第4話:スタートライン
第3話からの続きとなります。
文化祭当日、自分のクラスの売り子担当時間以外は自由時間だったので、貴史・光平と一緒に回ることにした。
「2ー3のおばけ屋敷行こうぜ!」
貴史と光平は初めての中学文化祭に朝からテンションが高く、行きたいところに予めいくつか目星を付けているようだ。
「何が悲しくて男同士でおばけ屋敷に行かなきゃならんのよ…(笑)」
と反論してみるも、
「いいからいいから。結構本格的に作られてて面白いらしいから。」
と両脇を押さえられて連行された。
「げっ。少し並んでるなぁ。まあでも待つか。」
とボヤく光平。見た感じ20人ほど並んでいた。どうやら一緒に入れるのは2人までで、2年生のスタッフが2分間隔くらいで中に入れている。つまりは20分待ちということになる。
よく見ると、ちょうど僕らの前に並んでいるのは高井佳穂だった。一人で並んでおり、友達が後から来る感じだろうか。
順調に列は流れ、いよいよ佳穂が先頭となったが友達が現れる気配がない。佳穂は困った顔をしているように見える。
「高井さん、どうかした?大丈夫?」
そう話し掛けると、一瞬驚いた顔をしてから、ハッとした表情をしてこう言った。
「トキオくん、私と一緒に入って!訳は後で話すから!」
「えっ、ちょっ」
そう言って、ちょうど順番が来たのと同時に手を引っ張られて一緒におばけ屋敷に入ることとなった。後に残された男2人は唖然とし、顔を見合わせた。
いや待て、なんだこの展開は。学年一、いや校内一の美少女と文化祭のおばけ屋敷に2人で入るって、これなんてギャルゲー?
彼女はかなり怖がっているみたいで、私の腕にしがみついてきており、端から見たら完全にカップルに見えるだろう。こんな姿を彼女を想う多くの男子生徒にみられたら、どれだけ恨まれるか考えただけで恐ろしい。おばけ屋敷の本質とは違う部分で恐ろしがっている私をよそに、彼女は女の子らしくワーキャー叫びながら進んでいった。
確かに評判通り良くできているおばけ屋敷で、上部の空間にビニール紐が張り巡らされており、そこに引っ掻けて固定された黒いビニールシートで細い道が作られていて、それに沿って進むと、壁から突然おばけが顔を出してきたり、途中トンネル(冷蔵庫とかの大きい段ボールで作成。)を通ったり(外からトンネルを叩いてびびらせてくる)、絵の具等でゾンビメイクされたマネキンみたいな生首が並ぶ中に本物(ゾンビメイクした生徒)が混ざっていてビックリさせたり、と工夫を凝らした作りになっていた。
無事になんとか出口にたどり着いた。
「結構怖かったね」
そう言って彼女を見ると顔を赤らめていた。なんだろう?と一瞬思ったがすぐに気付いた。中でいつの間にか彼女の肩に手を回して、出てきた後もその体勢でいたからだ。
「あ、ごめん!!」
慌てて少し離れた。彼女があまりに怖がっていたので守ろうと思い自然と手を回してしまっていたようだ。
「あ、違うの!とっても安心できて嬉しかったの。ただ教室を出てからはちょっと恥ずかしかったかな…」
ちょっと気まずい雰囲気になりかけているのをごまかすように質問をしてみた。
「ところでなんで俺と一緒に入ることになったのかな?あと俺のこと知ってたの?名前呼んでくれてたから…」
「えとね。私超怖がりなんだけど、2ー3のおばけ屋敷はすごいらしいから一緒に行こうって友達に誘われて先に並んでたの。けど友達が全然来なくて。でも順番来ちゃって、怖くて一人じゃ入れないし折角並んだのに入らないのも勿体ないしって困ってたところにトキオくんが声かけてくれたの!」
「あ、勿論トキオくんのことは知ってたよ。成績上位者の貼り出しで学年1位だったし、サッカー部でも1年生で活躍してる子がいるって噂になってたし。みんな下の名前で呼んでるみたいだから私もトキオくんって呼んじゃった。」
「なるほど。理解した。俺なんかでお役に立てたならよかったよ。あそこでキョロキョロしてる子はもしかしてお友達かな?」
「あ、ほんとだ。じゃ、私行くね。アリガトね。またね!」
小走りでお友達の元へ駆け寄り、お説教をしている彼女の様を眺めていると、後ろから殺気を感じた。
