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第13話1:帰還、沈黙の祈り

神社は静寂の中で待っていた。


ルリはようやく眠りについた。私が手を伸ばして、優しく彼女を揺さぶると、彼女は本能的に身を引いた。胸が重くなったが、言葉を口にする前に、彼女が私を掴んだ。


私はルリを抱えて階段を上がった。彼女の重さはほとんど感じなかったが、指先が私のコートに淡い三日月のような跡を残した。彼女はあの部屋から引き離してから一度も言葉を発していない。彼女には、それが必要なかった。


鳥居が頭上にそびえ、月に対して黒く木が浮かび上がっていた。木の梁に結びつけられた紙の札が、夜風にわずかに揺れて音を立てていた。異世界とこの世界の境界。私はその境界を何度も越えてきた。


私が触れる前に、ドアがスライドして開いた。ミオが立っていた。フーディーが肩にだらりと掛かり、目は平坦。何も言わず、ただ横に一歩退いた。


誰もが静かだった。ペトラは隅で歩き回り、蹄が床を神経質に叩く音が響いていた。リンは膝を抱えて座り、手にお守りをしっかり握りしめ、唇を動かしながら音を立てずに祈っていた。


ツユヒメは壁の近くに立ち、片手でカナの肩に、顔は冷静だが、目は鋭く、周囲を見守っていた。


ヘカテだけが私の視線を受け止めた。彼女は口を開こうとした。


「カズマ、ルリ、私は…」


「言わないで。」


彼女は口を閉じた。


失われた無垢は二度と戻らない。私はかつて、時間が物事を修復するのだと信じていた。それが薄れていくものだと思っていた。しかし、時間はすべての傷を癒すわけではない。それは、子どもたちを眠らせるために私たちが言う嘘だ。そう信じる方が楽だろう?すべてはそのうち良くなると、私たちは前に進むものだと。でも、今の私は知っている。いくつ年を重ねても、癒えない傷があることを。


今、ルリ次第だ。彼女が立ち上がれるかどうか。笑顔を保ち、尾を振り続けることができるのか。それとも、心の中の穴が彼女を飲み込み、過去のかさぶたを剥がしながら、自分を失っていくのか。


謝罪なんて、ただの音に過ぎない。


中に入ると、香の香りと湿った石の匂いが漂っていた。フェイはテーブルに座り、タブレットを操作していた。指の下で冷たい青い光が点滅している。


「彼女は安定している。」フェイは顔を上げずに呟いた。「骨折はない。軽い打撲。…永続的なダメージはない。」


彼女の声が、一度だけひっかかった。ほんの小さなひび割れ。


ルリはうめき声を上げ、私の胸に顔を埋めた。


フェイは立ち上がり、私から優しく彼女を引き取った。「おいで、子犬。」


ルリはフェイにしがみついた。フェイの腕は硬く、少し不安定そうだったが、それでも彼女はルリを抱きかかえ、ぎこちなくも優しく耳を撫でた。彼女はルリを別の部屋に運んでいった。


ミオはドアの近くに立ち尽くしていた。


「あなたが置いていったんだ。」彼女は小さな声で言った。私を見ずに。


私は答えなかった。


「カズマ、あなたは—」


ヘカテが彼女を掴み、口に手を当てた。彼女の尾が一度ピンと張り、鞭のようにしなった。


ミオはその言葉を続けた。音はこもっていて理解できなかったが、私は何を言ったのかを知っていた。


何か言うべきだった。反論すべきだった。謝るべきだった。でも私は拳を握りしめていた。


ミズツキは部屋の隅の窓のところに立っていた。腕を組み、闇に向かって視線を向けていた。私と目が合うと、まばたきもせずに見つめ返してきた。


私の中で何かが壊れた。


私は部屋を横切った。


バンッ。私は彼女に強くパンチを打ち込んだ。彼女は後ろに倒れそうになったが、音を立てることなくそのまま姿勢を正し、私に反対側の頬を見せた。まるでそれを期待しているかのように。


私は彼女を壊したかった。何かを壊したかった。自分を壊したかった。神を殴ることが、唯一の反発の方法のように感じた。それは拳の中の原始的な叫びだった。


私の胸にある傷のように、癒されるべきではない傷もある。それを抱え続けてきた時間が長すぎた。それが今、私が知っている唯一のことだった。私は床に沈み込んだ。背中は壁に当たっていて、膝に腕を掛けていた。


世界は、雨で濡れた木と古い血の匂いがした。


足音が近づいてきた。柔らかく、意図的に。


ヘカテが私の上に立っていた。裸足で、薄暗い光の中で角がかすかに輝いていた。


「馬鹿。」低い声で、ほとんど優しく言った。


私は乾いた笑いを漏らした。「それだけか?」


「今のところ。」彼女はほのかににやりと笑い、鋭い爪で私の胸を突いた。


彼女は膝を折って、きちんと座り、肘を膝に乗せた。「あなたが繋がれた糸を切ったのを感じた。」


私は片目を開けた。「そうか?」


「あなたが、残された魂の鎖を断ち切ったのを感じた。」ヘカテはささやいた。「私は、あなたが人間に戻ってくるのを待っていた。」


一瞬、私はそれを言いかけた。俺は人間ではない。でも、悪魔ですらその種の告白を聞くべきではなかった。


「イリーナはどうした?」


ヘカテは私の隣に座った。「ロシアに逃げ帰ったよ。私たちのような変人たちと一緒にいるには、事態が真剣になりすぎたんだ。」


彼女は指を私の前に差し出した。先端から小さな炎が出て、私のタバコに火がついた。


私は深く吸い込んだ。「お前、いいライターだな。でも燃料が俺には頭痛を引き起こす。」


「失礼ね!」彼女は私の腕をかなり強くパンチした。十分に痛かった。「私は王族だ、忘れないでよ。」


部屋の中には柔らかな音が響いた。ペトラが緊張しながら毛布を積み上げ、リンが震える手で水を汲んでいた。ミオは壁にもたれかかり、私を半分見ながら半分は前髪に隠れていた。ツユヒメは隅で刀を磨いており、姿勢はまっすぐだった。


