風に乗って舞い上がり、雪の白と交錯しながら町の闇に溶けていく。
領子は半死半生の渡辺を支え、雪の上に座り込む。
息が荒く、身体の震えが止まらない渡辺。彼の体からは微かに金属粉が剥がれ落ち、雪面に溶け込むように散らばった。
領子は懐中電灯を蔵の奥に向けた。
舞姫の影は既に消えていたが、空気には彼女の存在を告げる微細な圧力と、低く「カチ……カチ……」と歯車の響きが残る。
「……まだ、完全には終わっていない……」
領子は息を潜め、渡辺を支えながら、蔵から安全な場所へ移動する。
足元で金属粉が微かに光り、雪の上で小さな螺旋を描きながら移動する。
領子は粉を避けつつ、渡辺を抱えて古い蔵の出入口へと向かう。
しかし、舞姫は自由を得たことで、単なる物理的な存在ではなく、空間の歪みを操るかのように移動する。
突然、渡辺の肩に冷たい触感が走った。
「う……」
金属粉が空気中で渦を作り、微細な歯車音が頭蓋に直接響く。
渡辺は呻き声を上げ、領子の腕の中で痙攣する。
領子は必死に彼を抱え、粉の渦に触れないように逃げる。
蔵の扉を抜けると、夜風が二人を包み、粉は舞姫の意思に従い、雪と闇の中に溶け込む。
舞姫は遠くの屋根の上、路地の奥、灯火の明かりの近くで、微細な粒子として再構築されつつあった。
その姿は、視覚的に捉えることが困難であり、しかし確かに生き物のような存在感を放つ。
領子は渡辺を雪の上に下ろし、周囲を確認する。
「大丈夫……少しだけ、ここで……」
渡辺は息を整えながらも、目は虚ろで、完全に意識を取り戻してはいない。
領子は古文書と記録機材を確認し、舞姫の力が空間と人間の心理に及ぼす影響を分析しようとする。
その時、町の遠くで悲鳴が響いた。
屋根の上から落ちる影、窓ガラスを叩く何か、微細な歯車音とともに現れる幻覚——
舞姫は町の住民を標的に、金属粉を媒介にした幻覚攻撃を開始していた。
粉を吸った住民は幻覚に飲み込まれ、壁や床、家具に取り込まれるように振る舞う。
奇妙な踊り、呻き声、身体が金属化するかのような痙攣——
町は瞬く間に恐怖に包まれ、街灯の下では雪の上に微細な金属粉が渦巻き、夜空に不気味な光を反射する。
領子は渡辺を抱えながら、街の中心部に逃げ込みつつ記録を続ける。
「古文書の指示通り、封印……封印を再現する方法……」
頭の中で呪術と民俗学の知識を繋ぎ、舞姫の顕現をどう食い止めるかを考える。
しかし、舞姫は既に制御を失い、蔵から町全体へ拡散する能力を持っている。
その瞬間、屋根の影から白磁の肌と漆黒の髪が瞬間的に現れ、低く囁く声が聞こえる。
「……次は、あなた……」
領子は震える手で渡辺を抱え、光の届かぬ暗闇に身を潜める。
金属粉が再び舞い上がり、雪の街路に微細な模様を描く。
町の空気は瞬く間に支配され、住民たちは恐怖と幻覚に翻弄されていく。
領子は渡辺を守りつつ、舞姫の行動パターンを分析し、封印再現の手順を試みる決意を固める。
「……これは……藤兵衛の呪い……そして舞姫は……現代に復活した……」
寒風が吹き抜ける町に、微細な金属粉が舞い、舞姫の存在を静かに、しかし確実に町全体に知らせていた。
町の遠くでは、既に一部の住民が幻覚に飲み込まれ、呻き声と金属音が響く。
粉に触れた者は現実と幻覚の境界を失い、身体が微細な金属と結合したかのように痙攣する。
舞姫はその光景を楽しむかのように静止し、雪と粉の夜に溶け込みながら、次なる惨劇の準備を整える。
領子は渡辺を守りつつ、古文書に記された封印の方法と、粉の挙動、舞姫の顕現の法則を頭の中で整理する。
夜空には雪が舞い、町の灯火が揺れる。
舞姫は自由を得た現代の町で、新たな恐怖を拡散しつつあった。
