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第17話1:夜明け、風が裂いた

最初の兆候は風だった。


いつもの木々を通り抜ける風のざわめきや、鳥居の紙の御守りが遊ぶように揺れる音ではなかった。それは刃だった。鋭く、ヒスを上げながら空気を切り裂いた。それは冷たく、飢えたような存在感を帯びて、神社の命を絞り取るように感じられた。木の梁がうめき声を上げ、灯籠は灯を保とうと必死に揺れていた。


内部では、私たちは準備の真っ最中だった。


アリスは光る符文のラインの上にしゃがみ、指にインクが付いたままだった。ツユヒメの刀は、砥石のリズムに合わせて歌っていた。リンの手は震えていた。護符を結ぼうとしたが、何度やっても折れてしまう。ペトラの蹄は不安げに床を鳴らしていた。フェイは隅に立ち、背筋を伸ばして、まるでこの地獄から抜け出す方法がそのタブレットに書かれているかのようにそれを見つめていた。


俺は縁側に座り、指の間にタバコを挟んで、夜の最後の糸が薄く、脆い朝に溶けていくのを見ていた。


ルリは俺の足元に座り、背中を柱に押し当て、膝を胸に抱えていた。彼女は何も言わなかった。ほとんど話さなかった。だが、そこにいた。小さく、息をして、頑固に存在していた。


アリスの笑顔は広かった。誰にも彼女の不安が見えないくらいに広かった。彼女はいつも、混沌を引き起こす役目を担っていた。戦いを楽しむ役目を。だが、内心では何が賭かれているのかを知っていた。少女たちは彼女に頼り、俺も彼女に頼っていた。失敗は許されなかった。彼女の指は符文の上を舞いながら、今、力を求めているのではなく、彼女たちを守るために動いていた。


その時、起こった。


空気がねじれた。アリスが仕上げたばかりの呪文の結界が、ガラスのように割れ、ひび割れた。


フェイは顔を上げ、冷たい金色の目が閃いた。「何かが防御線を突破した。」


ヘカテはすでに立ち上がり、髪が揺れ、微かな紫色の光が彼女の肌に波のように広がった。「動け。今すぐ。」


俺は質問をしなかった。


急いでルリを抱え上げ、彼女の小さな手がパニックで俺のコートをしっかりと掴んだ。「俺と一緒にいて、ルリ。」俺は彼女を強く抱きしめ、彼女の小さな体の重さが、この混乱の中で俺を引き止めるように感じた。彼女がいるからこそ、俺は戦い続けている。もう、彼女を傷つけさせるわけにはいかない。


一筋の空気が神社に向かって爆発的に流れ込んだ。その力で扉が開いた。


圧力が神社の中に広がり、まるで拳が肺を締めつけるように感じられた。


そして、彼が木々の後ろから現れた。


渡辺だ。麻袋を持ったままで。


彼の周りには、不自然な何かがねじれていて、空気そのものが滲むような輝きが漂っていた。彼の姿がぼやけ、割れ、十の自分に分裂して、幽霊のように揺れ動いていた。それぞれの影が光を曲げ、周囲の現実を歪めて、まるで世界そのものが彼の存在を収めきれないかのようだった。


彼の笑みは薄く、手は空っぽだった。


その周りから、彼らが現れた。


JPSDFの影。黒い鎧に輝く紋章が刻まれ、武器は鋼と、何かもっと人間離れしたものの間で輝いていた。そして、モンスターたち。首輪をつけられ、縛られていた。半壊した雪女が四つん這いで這っていたのを見た。首に鎖をつけられたサイクロプスの巨体が立っていた。そして、さらにひどいものたち。まるで糸で操られた人形のように動いていた。


ヘカテの剣が彼女の手に鳴り響いた。笑みは鋭い刃のようだった。「かわいいペットたち。」


「おはよう、カズマ。」彼の声は落ち着いていて、温かみさえ感じられたが、どこか間違っていた。まるで古いスピーカーを通した反響のように。 「探す手間を省いてやろうと思ってな。」


俺の後ろで、アリスの妖精がヒス音を上げた。フェイの手がタブレットの上を素早く動き、唇が計算の早口で動いていた。ツユヒメはすでに一歩前に出て、刀を上げていた。


リンが小さな声を漏らした。息を呑んだような、泣き声のような。俺は振り向くと、ペトラが崩れたテーブルの後ろに彼女を引き寄せ、震える腕で彼女を守ろうとしていた。


俺はルリを下ろした。


彼女の目が俺を捉えた。大きく、恐怖で濡れていた目。言葉にならないお願いが拳のように俺を打った。「カズマ。」彼女は息も絶え絶えに囁いた。「お願い、戻ってきて。」


俺は彼女にすべてを約束したいと思ったが、俺自身にすら約束できなかった。そして、心の奥で、あの問いが深く切り込んできた。今、彼女は俺のことをどう見ているんだろう?守るべき者だと見ているのか?それとも、ただの壊れた男で、また彼女を裏切っているのか?


