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第10話:壊れた心、救えぬ世界

夜は骨までしみるような冷たさだった。外に出るたびに、すべての一歩が後悔を呼び起こすような冷え込み。晩秋はとっくに冬の縁に差し掛かり、街には普段よりも多くの幽霊が漂っていた。風が細い路地を刃のように切り裂き、僕はコートを引き寄せて体を包んだ。でも、あまり意味はなかった。その冷えは肌に染み込み、鎧の隙間を突いて、ここにいることがどれほど嫌かを痛感させる。


どこへ行くつもりだったのか、正直よく分からない。でも、そもそも目的地なんて最初からなかった。街は無限に広がっていて、冷たい金属的な光がネオンから漏れ、澄んだ空気に染み込んでいく。人々は周りを歩いているが、その顔はぼやけていて、マフラーに包まれ、温まるために寄り添っている。しかし、それはすべて遠くのハム音のようで、僕が触れることのできない、手の届かないものだった。僕にとっては、ただ無駄な世界にすぎなかった。


僕はタバコを指で摘み、煙が赤く光るのを一瞬見つめてから、風に吹かれてその温かさが消えた。


新宿は地獄だ。鼻で笑いながら、煙草の吸い殻を地面に落とした。


この街のすべてが人工的だった。偽りの笑顔、偽りの会話、何の意味もない「コミュニティ」の理想。虚無を埋めるためのただの言葉だ。


僕は巨大な怪獣の像が乗ったビルの前を通り過ぎた。問題を隠してしまえ。東横のガキどもが政府を悪く見せ、観光客に間違った印象を与える。問題を解決する?そんなことしない。見えない場所に移動させるだけだ。


政治家は国の問題について語るのが好きだ。少子化?状況を改善するために何かする?それは投資を伴うから、誰も年金の一部を手放す気はない。真実は簡単だ、誰も重要じゃない。クソくらえ。


僕は手をコートのポケットに深く突っ込んで、歩き続けた。通りは、今夜の早い時間に降った雨の残りで滑りやすく、濡れたコンクリートの匂いと通り過ぎる車の排気ガスが混じっていた。屋台の人々は一日を終え、時折酔っ払った男が通り過ぎ。


頭が空っぽの外国人がまるで異星のような日常の些細なことをストリームしていた。どうして外国がこんなクソな国なんだろうか、日本が魔法の国だなんて。人口減少を補うために移民を増やす?日本は自らの自殺を加速させようとしている。


これが、これが生きる価値のあるハイライトか?


思考が彼女たちに向かう。


ルリの顔が頭に浮かんだ。いつものように尾を元気よく振って、無邪気な声が静寂を突き破る。まるで今、オーナーに「そんなに不機嫌な爺さんみたいに振る舞ってないで、さっさと自分を克服しなよ!」と叫んでいるように聞こえた。


でも、簡単なことじゃなかった。もう演じるのに疲れた。引きずられるのにも疲れた。タバコのフィルターが焼け尽きるように、終わらせるべきだった物語の中で役を演じ続けるのに疲れた。


アリス…


あのクソったれなホムンクルス。


彼女は僕をすべての答えのように見ていた。「ダーク・ワン」。まるで僕が神様のような救世主で、小さなカルトを約束の地へ導くためにここにいるかのように。僕が指を鳴らすだけで、この世のすべての問題が解決するかのように思っていた。でも僕はただ、前の雇用主に嫌がらせをして、辞表を出したかっただけだった。


退職金が銃殺隊だと思っていた。人事が間違えてたに違いない。


胸の中で笑いがこみ上げてきた。苦くて、空っぽの笑い。


自分の家族すら救えなかった。妻も、娘も。


彼女の目は希望に満ちていて、信じる力で溢れていた。僕は彼女たちを守るべきだった。でも、代わりに埋めたんだ。そして今、僕は罪悪感だけを抱えて歩いている男のように感じる。


コートの襟をさらに引き上げ、顔を布に埋めて消えたいと願った。


でも、冷たい風からは逃げられない。そこから逃れることはできない。もう、ただの演技もできない。


何のために生きているんだろう?