夜の町を覆う雪と冷気。舞姫が蔵から逃れた後、銀色の微細な金属粉は風に乗り、路地や民家、商店街へと拡散していった。
粉に触れた者は、無意識のうちに幻覚に捕らわれる。
最初の被害者は、雪深い路地を一人で歩いていた若い娘だった。
足元に舞い降りた金属粉が微かに光る。彼女が息を吸い込むと、頭の中で過去の惨劇——血の匂い、壊れた木製人形の軋む音——が再生される。
恐怖に凍りつき、視界の端に白磁の肌と漆黒の髪を認めた瞬間、身体は硬直する。
金属粉は皮膚に付着し、微細な歯車模様が浮かび上がる。
幻覚が現実を侵食し、彼女は壁や戸口、雪に埋もれる家具に触れるたびに、身体が異様なリズムで動き出す。
まるで操られるかのように、体の関節が非自然に曲がり、微細な痙攣を伴って動く。
呻き声が路地にこだまし、雪に反射して異様な音響を作り出す。
別の家では、老人が暖を取るために囲炉裏の火を焚いていた。
金属粉は煙と共に室内に侵入し、視界を乱す。
老人は過去の戦時体験や、古い因習の恐怖を幻覚として再現される。
手元の鍋や道具が生き物のように動き、炎が形を変え、床から金属粉が舞い上がる。
老人の身体は硬直し、微細な歯車が皮膚の下で脈動するかのように痙攣し始めた。
金属粉の触感が直接神経に干渉するかのように、呼吸は乱れ、心拍は急速に上昇する。
町の中央では、商店街の灯火が揺れる。
粉を吸った子供たちは雪や瓦礫に隠れた金属粉を踏みつけ、歩行のたびに微細な震えを身体に伝える。
幻覚で舞姫の指示を聞くかのように、無意識のまま動き回る。
周囲の大人たちはそれを止めようと手を伸ばすが、粉に触れるたびに幻覚に飲まれ、身体を制御できなくなる。
金属粉は空気中で渦を巻き、屋根や軒下に積もる。
雪面に落ちた粉は微細な歯車の模様を描き、夜の町全体に脈打つような規則性を与える。
舞姫は目に見える形ではなく、粉の微粒子として町の中を自由に移動し、幻覚の中心を操る。
一軒の住宅では、夫婦が寝室で眠っていた。
床に落ちた粉が空気中に舞い上がり、視界を歪める。
夫は夢の中で舞姫の微笑みを見、妻は目の前の夫が白磁の肌で微笑む姿に錯覚する。
現実と幻覚の境界が崩れ、二人は互いに攻撃し合うかのように動き、室内で転倒し、家具に衝突する。
粉が呼吸と接触するたびに、微細な歯車音が耳鳴りのように重なる。
商店や公共施設でも惨劇は拡大する。
病院では、微細な粉が空気循環システムを通じて病室に侵入し、患者が幻覚で床や天井に取り込まれるように動く。
金属粉が口や鼻に入り、呼吸困難を引き起こす者も出る。
学校では、子供たちの遊ぶ教室の床に微細な粉が積もり、幻覚に導かれるように教室内をさまよわせる。
粉を吸った住民は、幻覚の中で舞姫の指示に従うかのように行動する。
街路を走る者、雪に倒れる者、壁に手をつく者——すべてが制御不能となる。
微細な歯車模様は皮膚下で脈動し、金属粉と神経系が不気味に干渉している。
領子は渡辺を支えながら、記録機材で現象を記録する。
目の前で、無数の住民が幻覚に飲まれ、身体を制御できずに彷徨う。
雪の町並みは美しい夜景とは裏腹に、金属粉に支配された恐怖の舞台となっていた。
舞姫は粉の渦の中心に潜み、姿を明確に見せることは少ない。
だが、住民の意識は全員が彼女の存在を感じ、幻覚の中で指示を受ける。
低く囁く声、微細な歯車の「カチ……カチ……」という音、白磁の肌と漆黒の髪——
それが町全体に恐怖を拡散させる。
一方、領子は冷静に分析を続ける。
舞姫の顕現は、粉を媒介にした神経干渉——幻覚操作、身体制御——そして町全体の連鎖的恐怖現象を引き起こしている。