嘘は俺が持っていた唯一のものだった。俺は彼女の髪に手を伸ばし、指は粗く、不器用に触れた。「俺はどこにも行かない。」


立ち上がり、歯をむき出しにして、笑顔と言えるかどうかも分からないものを浮かべた。


「分かった。」俺は呟き、魔法の波動が肌の下でパチパチと音を立てるのを感じた。「お前が言われているほど殺しにくいのか、確かめてやる。」


銃声が鳴り響いた。さらにもう一発。


モモが木の上から飛び降り、翼を広げ、爪を前に出して突撃した。「遅れてごめん!」彼女は叫び、ギャルっぽいイントネーションがアドレナリンで割れていた。「爪をやってたんだ!」


彼女は走っている兵士の真ん中で突進し、そのまま後ろへひっくり返し、柱にぶつけた。それは割れ、その兵士の背骨も割れた。


アリスは手のひらを地面に叩きつけ、符文が暴力的なピンクの炎のリングとなって爆発した。「奴は軍隊を壊れたアイデンティティで隠している!今、解除する!」


渡辺の複製の輝きが鏡のように割れた。八つが消え、残ったのは二つ。ひとつは本物、もうひとつは呼吸する幻影。


フェイはためらうことなく発砲した。「エントロピー比をテスト中。」


偽の渡辺は、圧縮された力の弾丸で消滅した。


「確認済み。本物は右側。」


渡辺は笑い、指を鳴らした。死者が蘇り、蒼白で壊れた体を引きずりながら、その目は黒い穴のようだった。


「死者使い。」ツユヒメがささやいた。


「違う。」アリスは震えながら言った。「もっと悪い。奴は魂を繋いでいる。」


レヴナントが突撃してきた。


ツユヒメは、それらを鋼と怒りの中で迎え撃った。彼女の刀は幽霊を肉体から切り離し、その足運びは雨のように落ち着いていた。一体のゾンビが彼女の肩を掴んだ。彼女はそれの腕を振り向かずに切り落とした。


「ペトラ!」俺は叫んだ。


彼女は前に飛び出し、角が輝き、蹄が地面を砕いた。彼女の盾は空中でショックバトンとぶつかり、それはおもちゃのように粉々になった。ペトラは雄叫びを上げ、兵士を庭の壁を蹴り飛ばして壁を突き破った。


「リン!」フェイが吠えた。「今だ!」


ペトラのカバーの後ろから、リンが小さな球体を群れの中に投げ入れた。


それはビープ音を発した。


そして、反魔法の衝撃波で爆発し、幻影を打ち消し、死者の束縛を乱した。


「...成功したのか?」リンはもう一つをしっかりと握りしめて聞いた。


「はい。」フェイが確認した。「もう一度やれ。」


カナは戦いの中に飛び込んで行った。尾は青い炎のようにぶれていた。「隠れるのはもう飽きた。」彼女は唸りながら言った。「踊ろうぜ、クソ野郎ども!」


ミオは静かに立っていた。あまりにも静かに。


渡辺がルリに手を伸ばしたとき。


ミオは動いた。


一瞬の閃きで、彼女の魔法は兵士の目のくぼみに岩を埋め込んだ。彼が呪文を唱える前に。


「触れるな。」彼女は言った。冷徹で、決定的な声で。


その背後で、ルリは祭壇に這い寄り、目を閉じた。彼女の手は震え、護符を胸に引き寄せ、祈り始めた。


「ルリ!」俺は叫んだ。


だが、彼女は顔を上げなかった。


彼女はただ繰り返し囁いた。「お願い、お願い、彼女たちを守って...」


かすかなピンクのシールドが彼女の周りに揺らめいた。


アリスは驚いて横を見た。「ミズツキが神の祈りを呼び起こしている。ルリは...今は安全だ。」


俺はすでに動き出していた。


渡辺が手を上げた。麻袋が脈動し、彼の周りで現実が歪み始めた。


「お前の心は脆い、カズマ。」彼は優しく言った。「その重荷を俺に任せろ。」


俺は銃を引き抜き、歪むベールを越えて、歪んだ記憶、妻や娘、失敗の亡霊たちを抜けて歩きながら思った。


もう気にしない。


英雄になろうとしているわけじゃない。


誰かを救おうとしているわけじゃない。


俺はただ、しがみつけるものを守っている。


ルリ。この命。


「重荷が欲しいなら。」俺は唾を吐いた。


幻影に向かって撃った。


「間違った神社に来たな。」

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