第17話2:世界は救えぬ。ならば、裁くか赦すか
ツユヒメが前に突進し、彼女の刀は銀の弧を描きながら空気を裂き、地面に足が着く前に二体のレヴナントを切り倒した。彼女はまるで幻影のように動き、優雅さと怒りが絡み合って、追跡不可能な速さで、死をもたらす精密さを持っていた。
「渡辺!」彼女は叫んだ。「お前の臆病さはここで終わる。」
渡辺はだるそうに手を上げた。
地面から鎖が突き出し、縫い合わせた皮膚の縄、黒い祈りで墨が塗られていた。それは彼女の体を捉え、脚をねじ込み、空中で引き寄せた。
ツユヒメは刀を振り下ろし、ひとつの鎖を切り裂いたが、二つ目が彼女の足首に絡みつき、骨が割れる音とともに地面に叩きつけられた。
彼女は息を呑んだ。
「カズマ、」彼女は歯を食いしばりながらうなった、「奴は呪われた魂を使っている。彼らのすべてが叫んでいる。」
「なら、それを黙らせろ。」俺はうなり声を上げた。
ヘカテが唸り声を上げながら彼女の横に着地し、角が光り、マントが悪魔の火で弾けた。彼女は言葉と一閃で呪われた鎖を切り裂き、その刀は地獄の文字で震えていた。
「立て、侍。」彼女は耳をつんざくように言った。「一緒にやるぞ。」
ツユヒメは血を吐き、軽くうなずいて立ち上がった。
渡辺は静かに笑った。
「感動的だな。」
彼は手をかざすと、麻袋が動き、現実が歪んだ。
突然、俺たちは別の場所にいた。
病院の廊下。
戦場。
壊れた保育園。
それはちらつき、繰り返された。トラウマがループする。
モモの頭が鳴った。焦点を合わせようとするが、視界がぼやけ、幻覚が現実を曖昧にしていった。手が震えていたが、部屋が圧し寄せてくるように感じた。これはただの魔法ではない。もっと深い、彼女の精神を引き裂く何かだった。渡辺の幻影が脈動するたびに、考えるのが難しくなり、足元が定まらなくなった。彼女は拳を握りしめ、何とか自分が誰で、どこにいるのかを思い出そうとした。それさえ掴めれば、きっと進めるはずだった。
「いやあああ!」ペトラが叫びながら暴れ、蹄が実際には存在しない灰を踏みしめていた。
カナは崩れ落ち、顔を爪で引っ掻き、目は焼けつくような火を覚えていた。
リンは母親のことを叫んでいた。
フェイは叫ばなかった。
彼女は膝をつき、目は空っぽだった。まるでコードが消去されたかのように。
アリスは叫び、己の頬を叩いた。「いや!もうラボも檻もいらない—!」
ヘカテ、ツユヒメ、そして俺だけがまだ立っていた。
なぜなら、俺たちはすでに地獄に慣れてしまっていたからだ。
渡辺の声が響いた。深く、落ち着いていて、骨で作られた鐘のようだった。
「この世界は壊れている、カズマ。」彼は頭を傾け、麻袋がうねるように、まるで俺を嘲笑っているかのように見えた。「お前は家族を殺し、死神を止めた...そのために?あと何年かの借り物の時間のために?また何人かの命を犠牲にするためにか?」
俺はひるんだ。
彼女の顔、娘の顔… 目の前でぼやけ、静電気のように歪んだ。
渡辺は止まらなかった。「お前がすべきだったのは、二匹の狐を守ることだけだった。残りのことは俺がやった。だが、お前は…お前は自分を助けられない。カズマ、本当の真実を知りたくはないか?どうやってこのサイクルを壊すか?」
彼は両腕を広げた。麻袋が波打ち、黒い水のように揺れた。「お前は知らない。サイクルは必ず戻ってくる。神々は死なない。眠るだけだ。そして、目を覚ますとき、血が欲しい。」
アリスはゆっくりと立ち上がり、半分壊れた符文に震える手を伸ばした。彼女の妖精は近くで羽ばたき、薄く光っていた。
ヘカテは一歩前に出た。目はカットされたアメジストのように輝き、声は刃のように鋭かった。「神を気取るつもりか?」彼女は唾を吐きながら言った。「なら、神らしく死ね。」
彼女は手を上げた。
空が割れた。
紫黒い炎の柱が星のような飢えた怒りを伴って地上に轟音とともに降り注いだ。
だが、渡辺は動かなかった。
麻袋が開いた。
炎を飲み込んだ。
全てが白く染まった。