「封印を再現するか、物理的に粉を封じるしかない……」
彼女の思考は、被害者の救出、粉の回収、そして舞姫の追跡に集中する。
雪深い夜、町全体に広がる粉の渦は、舞姫の顕現を中心に規則的に脈打つ。
人々は幻覚に導かれ、無意識のまま身体が動き、金属粉と一体化したかのように歪む。
呻き声、歯車音、金属の触感——
町全体が舞姫の舞台となり、惨劇は連鎖的に拡大していった。
第1週目:最初の犠牲者
雪に覆われた江戸時代の町の面影を残す現代の住宅街。寒風が通り抜け、屋根や石畳に白い結晶が静かに積もる。
舞姫が蔵から逃げ出して一週間目。警察病院に入院中の領子は、意識を取り戻すたびに外で進行する惨劇の記録を目の当たりにする。渡辺も同病室に搬送され、互いに面識はないまま、病院内で観察と分析に徹していた。
最初の犠牲者は、町外れの古い工房で一人暮らしの中年男性だった。夜半、粉が室内に舞い込み、男性の呼吸器に侵入すると、脳内に歯車音が響き渡る。「カチ……カチ……」と律動する音は、現実を侵食する幻覚の起点となった。
男性の視界に現れたのは、白磁の肌と漆黒の髪を持つ舞姫の姿。彼女の目は金属光を帯び、存在自体が異様な威圧を放っていた。男性は動こうとしても身体が固まったように動かず、胸部に異常な圧迫感が生じる。
舞姫の指先が微かに揺れると、男性の胸部に鋭い痛みが走る。心臓が引き抜かれる感覚に襲われ、胸腔の中は空洞化していく。次の瞬間、衝撃で男性は床に倒れ、手足が関節ごと切断され、内臓が無理やり引きずり出される。
顔面は苦悶に歪み、頭蓋は微細に亀裂が入り、口から泡を吹く。雪の舞う工房には、四肢と内臓、血液が散乱し、金属粉が光沢を帯びて床に沈む。
第2週目:町中での拡大
二週目、舞姫の影響は商店街や住宅街に広がる。夜間の警備員が粉を吸引すると、幻覚が現実を侵食する。床や天井は歪み、視界に舞姫の姿がちらつく。
警備員の胸部は瞬時に硬直し、心臓が抜き取られる。倒れた後、手足は関節ごと断ち切られ、内臓が無残に床に広がる。血液は凍るように赤黒く光り、粉と混ざり合って異様な光沢を帯びる。
町中の住宅でも同様の惨劇が報告される。夜間、住人が吸い込んだ粉は幻覚を引き起こし、無意識に心臓を差し出すような衝動を誘発する。
胸部を押さえ苦しむうちに、身体は床の上で四肢ごと切断され、内臓が露出する。顔は苦悶と恐怖に歪み、頭部も割れ、衣服は血で張り付き、惨劇の跡は原型を留めない。
病院に入院中の領子は、窓の外で進行する惨状を記録する。雪と血、散乱する手足や内臓、粉が交錯する町の風景に震える手でノートを取り、データをまとめる。
渡辺も同室で、幻覚の共通パターンや粉の動き、心臓抜き取りの瞬間の身体変化を観察。二人は面識はないが、無言の共通理解のもと、町の惨劇の構造を追っていた。
第3週目:惨劇の頂点
三週目に入ると、舞姫の被害は町全域に拡大する。粉は空気中に微細な渦を作り、住民の呼吸を通して身体に侵入する。
学校では教師や生徒が次々と幻覚に捕らわれ、胸部に異常を感じると同時に心臓が抜かれ、手足は関節ごと切断される。
教室の床には血と内臓が散乱し、銀色に光る微細な金属粉が赤黒い血と絡み合う。子供たちの顔は苦悶に歪み、絶叫も届かず、惨劇は静かに進行する。
病院でも患者や看護師が犠牲になる。粉に侵された者は幻覚に支配され、胸部を押さえて呻き、心臓を抜き取られる衝撃により手足や頭部が断裂する。
病院の廊下やベッド周囲に血と内臓が散乱し、金属粉が微細な輝きを放つ。雪の外気と混じり、血は赤黒く凍るように光る。
領子と渡辺は、病室に閉じ込められながらも窓越しに惨状を確認し、粉の拡散と幻覚誘導のパターンを記録する。