ミオは以前よりも静かで、控えめになっていた。それが、逆に嫌だった。彼女が何も気にしていないふりをしている様子が見える。無表情で、いつも冷静で、反応しない。ルリとは違う。ミオは叫ばなくてもその存在感を示すことができる。叫ぶ必要なんてない。彼女の静けさは叫び声以上に大きい。


ほんの少しだけ、僕の顔に微笑みが浮かんだ。それも、彼女が疲れていたら、子供扱いしてほしくなるけどな。


何日も剃らずにいた無精ひげを手で擦った。顔の荒れた感触を感じながら。


何のために生きているんだ?


もう一本タバコに火をつけた。マッチの炎が一瞬だけ顔を照らし、その後すぐに煙を吸い込んで消した。


どうでもいい。


でも、深いところでは、ほんの少しは気にしているのかもしれない。


僕は通りを歩き続けた。風が顔を突き刺し、目に涙を浮かべさせる。横断歩道を渡り、狭い路地に曲がった。両側の壁が高くそびえ、押しつぶされるようだった。一瞬、影の中に何かを見た気がしたが、振り返っても、そこには何もなかった。


背後で音がした。低いハム音。濡れたアスファルトの上を転がるタイヤの音。


それは、目にする前に耳で感じた。黒いセダンが、何か温かいものが死ぬのを待つように、死肉を狙うハゲワシのようにゆっくりと僕の後ろを追っていた。僕は歩き続けた。気づいていないふりをさせてやった。


でも、それはずっとついてきた。速度もリズムも変わらない。墓場に紛れ込めば見えないと勘違いするような新人のような尾行だ。


僕は路地に入った。


狭い壁。出入りは一方向、逃げ道もない。構わない。怖がるべきなのは僕じゃない。


エンジン音が消えた。ドアが軋んで開く音。


よし、これで片付ける時が来た。


誰を送ってきたかは知らないが、俺は—


「おいおい!」


遅すぎた。


声を認識する前に、すでに刃は抜かれていた。無意識に、意図もなく喉元に手を伸ばしていた。一瞬、相手の顔が分からなかった。ただ、スーツ姿の形が近づいてきた。


その瞬間、冷気は感じなかった。ただ脈の中の熱だけが伝わってきた。誰であれ、死ぬに十分近い位置にいた。


源田。細身で鋭いスーツ。手を上げている。寒さにもかかわらず、汗をかいていた。僕は彼を壁に押しつけ、腕で軽く喉を締めていた。


もちろん、あいつだった。


源田を言葉が二つ目に出る前に抑え込んでいた。腕で喉を押さえ、刃を肋骨のすぐ下に当てて。銃油と汗の臭いがした。でも、恐怖じゃない。恥だった。


「動くな。」僕は言った。「真夜中の散歩か?それともストーキングが仕事の一部になったのか?」


「命令に従っているだけだ。」彼はうめいた。「渡辺が—彼は—」


「渡辺が俺を尾行させたのか?」刃を少しひねって、敏感な部分に軽く傷をつけた。「それとも、彼の後始末か?」


「クソ、清水。」彼は言った。「俺がもしお前を殺すために来たなら、センチュリーと悪い態度だけじゃ足りない。」


「もし俺がお前を死なせたかったら、」僕は低くつぶやいた。「お前はもう血を流しているだろう。」


僕らは互いに睨み合った。冷たい空気。熱い息。二人の間に張り詰めた緊張は、名前すら刻めそうなほどだった。


「彼は俺を影を追わせてる。」源田がようやく言った。「無駄な情報、偽の目撃情報。ロシア人がバラバラにされた直後に送られた?それは偶然じゃなかった。」


「俺がやったと思ってるのか?」


「やったなら、死体は残ってないだろうな。お前はお土産を残さない。」


僕は彼を少しだけ解放して、息をさせた。動かないように、十分にではなく。


「それで、これは何なんだ?」僕は尋ねた。「番犬の役でもしてるのか?それとも、お前も渡辺を信用してないから嗅ぎ回ってるのか?」


「クソくらえ。」源田の顎が硬直した。「お前を閉じ込める日を楽しみにしてる。お前が危険だと思ってるからじゃない。」彼の声は低かった。「お前がズボラになってきたからだ。お前は悲劇のヒーローみたいに振る舞ってるが、俺たちが取り残されたモンスターを溺れさせてる間、お前は幽霊のように遊んでるだけだ。お前が起こした損害さえ見届けない。」


