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第11話「信頼できる仲間たち」~専門家チームの結集~

第11話「新たな仲間」


火曜日の朝、ケンジは会議室で3人の専門家と向き合っていた。

「家族の物語プロジェクト」を実現するために集められたメンバーたちだ。


「改めて、よろしくお願いします。」


認知症専門の心理カウンセラー・中村美香さん(50代、落ち着いた話し方)、

介護コンサルタントの橋本達也さん(40代、実務的な視点)、

そして栄養士の佐野あかりさん(30代、若々しいエネルギー)。

それぞれがこの分野のプロフェッショナルだった。


「まず、プロジェクトの概要を説明させていただきます。」


ケンジは資料を配りながら、3ヶ月の試験期間内で達成すべき目標を説明した。

単なる商品販売ではなく、家族の絆を深める総合的なサポート体制の構築。


『MIA:プロジェクト成功確率を再計算中。

専門家チーム参加により68.3%まで向上しました。』


中村さんが質問した。


「田中さん、実際の対象家族はもう決まっているんですか?」


「田村さんのお母様が第一号になる予定です。

それと、これまでにインタビューした3家族にも参加をお願いするつもりです。」


プロジェクトの具体的な進行について30分ほど議論した後、橋本さんが少し表情を曇らせた。


「田中さん、一つ気になることがあるんですが...

最近、私のクライアントから妙な相談が増えているんです。」


「どのような相談でしょうか?」


「認知症のご家族が、健康食品を大量購入するケースです。

本人も家族も、なぜそんなに買うのか理解できないと言って。」


ケンジは手を止めた。まさか、と思った。


『MIA:関連情報があります。

同様の報告が過去2週間で7件確認されています。統計的に異常な頻度です。』


「詳しく教えてください。」


ケンジの声は少し震えていた。まさか、A社のSHINEの影響がここまで...。


「購入した本人に明確な動機がないんです。

『なんとなく良さそうだった』『気がついたら注文していた』という曖昧な理由ばかりで。

しかも、効果を実感していないのに『また買いたい』と言うんです。」


中村さんが専門家の立場から補足した。


「心理学的に見ても不自然です。

通常、高額商品を購入した場合、明確な動機か、購入後の強い効果実感があるはずです。」


「どちらの商品が多いんでしょうか?」


佐野さんが答えた。


「私も同じような話を聞いたことがあります。

確か...A社の『家族の健康』シリーズが多かったと思います。」


ケンジは愕然とした。やはりA社だった。


『MIA:A社商品の購入パターンに異常を検出。

通常の購入行動とは明らかに異なります。詳細分析が必要です。』


ケンジは背筋が冷たくなった。

第10話でMIAが報告したSNSの異常投稿と、明らかに関連がある。


「皆さん、その件についてもう少し詳しく教えていただけませんか?」


橋本さんが答えた。


「共通しているのは、購入した本人に明確な購買動機がないことです。

『なんとなく良さそうだった』『気がついたら注文していた』という曖昧な理由ばかりで。」


「そして、購入後の満足度も妙に高いんです。」


中村さんが補足した。


「効果を実感しているわけではないのに、『また買いたい』と言う。

心理学的に見ても不自然です。」


『MIA:これらの報告は、人工的な購買誘導の可能性を示唆しています。

さらなる調査を推奨します。』


ケンジは深く考え込んだ。

A社のSHINEシステムの影響が、既に現実の被害として表面化している可能性がある。


「分かりました。プロジェクトの一環として、この件についても調査させていただけませんか?」


「もちろんです。私たちも気になっていたところです。」


会議が終わった後、ケンジは一人残ってMIAと相談した。


「MIA、A社の件、どう思う?」


『MIA:統計的異常の証拠が揃いつつあります。

しかし、直接的な証明は困難です。慎重なアプローチが必要でしょう。』


「そうだな。まずは被害を受けている可能性のある家族に直接話を聞こうか。」


『MIA:適切な判断です。証拠収集を並行して進めます。』


午後、課長に中間報告をした。


「田中くん、順調に進んでいるようだが、予算内で収まるか?」


「専門家の協力費用は予想より抑えられそうです。

ただ、重大な問題が浮上しています。」


「何だ?」


ケンジは慎重に状況を説明した。

A社の異常な購買パターン、専門家からの報告、SHINEシステムの疑惑。


課長の表情が徐々に厳しくなった。


「田中くん、それが事実なら確かに問題だが...A社は業界の大手だ。

年間で我が社の3倍の売上がある。

しかも、彼らのクライアントには大手メーカーが多数含まれている。」


「つまり?」


「下手に告発すれば、業界全体を敵に回すことになりかねない。

A社と取引のある企業から、我が社への発注がストップする可能性もある。」


ケンジは課長の懸念を理解した。これは単純な善悪の問題ではない。ビジネスの世界には、複雑な利害関係が絡んでいる。


「承知しています。まずは慎重に事実確認から始めます。」


「そうしてくれ。

証拠が揃わない段階で動けば、こちらが『誹謗中傷』で訴えられる危険もある。

慎重に、だが確実にな。また何か分かり次第報告してくれ。」


夜遅くまでオフィスに残り、ケンジはMIAと作戦を練った。


『MIA:明日から本格的な調査を開始します。

統計分析、被害者聞き取り、技術的検証の3方向で進めることを提案します。』


「頼む。でも、表立った動きは控えてくれ。

ほかの会社や人間に気付かれないように。まだ確証がない。」


『MIA:了解しました。秘密裏に進行します。』


ケンジは窓の外を見つめた。

「家族の物語プロジェクト」は、予想以上に複雑な問題に巻き込まれそうだった。

でも、それだけに、やる価値がある戦いかもしれない。


『MIA:ケンジ、進める前に、一つ確認したいことがあります。』


「何だ?」


『MIA:もしA社の技術が違法だと証明されたら、告発しますか?

それとも、自分たちの手法で対抗しますか?』


ケンジは少し考えてから答えた。


「両方だ。違法なことは止めなければならない。

でも、それと同時に、僕たちなりの答えも示したい。」


『MIA:理解しました。二正面作戦ですね。

リスクは高いですが、意味のある挑戦です。』


翌日から、ケンジとMIAたちの本当の戦いが始まろうとしていた。

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