町の路地では、舞姫の指示に従い、無意識に住民が集まる。胸部の圧迫と心臓抜き取りが次々に起き、手足や内臓は床に散乱する。原型を留める遺体はほとんどなく、顔面も苦悶の表情のまま変形している。
粉の渦が町全体に広がり、雪面に赤黒い血痕と切断された手足が散乱し、夜の闇に不気味な光を反射する。
領子は観察ノートに手を震わせながら、分析を続ける。「粉は神経と幻覚を直接操作している……心臓抜き取りと同時にバラバラに切断する物理作用も伴う……人体は原型を留めない」
渡辺も同様に観察を続け、粉の流れと住民の動きをマッピングする。
病院内に閉じ込められた二人にとって、雪の町に広がる惨劇は、現実の生存者の存在を絶望的に感じさせる光景だった。
夜の町全体には、舞姫の粉が微細な渦となり、空間の隅々まで侵入する。
住民は無意識に幻覚に従い、心臓を抜かれ、身体は手足や内臓を含めて無残に切断される。
散乱した血液と内臓は雪と混ざり、赤黒い凍結した光沢を放つ。
粉の微粒子は微かに脈動し、舞姫の意思を宿したかのように町を支配していた。
三週間目の夜、町の中心部で目撃された惨劇は最も壮絶だった。
若者たちが雪道で幻覚に捕らわれ、心臓が抜かれ、手足が断裂し、内臓が広がる。血と粉の混合で地面は赤黒く光り、惨劇の痕跡は町の中心広場を覆う。
舞姫は人影のない空間から指示を送り、次々と犠牲者を導く。雪に覆われた町は、凍った血と粉で不気味な光景を呈し、恐怖は極限に達した。
病院の窓から領子は息を飲み、渡辺も同じく窓越しに惨劇を見つめる。
血と内臓の散乱、断裂した手足、苦悶の表情を残す顔面——
町全体が舞姫の支配下に置かれ、原型を留めない遺体の連鎖が続く。
雪が静かに降る夜、警察病院の一室は薄暗く、外界の惨劇を遮る窓ガラス越しに、赤黒く染まった町の光景がちらつく。雪と舞姫の粉が交じり合い、遠くの屋根や路地に奇妙な光沢を放っている。
領子はベッドに座り、厚手の毛布を肩まで巻きながら、深く息を吐いた。目の前には、胸に小さな御守りを下げた渡辺が横たわっている。彼は安静にしているが、視線は病室の窓外に向かい、町全体の異変を無言で確認しているかのようだった。
領子は小声で尋ねる。「渡辺さん……どうして、あんなに凄惨な連鎖の中で助かったんですか……?」
渡辺は静かに胸元に触れ、小さな御守りを指で包む。筒の中には黒い矢じりが輝き、微かに振動していた。
「これは……祖先から伝わるものです。私の家系は渡辺綱の直系。胸に下げたこの矢じりが、退魔の護符として作用したんです。」
領子は息を飲み、ノートを広げる。渡辺の言葉を古文書風に記録する。
⸻
江戸以前、または古の時代、武士渡辺綱あり。
酒呑童子、山中にて暴虐を行い、人を喰らい、村を恐怖に陥れたり。
綱、これを討たんと志し、夜陰に紛れ、童子の館に至り、弓矢を手にし、神器の御守を胸中に懸け、童子の魔力を封じ、矢を放つ。
童子怒り狂い、力を尽くすも御守により霊力阻まれ、綱無傷。
矢、ただの武器に非ず、退魔の護符としての力を有す。
其の後、子孫に御守を伝え、魔・妖・悪霊より護られんことを祈り、常に身につけたり。
⸻
渡辺は続ける。「私の御守りは、舞姫の金属粉による幻覚や心臓抜き取りの攻撃を防ぎました。粉が侵入しても、心臓への直接的な影響を阻止したのです。」
領子はペンを握る手を震わせながら、詳細を記録する。町の惨状と御守りの効力が、文字としてリアルに浮かび上がる。
「粉が脳に侵入し、幻覚を操る。舞姫の指先が微細に動くと、心臓が抜かれる……でも御守りがそれを防いだ……」
領子はつぶやき、窓の外の雪と赤黒い町を凝視する。粉は静かに舞い、街路や屋根、樹木に微細な光沢を帯びて沈んでいる。