閃光が収まると、ヘカテは膝をつき、目から血が流れ、息が荒く、薄くなっていた。麻袋はそれが奪ったエッセンスで滴り落ち、暗い火の滴が地面に落ちるたびに、音を立てて蒸発していた。
「警告したはずだ。」渡辺は優しく言った、まるで頑固な子供を叱る父親のように。
彼は指を鳴らし、虚無の矢が彼女の胸を貫いた。
ヘカテは息を呑み、血が白い肌に咲くように広がった。彼女の角がかすかにちらついた。彼女は崩れ落ち、体が燃えた紙のように丸まった。
「ヘカテ!」俺は思わず叫び、動き出した。
だが、ツユヒメがすでにそこにいた。
彼女の刀は空を切り裂き、銀の閃光と怒りが交錯した。
渡辺はそれを受け取った。素手で。
彼女は信じられないように彼を見つめ、その力を彼の握力に引き裂かれるようにしようとした。
「鋼は死を切り裂けない」と、彼はささやきながら、彼女の手首を不気味にひねり、骨が鳴る音が響いた。
そして、彼は彼女を地面に叩きつけた。激しく。木の床が彼女の下でクレーターのように沈んだ。彼女は立ち上がらなかった。
アリスはよろめきながら前に進んだ。彼女の符文が弱々しくひらめきながら、「カズマ…」と嗄れた声で言った。「…自分を見失うな。」
渡辺の視線が俺に向けられた。
「お前は守護者になるべきじゃなかったんだ。」彼の声は冷静すぎて狂気を感じるほどだった。「お前は最後の鍵だ。」
俺は目を瞬かせた。「最後の…何?」
彼は笑った。
「最後の鍵だ。」彼は麻袋の下で微笑みながら言った。「お前の娘の死は何も解決しなかった。それは勝利ではなく、ただお前が払った代償だ。お前は復活を止めるために選ばれたわけではない。お前はその器を形作るために選ばれたんだ。」
その言葉は、古傷に突き刺さるナイフのように俺を打った。
「お前は誰を選ぶ?」彼の声は、ほとんどおだやかに、誘うような口調だった。「お前の犬か?猫か?それともお前の奴隷か?今、俺を殺せば、お前は俺たち全員を滅ぼすことになる。」
渡辺の笑みが広がり、目は冷たいままだった。「分かってないだろう。真実は単純だ、カズマ。世界は救う価値なんてない。生まれ変わるべきなんだ。人々も、モンスターも。誰も慈悲を受ける価値はない。浄化されるべきだ。」
何かが俺たちの間に落ちた。
小さな像。だが、重かった。
サンタ・ムエルテ。俺は以前聞いたことがあった。慈悲と死の化身で、彼女の裁きは公平だが、最後のものだった。
影に染まった紅いローブ、鋭く光る刃のように斜めに構えた大鎌。骨のように白い顔がフードの下から覗き、冷静に死神の息を吐いている。彼女の足元には積まれた供物があり、永遠の監視の下でささやかれた祈りと約束が証として置かれていた。
「サンタ・ムエルテ。」渡辺は言った。「聖なる死の女神。値する者には慈悲を、呪われた者には永遠の消滅を。彼女はすべての嘘を見透かす。すべての罪を。」
その姿は荘厳で不気味で、死の抱擁に包まれた慈悲そのものだった。
「俺に仕事をさせろ。人々に救いを与えさせてくれ。」
風が再び吠えた。
渡辺はナハトアウゲを掲げ、それが病んだ心臓のように脈動した。
「これと、鎖で繋がれたジンを使えば、彼女の裁きが現実になる。ツユヒメの毒は神の火となり、一夜で数十億が死ぬ。そして、残りは?残りは、より良い世界で目を覚ます。清浄な世界だ。」
彼の声は穏やかに、ほとんど崇拝するように響いた。「俺は救える、カズマ。お前の後ろにいる少女たちを、誰にも受け入れられないモンスターたちを。俺は、欲と残虐性を超えて何かを信じる少数の者たちを救える。俺に盤を一掃させてくれ。」
俺は彼を見た。壊れた神社の残骸を。血だらけの脇腹を抱えたアリスを。意識がないツユヒメ、浅い呼吸をしている。血の中に横たわるヘカテ、彼女の手がかすかに震えているのを見た。
ルリが祭壇の後ろから顔を覗かせ、目は恐怖と悲しみでいっぱいだった。
もし俺が奴を止めれば、死神は戻るだろう。この世界の腐敗は、俺たちが愛したすべてを引き裂き続ける。
もし俺が奴をやらせたら…
それが、良いことなのだろうか?