「どういうことか説明して貰おうか~トキオく~ん」
ちょうどおばけ屋敷から出てきた親友2人が、仁王立ちで私を睨んでいた。
「ま、待て。落ち着け。これには事情が…」
なんとか経緯を説明し、2人を納得させることはできたが、彼女の肩に手を回して教室の前に居た瞬間を何名かの生徒たちに見られており、その後、2人は付き合っているとの噂が流れたのであった。
*****
10月に入り、我が家の競馬が再開される。今月から馬番連勝方式が導入された。ここまで1、2着の枠番号を当てる枠連しかなかったが、馬連は1、2着の馬番号そのものを当てる方式だ。当たる確率が減る分、オッズも期待できるようになる。結果を知っている私にとっては待ってましたという代物だ。
2学期の中間テストがちょうど終わった10月最後の週末、秋の天皇賞がある。ここから年末の有馬記念まで9週連続G1レース開催だ。
この天皇賞はかなりの競馬ファンの記憶に残る結果になっていると思われる。当然私も覚えている。
小雨の降る東京競馬場、不良馬場。勝ちタイムは遅めで全体的に前残りなレースだった。逃げるプレクラスニーを圧倒的一番人気のメジロマックイーンと二番人気ホワイトストーンが追走し、最後の直線残り200m手前からプレクラスニーを突き放したマックイーンの圧勝、のはずだった。しかし、レース早々に審議の青ランプが点いていた。スタート直後のコーナーで他馬の進路妨害をマックイーンが行っており(複数頭が接触していてかなり危なかった)、その結果メジロマックイーンは18着への降着判定。1着馬が大幅に降着となった初めてのG1レースとなった。最終結果は繰上げとなり、1着プレクラスニー、2着カリブソング。
3、4番人気の決着ではあるが人気がマックイーンに集中しすぎていたので高配当が期待できる。単勝と馬連で母への指示出しを行った。単勝馬連それぞれに100万ずつ購入。
結果は、単勝870円、馬連4,680円の配当。払戻金は、単勝870万円、馬連4,680万円、合計5,550万円となった。例によってスポーツバッグ持参で、母の護衛も兼ねて一緒に競馬場に来ている。
そろそろ考えないといけない。現金輸送は危なすぎる。この時代はまだインターネットが普及していないので、A-PATがあったかどうかというところだがよくわからない。自分は社会人何年目かに開始された即PATというサービスでインターネット投票をしていた。まだ10年以上先の話である。解決策は出ず、この件は一旦横に置いておくこととなった。
翌週11月に入り、牡馬三冠レース3つ目の菊花賞。2冠馬トウカイテイオーが骨折により出走できなかったため、主役不在のレースとなった。優勝はダービー2着だったレオダーバン。2着にイブキマイカグラ。主役不在で票が割れているので、人気馬決着であったがオッズはそこまで悪くなさそう。
天皇賞と同様、単勝馬連にそれぞれ100万円ベット。基本的にはこの金額くらいがオッズに与える影響を最小限に押さえる限界値かと思っている。
高配当のものにたくさん賭けるとオッズは減る仕組みだ。各投票種別ごとに売上の何%が払戻金として分配されるかは決まっている。
この時代の正確な分配率は把握できていないが約75%というようなことは聞き及んでいた。
例えば単勝の売上が100億円だったとする。そのうち75億円が単勝の的中口数で分配されることとなる。10万口(購入額1000万円分)がそのレース全体の当たり馬券だったとすると、75億を10万で割って、払戻金75,000円の単勝万馬券ということになる。ここに私が単勝100万円を購入したとすると当たり馬券が11万口となり、払戻金は約68,180円と7,000円近く減少してしまうこととなる。高配当のレースであればあるほど、その影響は顕著となる。
実際先日の天皇賞は史実の馬連払戻金より200~300円程度下がっていると思われる。まあ、それくらいであれば人々に与える影響はほとんどないだろう。
100万円であれば、10倍前後くらいのオッズまでならほぼ影響はない計算となる。私の行動により見知らぬ多くの人への影響はなるべく与えたくないので、この点は注意している。