それでも、彼の小指を折った。念のため。


彼はうめいたが、叫び声は上げなかった。


「中東だ。」彼は息を切らして言った。「‘情報源を追いかけなきゃならない’って言ってた。詳細は教えてくれなかった。」


「で、聞かなかったのか?」


「聞いたよ。」彼の目は今、鋭くなっていた。「代わりに沈黙をもらった。」


僕は一歩引いた。許したからじゃない。ただ、質問が終わりを迎えたからだ。彼は嘘をついていなかった。それだけは確かだ。彼は渡辺がどんなゲームをしているのか知らなかった。ただ、自分がカードを持っているわけではないとだけは知っていた。


サイレンが聞こえてきた。かすかだが、近づいてきている。


「終わったか?」と彼は尋ねた。


僕は答えなかった。ただ歩き去った。


「もう一つだけ。」彼が後ろから呼びかけた。


僕は足を止めた。


「お前の命も残り少ないぞ、清水。」彼は少し躊躇した。「お前とあの変人たちも。」


サイレンの音がさらに大きくなった。逃げるには?上だ。魔法にも使い道がある。影にささやき、コンクリートがまるで旧友のように足裏を迎えた。僕は登った。静かに。煙も立たず。ただの街の幽霊。


下では、源田が壊れた指でタバコに火をつけ、まるで答えが路地から出てくるかのように見守っていた。


僕は、答えよりも質問を抱えていた。源田はただの駒で、役に立たなかった。JPSDFは関わっているのか、いないのか?


事態は渡辺に向かっている。けど、彼は砂漠で何を企んでいるんだ?


渡辺は何かに深く巻き込まれているはずで、その答えはナイフといくつかの壊れた指ではほどけないほど複雑に絡み合っていた。源田は何かを知っていたが、十分ではなかった。


僕はあの子たちの元には戻れなかった。あんな形で去ったままじゃ。全部のピースは持っていなかった。いや、端っこすらも。源田も闇の中。僕も闇の中。そしてどこかで、渡辺は火をつけている。


ブッチャーを呼ぶのは、屠殺を計画しているときだけだ。そして、僕の名前はすでにメニューに刻まれていた。


今やサイレンよりも風の音が大きくなった。もしかしたら、警告しているのかもしれない。あるいは、ただ笑っているのか。


僕はコートの中からもう一本煙草を取り出そうとしたが、空っぽだった。ま、予想通りだ。


僕は屋上の端に腰掛けた。靴は擦り切れ、コートは風に揺れていた。下の街は、血を流していることを気取っている。


僕は携帯を取り出した。


フェイの名前がトップにピン留めされていた。清潔で、無機質なインターフェース。ボタン一つで。


僕はタイプを始めた:

あのバカたちはどうしてる?


その言葉を見つめた。馬鹿げている、遠くて、間違っている。まるで、内側から鍵をかけた扉を叩いているみたいだった。今頃、きっと彼女たちは笑っているだろう。お菓子を巡ってケンカしているだろう。ルリの配信コーナーで、何の役にも立たないアイドルソングを歌っているだろう。


まだ無傷だった。まだ温かかった。


それを、自分の影で汚すことができなかった。


僕は足を止めた。


親指が送信ボタンの上を滑っていた。


しばらくそれを見つめた後、バックスペースを押した。


すべての言葉を消して、画面をロックした。


今、連絡を取ったら、彼女たちは心配するだろう。質問をするだろう。追いかけてくるだろう。


そんなことはさせたくなかった。


彼女たちはまだ、僕が守れると思っている。だから、そんなのは僕一人だけだ。


風の音はサイレンより大きくなった。もしかしたら、警告しているのかもしれない。あるいは、ただ笑っているのか。


どこかで、クソったれな世界が終わろうとしている。再び。そして、僕はその中で曲がった釘のように嵌まっている。倒れずに頑固に立ち続け、自由になろうとしても歪んだまま。


もしかしたら、アリスは正しかったのかもしれない。もしかしたら、僕は本当に「ダーク・ワン」だったのか。あるいは、ただの壊れた物の一つだったのか、この焚き火だらけの世界の中で。どちらにせよ、何かが燃えようとしている。そして、僕がその火をつけるのは僕だという気がしてならなかった。


もし僕が世界を救う運命にあるなら…


神よ、みんなを助けてくれ。

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