他の者たち。彼らは私を知らない。ほんとうに。


彼らが知っているのは、アリスが崇拝する男。フェイが報告する体。ルリがしがみつく粗野な守護者。


彼らは、鎖が外れたときの私を知らない。


彼らは私を、名前も付けられないような存在だと見ている。


アリスのようには見ていない。狂気と意味で瞳が輝いていた彼女のように。


ミオのようには見ていない。安心と注意を求めていた彼女のように。


ルリのようには見ていない。彼女の傷だらけの体でも、私が「オーナー」と呼ばれるに値する人間だと信じたかった彼女のように。


いいえ、他の者たち。ペトラ、リン、モモ、カナ、ツユヒメ。彼らは私を、まるで地平線に現れる嵐を見守るように見ている。


私が空っぽであることを知らない。そうする方が安全だ。


私はしばらく、思いにふけながら座っていた。


しばらくして、ミズツキが近づいてきた。顔は先ほどよりも赤くなっていた。


彼女の存在は控えめだった。優しくはない。決して優しくはないが、慎重だった。彼女は、あなたの背骨を引き抜いても一滴の血もこぼさずに済むような優雅さで近づいてきた。


彼女は私の隣に座り、きれいに足を折りたたみ、膝の上に手を置いた。


「あなたは、彼女たちを離れるつもりだ。」彼女は、前置きもなく言った。


私はため息をついた。「何がわかったんだ?千ヤードの目線か、それとも壊れた罪悪感のオーラか?」


彼女の唇がかすかに笑みを浮かべた。「どちらでもないわ。あなたは、間違いを犯す前にその空気を持っている男だと感じるわ。」


私は頭を天井に向けて、目を半分閉じた。


「彼女は子供だ。」

僕は呟いた。「彼女は僕を信じていた。みんな、そうだ。で、彼らが得るものは何だ?壁に血を塗りたくって、悲鳴が響いて、忘れたい記憶だけが残る。」


ミズツキの視線はぶれず、皮膚を剥がすような鋭さを持っていた。


「それでも…ここにいる。まだ息をしている。」


胸の奥から低い息が漏れた。笑いにも、うめき声にも似た音だった。「息をするのは安い。」


彼女の指が僕の胸に触れた。「死ぬのもな。」


その言葉は予想以上に重かった。しばらく、僕は彼女の言葉を理解したような気がした。僕の悲しみ、僕の破滅の重さは、僕だけのものではない。あの子たちは、僕が安全を提供したからではなく、選択肢を与えたからこそ、僕についてきたのだ。もしかしたら、それが一番恐ろしいことだったのかもしれない。


その瞬間、僕たちは無音の中に座っていた。雨音が屋根を優しく叩く。カーテンがひらひらと揺れた。


僕は喉を鳴らしながら、声が荒れた。


「彼女たちを近くに置けば、壊れると思ったんだ。それが僕だ。壊れたもの。いい言い訳を待ってる、ゆっくりとした崩壊。」


ミズツキの声が、今度は少し優しく、でも鋭く響いた。


「君だけが悲しみを持っていると思うか?君だけが破滅を背負っていると思うか?あの子たちは…君が安全を与えたからついてきたわけじゃない。君が選択肢を与えたから、ついてきたんだ。」


僕は思わず体を震わせ、顎を引き締めた。


「彼女たちは最初から安全じゃなかった。」彼女は呟いた。「君が彼女たちを暗闇に引き込んだんじゃない、カズマ。彼女たちは最初から暗闇の中に生まれたんだ。君ができたのは、彼女たちに何かを見つけさせることだけ。」


僕は手を額に押し当て、ポケットに忍ばせた青酸カリのカプセルの重さを感じた。それは出口だ。でも、それだけが唯一の方法ではない。前には見えなかった選択肢が、もう一つあった。


ミズツキの言葉が頭の中で響く。「あの子たちは、君が選択肢を与えたからついてきた。」たぶん、これがすべてだったんだ。あの子たちを救うことじゃない、どんな傷からも守ることじゃない。ただ、最終的に彼女たちに選択肢を残すこと、それが僕の役目だったんだ。


「ルリ…彼女は–」声が震えて、言葉を止めざるを得なかった。拳を握りしめた。「彼女はもっと幸せになるべきだ。」


一瞬の静寂。


それから、ミズツキが予想もしなかったことをした。


彼女は手を伸ばし、僕の肩に触れた。まるで息が触れるような、温かさのささやき。


「彼女はもっと幸せになるべきだ。」ミズツキの声は柔らかく、でも確かなものだった。「それをあげなさい。まだ君の選択だ。」


扉がスッと開いた。

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