結果は、単勝560円、馬連1,200円の配当。払戻金は、単勝560万円、馬連1,200万円、合計1,760万円となった。
続く、その翌週。エリザベス女王杯。勝ったのは一番人気のリンデンリリー。このレースのゴール直前に実は故障を発生しており、競争能力を失いわずか7戦での引退、繁殖馬入りとなった馬だ。活躍した期間が短くて競馬ファンでも知らないあるいは覚えてない人が多いかもしれない。騎乗していたのがこの約1年3ヶ月後に不慮の落馬事故で亡くなってしまった若手の有望騎手だったことも相まって記憶に残っていた。改めて騎手という職業が危険と隣合わせのものだと認識する。
そして2着は桜花賞のときも触れたが、ヤマノカサブランカ。
前週と同様の買い方で、結果は、単勝240円、馬連1,190円の配当。払戻金は、単勝240万円、馬連1,190万円、合計1,430万円となった。
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さて、今年のここまでの粗利益(払戻金総額−当たり馬券の購入費用総額)は、「177,480,000円」と1億8千万円近くとなった。だがここから約半分の金額に対して約55%ほど掛けた税金が引かれることとなる。ざっくり一時所得のみで税金計算をすると、この内4,600万円が税金で持っていかれ、手元に残るのは1億3,100万円となる。利益の約35%引かれる計算だ。
こうしてみると、やはり競馬は一時所得で税率が高いため、儲けの手段としてはイマイチな位置付けとなってしまうことを改めて実感できる。株式の売却益に対する税率は約20%(2025年時)だ。2003~2013年までは軽減税率もあり10%台の時代もあり、よりその有利性は高い。今後の展望としては、税率で有利な株式の売買にシフトしていく意向である。
1997年11月Yahooの店頭市場での取引が始まる。ここをマイルストーンにして準備を進めるので、準備としては高校生になってからになる。
店頭市場とは、証券取引所を通さずに、証券会社や金融機関が投資家と1対1で直接売買する市場のこと。ペーペーの若僧個人投資家が証券会社と直接やり取りできる可能性は低いと思われるので、それまでに客観的に見て正当に評価される形へ自分を持っていく必要がある。この課題解決はとても重要だ。
公募価格1株70万円に対し、初値200万円で店頭公開された。ここで1株200万円で買えたとする。3年後の2000年にはその価値は1億6,000万円になる。それほど分かりやすく爆上がりした株だから、その重要度は最大である。ここを成せるか成せないかで予定が大きく変わってくる。東京証券取引所での上場は2003年なので、通常取引が出来るようになる前の話となり難易度が高い。この銘柄以外は通常の上場株式の売買となるので、こういった苦労は一切ない予定だ。
本課題解決については追い追い考えていこう。
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G1レースに戻る。続くマイルチャンピオンシップ。ここは安田記念の時に言及したように1、2着が入れ替わる形で、ダイタクヘリオスが1着、ダイイチルビーが2着。ダイタクヘリオスが4コーナーで先頭に立ち、そのまま楽に押しきったレース。お馴染みの単勝馬連それぞれに100万円ずつで購入。
結果は、単勝1,180円、馬連820円の配当。払戻金は、単勝1,180万円、馬連820万円、合計2,000万円となった。
11月最終週の日曜、ジャパンカップ。この頃のジャパンカップは外国馬の壁が厚く、日本馬は勝てていなかった。まあ翌年トウカイテイオーからレガシーワールド、マーベラスクラウンと3連続で日本馬が勝つんだけども。
この年はメジロマックイーンが日本馬の大将として出走していたが4着。1着はゴールデンフェザント、2着はマジックナイト。あんまり外国馬の名前は覚えてないのだが、カッコいい名前だなぁと何となく覚えていた。
