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第1話2:旧友との再会と二つの依頼

夜は静かだった。あまりにも静かすぎて、静かな夜には誰かの叫び声が届かないことを意味していた。満月だけが、暗い階段を下る俺を導いてくれる。そして、その下に立っていたのは、二度と顔を見たくないと思っていた人物だった。


「探偵か。」俺はぶっきらぼうに言った。「何の用だ?」


「清水さん。」渡辺明は、相変わらずあの滑らかで、少し見下すような口調で言った。「まだトラブルを避けていることを願いますが。」


「どうやら、トラブルの方が俺を見つけてしまったみたいだ。」


渡辺は変わっていなかった。きれいなスーツ、計算された乱れた髪、そして毒を香水として売るような声。昔、俺がシステムの中で幽霊のように生きていたころ、あいつは俺のハンドラーだった。すべてを焼き払う前のことだ。あいつは兵士というより、どちらかというと政治家のようだった。でも、無能ではなく、見た目よりもずっと危険な男だった。


俺がタバコに火を点けると、彼の隣に若い男が立っているのに気づいた。その制服はピカピカに磨かれていて、姿勢も固すぎた。間違いなく新人だ。


「この坊ちゃんは誰だ?」


渡辺は彼の背中を軽く叩き、彼は前に出てきた。


「源田です。」名刺を差し出しながら言った。「どうぞよろしくお願いします。」


普通の市民にとっては、何も書かれていない名刺に見えるだろう。でも少し魔力を加えると、その名刺が持つ秘密がすべて明らかになる。名刺から微かな紫の光が漏れ、文字が現れ始めた。


日本積極的自衛隊

源田夏樹

捜査官

第731部隊


JPSDF(日本積極的自衛隊)は公式には存在しないが、情報機関に携わる者ならその名前を知らない者はいない。各国にはモンスターや異常事態、そしてメディアに出せないような汚れ仕事を担当する部隊が必要だと言われている。731部隊には暗い過去があると言われているが、今もその過去は続いている。俺はそれを知っている。なぜなら、俺もその一員だったからだ。


俺は手を挙げ、魔法のルーンを見せた。それが俺にとって唯一の身分証明書だ。エージェントは「ゴースト」と呼ばれることが多い。過去もなく、名前もなく、失敗すれば死が待っている血塗られた未来を背負った存在だ。存在しない組織からの命令をこなす、名も無き抜け殻。汚れ仕事をこなすためにぴったりな役立たずだが、駒を把握するためには、何らかの方法で管理が必要だ。


彼の目が輝いた。「屠殺者ブッチャー!」ピストルが瞬時に俺に向けられ、手が震え、目を見開いて、まるで銃口を突きつけられているかのように見えた。


「俺ならやめとけ。」渡辺が手を差し出し、引き下がるように合図した。その動きで、源田がターゲットを見失い、首元に刃を感じることになった。


源田は硬直し、刃と目の前の男を交互に見た。空気の緊張感が、まるで味わえるかのように重かった。


「こんばんは、プリンセス。」渡辺は源田の手を押しのけ、より強引に前に出た。「お前たち、相変わらず仲良しだな。」


「チッ。」源田の背後で舌打ちが聞こえる。ヘカテが首元にさらなる圧力をかけた。


「これ、負け戦だよ。もし局があいつを処理できる自信があったら、ブッチャーなんてとっくに処分されてる。」


源田はついに引き下がり、しぶしぶピストルを下げた。「こいつは裏切り者だ。犯罪者と手を組んで、何をしてるんだ?」彼の顔に不安そうな混乱が浮かんでいた。


状況が収束した後、ヘカテも同じように動き、横に退き、腕を組んでグループから背を向けた。「ふん。」彼女がもっと大胆に来ることを期待していたのは分かる。


「そうか?」俺はタバコをはじき、灰が燃えた告白のように散った。「命を救うことが、公敵ナンバーワンになる理由だとは思わなかったんだが。」


渡辺は鼻から息を吐いた。「お前は大騒ぎをした。セーフハウスを焼き、仲間の隊員五人、さらに何十人も殺した。」


「そうだな、忘れてた。命令だと問題ない。境界線は曖昧になる。非道な行為を行っている研究所に潜入して、実験体を連れて帰れ、って。俺たちも必要だろう?」


「お前には事情があるのは分かるが、解き放った火薬庫が、こっちの頭痛の種になってる。」渡辺は目を合わせようとしなかった。


「ただの子供だ。普通の人生を送れるはずだった。」その会話に、俺の顔が苛立ちで引きつった。


「この世界は残酷だ。」渡辺がようやく顔を上げた。「お前が誰よりもそれを知っているはずだ。強大な精神を持つホムンクルスが力関係をひっくり返す可能性がある。遅れを取るわけにはいかない。」


源田の口が歪んだ。「あいつは今や脅威だ。あのホムンクルスは新宿から上海まで、地下のブローカーと繋がってる。マナ反応遺物を密輸し、モンスターをかくまい、作戦を妨害してる! そしてあのカルト、あいつが始めたことを知ってるか?」


俺は目を回して言った。「ただの少し変わった子だよ…それに傷ついてる。最初は拷問されて、実験用のモルモットにされてた。助けられて希望を持たされて、でもすぐにそれが崩れた。結局、彼女はずっとモルモットのままだって気づいたんだ。」俺は彼を見た。「今、世界は彼女を死なせたがっている。お前らが追いかけ続けるなら、たぶん飽きて自ら消えるだろう。」彼女は大変な変態だけど、それを言うべきじゃないと思った。