渡辺は御守りを握り締め、低く呟く。「呪印が燃え尽きた今、舞姫を封印する方法を考えねばなりません。」
領子はその言葉に反応し、ノートにメモを取る。「封印……今のままでは、舞姫は自由に町を徘徊し続けますね……」
呪印の消失と封印策の模索
呪印が燃え尽きた蔵の中には、舞姫の粉がまだ漂っている。町中の惨劇が、呪印が消えた瞬間に一気に加速したことは、二人とも理解していた。
領子は分析者として思考を巡らせる。「呪印が物理的・霊的に封じていた力……これが燃え尽きたことで、舞姫は完全に顕現した。金属粉と幻覚操作、心臓抜き取り、そして原型を留めない破壊……」
渡辺は御守りを胸に下げながら、静かに頷く。「御守りは私を守った。しかし町の人々や被害者には効かない。封印を再現するか、粉を物理的に隔離するか……それしかない。」
領子は窓の外を見つめる。雪に赤黒い血痕、散乱する手足、内臓、粉……町全体が舞姫の意思に支配されている。
「粉を集める装置……幻覚を逆転させる媒介……御守りと同じ効果を持つ護符……」
渡辺は静かに、だが鋭く言う。「そのためには、舞姫に触れる者が必要です。私の御守りだけでは封印は不可能。呪術と物理的隔離を組み合わせねばならない。」
領子は心臓の鼓動を早める。筆記ノートの文字が走る。「舞姫の構造、呪術の起点、粉の流れ……全てを解析すれば、封印の条件が見えるかもしれない……」
過去と現在の交錯
渡辺は語る。「私の祖先、渡辺綱は、酒呑童子を討ち、御守りを作り、子孫に伝えた。粉や幻覚に対応する退魔の力は、この家系に宿る。現代の舞姫も、古の魔力の変形に過ぎない。」
領子は驚嘆し、同時に戦慄する。雪と血の混ざる町で、舞姫の存在を科学的・民俗学的に解析しつつ、古文書の伝承が現実の力として証明されているのだ。
「御守りがあるなら……それを媒介に、呪印の再現を試みることは可能かもしれません。」領子は小声で呟く。
渡辺は小さく頷く。「しかしそれには、粉を吸収した者の意識と身体の保護、呪術の力の復元、そして舞姫自身の動きを封じる手順が必要だ。」
封印策の具体案
病室に二人だけの沈黙が広がる。
渡辺は御守りを握り、床に沈む赤黒い町を想像する。
領子はノートに詳細な計画を書き込む。
1.粉の隔離
•粉を吸引・収集する装置を作り、舞姫の力の源を物理的に隔離する。
•粉が空中に拡散するのを防ぎ、幻覚操作を封じる。
2.御守りの活用
•渡辺の御守りを中心に霊的回路を構築。
•舞姫が心臓抜き取りを試みても、御守りの力が防御。
3.呪術の再現
•古文書の記述に基づき、呪符・護符を再構築。
•呪印が燃え尽きた現在でも、古代の退魔力を媒介として復活させる。
4.舞姫との接触
•粉を制御下に置いた状態で舞姫に接近。
•動力系と呪術の両面で、蔵に再封印。
領子は手を止め、渡辺の胸元の御守りを見つめる。微かな光と振動が、粉の渦をも抑える力を持つように感じられる。
「……やはり、あなたの御守りがなければ、この計画は成立しませんね」
渡辺は静かに頷き、窓の外に広がる赤黒い町を見据える。「ええ。しかし、封印を再現できれば、舞姫の惨劇は止められる。」
領子はペンを置き、深呼吸する。病室の窓外では雪が舞い、舞姫の粉が微細な光を放ちながら漂っている。町全体がまだ危険に晒されていることを意識し、二人は互いに決意を固める。
「まずは粉を隔離し、御守りの力を媒介に呪術を復元……そして、舞姫を蔵に封印する」
領子は呟き、ノートに最後の線を引く。
渡辺も御守りを握り締め、静かに頷く。
二人の計画は、過去の伝承と現代科学、そして退魔の力を融合させた、最後の希望だった。