オッズも全然把握できていなかったが、前日のオッズでマジックナイトは2番人気、ゴールデンフェザントは6~8番人気をウロウロ。万馬券のレベルにはいかなそうだったので、とりあえず気にせず単勝馬連をいつも通り100万円ずついくことにした。
結果は、単勝1,810円、馬連6,610円の配当。払戻金は、単勝1,810万円、馬連6,610万円、合計8,420万円と過去最高の払戻しとなった。恒例の別室対応となり、既に顔馴染みになりつつある競馬場スタッフの方々。どうしてそんなに当たるのかと話しかけられたこともある。結果を知ってるんですよ、なんて本当のことを言えるはずもなく、「息子が馬を視る天才なんですの、オホホホホ…」と母は誤魔化してる。肩に背負ったスポーツバッグがずっしりと重い。嬉しい悲鳴である。
そしてその後の3週は全部回避とした。勝ち馬は覚えている。阪神3歳牝馬Sはニシノフラワー。朝日杯3歳Sはミホノブルボン。スプリンターズSはダイイチルビー。どれも圧倒的一番人気でまずオッズがつかない。加えて2着馬もうろ覚えだったため回避が妥当と判断した。
いよいよ、最初に目標に置いたダイユウサクの有馬記念だ。単勝万馬券。2着は最強ステイヤーのメジロマックイーン。ここは大勝負でいく。有馬記念は売上が他のG1に比べても倍くらいあるので当たり馬券が増えてもオッズが下がりにくい。買い方は、単勝200万円、枠連100万円、馬連200万円と合計500万円の大勝負。
結果は、単勝13,540円、枠連3,720円、馬連7,520円の配当。払戻金は、単勝27,080万円、枠連3,720万円、馬連15,040万円、合計45,840万円と過去最高の払戻しを大幅に更新となった。
ここで1つ問題がある。4億5千万という大金、払戻金には銀行振込み対応というものは一切なく現金のみとなっている。1千万円の重さが約1kg。単純に約46kgを抱えて歩くことになる。成人女性一人を抱っこして歩くようなものである。鍛えているので力は強いほうではあるが、長距離・長時間は無理だ。
タクシーを配車して帰る選択をする。高額配当の場合、要望があれば警備員をつけてくれるとのことだったので、タクシーまで警備員の方についてきてもらい、無事に帰宅できた。
今年の競馬はこれにて終了。なんと粗利益は一気に73,100万円ほどとなった。この内約2億を税金として支払う必要があるのが悲しい。5億3千万強が手元に残ることとなる。
母と話をした。
「約2億円は税金で納めないといけないよ。残ったお金だけど、2億3千万を僕にください。残りの3億は好きに使って。」
「わかったわ。元々トキちゃんのおかげで手にしたお金だもの。トキちゃんがそう言うならその通りにする。トキちゃんの銀行口座に入れるね。」
「ありがとう」
投資家として始動するのに1億円くらいあるといいなと思っていたので、2億円以上が必要であった。必要額より大分多めなのは、この贈与は一般贈与に当たり、3,000万円以上の場合は55%の贈与税がかかってしまうためである。自分名義で投資を始めるにはどこかで贈与を受ける必要性があるので、勿体ないがここで処理することとした。
23,000万から400万の基礎控除を差し引き、その55%を差し引くと手元に10,170万円が残る計算となる。翌年2月に確定申告をし、贈与税の納付を行うこととなる。
ひとまず自分の投資資金を確保するという第一段階の目標を達成でき、ようやくスタートラインに立ててホッとした。マル秘ノートを確認し、次の展開を考えながらその日は眠りについた。
第5話へ続く...
数ある作品の中から、当作品を読んでいただきありがとうございます。
ブックマークありがとうございます!
最低限、月1話ペースは守りたいと思っておりましたが、楽しみにしていただいてる方が居るとわかり、少しだけ執筆ペースを上げることができました。ものすごい力になってます。本当にありがとうございます!
引き続き、よろしくお願いいたします。
(追記)一時所得の課税計算に誤りがありましたので、投稿から約17時間後に修正を入れております。2025.10.14の19時頃