源田は舌を鳴らして言った。「それじゃあ、彼女に『ダーク・ワン』のために軍を作る時間を与えるだけだ。」


渡辺は笑った。「モンスターや半人半獣の雑多な連中が、お前を選ばれし救世主だと思い込んでる。新しい世界秩序への革命を率いるつもりだと。」


「俺のアイデアじゃない。」俺はぶっきらぼうに言った。「あいつ、聞いてくれると思うか?」


「カズマ、俺たちは戦争を始めに来たわけじゃない。今日はそのつもりじゃない。」渡辺は少し躊躇った後、続けた。「でも、局は手が足りていない。俺たちにはお前の助けが必要だ。」ファイルを少しだけ開けて、すぐにそれを引っ込めた。


「くそ。源田、車の中の別のファイル取ってきてくれ。」まだ不安そうな表情を浮かべ、源田は慌てて命令に従い、車に向かった。


渡辺は俺にファイルを渡した。それには、九尾の狐と、まだ第一尾が完全に成長していない若い狐の写真が何枚も入っていた。「詳しいことは分からないが、この二匹に対して保護命令が出ている。迷子になったら、せめて羊飼いが世話してくれるだろうと思ってな。」


黙っていたヘカテが近づいてきた。興味を隠そうとしていたが、その好奇心は隠しきれず、何度もチラリと見ていた。


「すまんが、俺はベビーシッターじゃない。」ファイルを渡し返した。


「家にいる二匹のこと、忘れたのか?」渡辺の声が鋭くなった。「状況が違えばお願いしないけどな。狐の精霊には、どうしても引き寄せられる誘惑があるんだ。」


言われている。狐の精霊は百年に一度、尾を一つ増やすと。九尾の狐なら、数世代分の力が一つの体に収められている。その魔力は膨大で、知恵は伝説的だ。それゆえに、狩人たちには手が出したくてたまらない存在だ。大きな戦利品を求める者もいれば、その力を手に入れようとする者もいる。尾を狙ってほぼ絶滅させられた彼らは、まさに生ける宝物とされている。欲望? それが人間の本性で、唯一確実なものだ。


「それに。」渡辺は声を少し柔らかくして、まるで懇願するように言った。「局に恩を売るのも悪くないだろう。こいつらはお前の世話が一番安全だ。たとえ短期間でもな。」


源田がすぐに近づいてきた。「俺は狐の精霊にはもうこりごりだ。局がその犬たちをきっちりしつけておけばいい。」


渡辺は肩を落として頷いた。「時代は変わっている。局の新しい評議会も、いつまでもお前を見逃してくれるわけじゃない。」渡辺は手を差し出し、源田に新しいファイルを渡させた。


「殺人事件があった。」渡辺が言った。その声は急に真剣なものに変わった。「今まで見たことのないタイプだ。」彼は写真を渡してきた。それは190cm近い長身の男が、血のプールの中でうつ伏せに横たわり、裸の姿で倒れているものだった。


「ディミトリ・ゴルバチョフ、ババ・ヤガ。」


「ロシアの犯罪組織のボス?」その遺体は異様だった。まるで空気が抜けた風船のよう。皮膚だけの袋で、中身は何もない。俺は眉をひそめた。「局が怒ってるって言ってるけど、あの吸血鬼は東京の裏社会の半分を仕切ってたんだろ。」


「彼はうちの情報提供者だった。」渡辺は唇を引き締めて言った。


源田が口を挟んだ。「歌舞伎町のマッサージ店で発見された。」


「予想していたハッピーエンドじゃなかったようだな。」俺は写真をじっくりと見つめながら、タバコを一服した。


「いつもより多くの片付けが必要だったな。」渡辺が笑いながら言った。「あの発見者の女の子は、今でも震えが止まらないらしい。」


源田が続けた。「争いの跡はなく、マッサージ師も数分間外に出ていただけだ。内部から何かが殺した。」


俺は眉を上げて言った。「どういうことだ? 放射線か魔法の爆発でも受けたのか?」


「そんな簡単な話なら、こっちは犯罪者と話していない。」源田が言った。「外傷はない。火傷もない。内臓が完全に液状化していた。残ったのは皮膚と骨だけだった。」


俺はヘカテを見た。他の連中もその視線を追った。ヘカテは肩をすくめただけだった。「体を溶かすのは簡単だが、それだと跡が残る。火傷や焦げ跡も残るはずだ。これ? こんなにきれいな魔法は見たことない。」


俺は再び刑事たちに目を向けた。「他に何か共有することは?」


「こいつには多くの敵がいたが、正直言って犯人に関してはあまり気にしてない。上層部が心配しているのは、どうやってやったかってことだ。証拠も痕跡もない。それは悪夢みたいな話だ。新しい魔法の形か、もしくは武器かもしれない。」


しばらく黙っていた後、俺は写真を返した。「こんなことができる魔法は、俺が知っている限り存在しない。すまんが、サイエンスフィクションは俺の専門じゃない。」


「時間を取ってくれてありがとう、清水さん。何か思い出したら、すぐに連絡してくれ。気をつけて、無事を祈ってる。いつも楽しみにしてる、プリンセス。」渡辺は一礼して歩き去った。源田も一礼し、後に続いた。


刑事たちが歩き去ると、渡辺が最後に言った。「もう一つだけ。タバコの習慣、やめろよ、カズマ。お前にはそれが命取りになる。」


夜の冷たい空気の中、最後の一服を吸い込んだ。「それが狙いなんだ。」

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