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第6話1:発情ホムンクルス、寺を襲撃す

浄泉寺は、まるで刑務所のようには見えなかった。それが、カモフラージュだった。


石灯籠が静かな見張りのように道を沿って並び、苔が古い瓦を覆う様子は、まるで自然の子守唄のようだった。空気は香炉の煙で満たされ、祈りを捧げる男たちの静かなうなり声が響いていた。見た目には、平穏そのもの。


だが、アリスにとってそれは隠れ蓑に過ぎなかった。


彼女は、足元で境界の札の音が響くのを感じていた。祈りと塩で神性を抑え込もうとする僧侶たちが編み出した神聖なエネルギーの網。それは、足音のごとく脈動していた。アリスは、寺院の塀の向こう側、川沿いの木々の中に裸足で立っていた。その目は、異世界の炎のように輝いていた。


彼女は唇を舐めた。


「中にいるわ。」アリスは、古い寺院を茂み越しに見つめながら囁いた。「可哀想で美味しそうな子。お札と鉄で縛られて、神々の理解を超える体を持った罪で閉じ込められている。」


彼女は胸に手を当て、仮の悲しみを演じた。彼女の心は、高度な隠密行動や危険に対するものではなく、欲望からくる震えで高鳴っていた。純粋で無垢な、女性の体に対する学問的な興味。あるいは彼女が言うところの、それは「戦術的評価」だった。


「おお、なんという罪。誘惑を防ぐために鎖で繋がれた美しい乙女。罪だわ、神聖なる悲劇。」彼女の笑みは、悪魔的なものに変わった。「私がそれを正してあげる。」


川を越えて光が揺れた。彼女の使い魔が戻ってきた合図だ。それは、恥ずかしそうに肩で息をしながら、セクシーな衣装を着た小さな妖精がアリスの肩に乗った。彼女の衣装は、まるで不完全に着られた革のガーターベルトとレザーで、妖精としては大きすぎて、異様に過剰なデザインだった。顔を真っ赤にして、手で体を隠そうとしている様子は、彼女がその衣装に強い不快感を抱いていることを示していた。


「僧侶たちはみんな瞑想に集中してるけど、境界はまだ生きてる。」妖精はつぶやきながら、アリスの肩に止まった。「アンカーを壊さないと。」


アリスは手袋をした指を曲げた。指先には、豚の血とグリッターで書かれたアルケミーの文字がうっすらと光っていた。それはまったく役に立たない。ただの見た目だけの装飾だ。


「簡単よ。」彼女はにっこりと微笑んだ。 「指の使い方には自信があるの。」


彼女は自分自身を掴んで、前後に揺れた。「ああ、もしそれがベタベタしていたらよかったのに。」


ホムンクルスは魂を持たない存在だった。基本的には腐敗した肉を持たないゾンビ。完璧に大量生産され、簡単に交換可能な兵士。だが、アリスは違った。もし、無魂の者たちに魂を与えることができたらどうなるだろう?


ルリとミオは、慎重に作られ、下級精霊が注ぎ込まれた。彼女たちを動かすには十分だが、厄介な存在にはならない程度の力加減だった。彼女たちはその間違いを学んだ。


アリスはその間違いだった。


731部隊の天才が、子供の形をしたホムンクルスと神ヘルメスを組み合わせるのが面白いだろうと思った結果?


小さなトリックスターが、魔法、軍事訓練、そして古代ギリシャのような性欲を持つことになった。学校の制服を着た歩く災厄、まさにそう。


彼女は豊川の川を、一切水面に触れることなく横切った。影と光り輝く歯のように、彼女の動きは一瞬で流れるようだった。寺院の裏に回り込み、観音像が石の静けさの中で見守る場所に来た。


しばらく立ち止まり、彼女は神像の形を賞賛した。


「ごめんね、女神様」と彼女はささやきながら、神像の下に手を滑らせた。 「でも今夜の祈りは届かないよ。」と、ひとひらでお守り石を引き抜いた。 神聖な封印が裂け、香とエーテルのようなエネルギーが漏れた。


彼女は小道を踊るように進み、逆さまに聖歌を口ずさみながら同じ手順を繰り返した。前の扉に到達した時、守りは完全に無力化されていた。


ギシギシと扉が開き、ささやくように音を立てた。


中には、ほこりと静けさ、そして規律が支配していた。修道僧たちは深く瞑想している。アリスは猿のように梁をよじ登り、逆さまに吊り下がりながら彼らの上に身を潜めた。


彼女は手からキラキラした粉を吹きかけた。よく使うものだ。夢の粉。無条件で貸してくれる妖精の友達から借りたもの。修道僧たちはひとりひとり、神聖な調和の中で眠り込んだ。


寺の地下には、いつも通り金庫があった。修道僧たちはそれを「不浄の間」と呼んでいた。

アリスはそれを「フリースペース」と呼ぶ。


そこに彼女がいた。報告書通りだ。翡翠の柱に鎖で繋がれ、封印された縄で体を包まれたのはジョロウグモだった。蜘蛛の女は長い黒髪が肩から暗い絹のように垂れ、濡れた羽織に包み込まれるような豊かな体をしていた。


彼女の腕はだらりと垂れ、八つの目が重く、鈍く開いた。半暗が中で近づくシルエットを見て、目を細めた。アリスはドアの入り口で立ち止まり、月明かりに照らされた小さくて過剰に自信満々な悪魔のように、その獲物を見守っていた。


彼女のブーツが床に触れると、ポーズを取った。腕を大きく広げ、魔法で髪を後ろに弾けさせた。

「おお、なんと哀れな美しさよ。崇拝を恐れた世界に囚われし者よ!」


蜘蛛の女はわずかに動いたが、反応する力がなかった。完璧だ、とアリスは思った。従順だ。


アリスは前に進み、ブーツの音が自信満々に鳴り響いた。「まあ、まあ、まあ」と甘くささやき、腕を背中に組んだ。「実物の方がさらに魅力的ね。そして、思ったより背が高い。」 彼女は震えた。「足元に余裕があって良かったわ。」


アリスはゆっくりと一歩前に出、さらに一歩、ついには攻撃範囲に入った。ジョロウグモは動じなかった。アリスはその横にしゃがんだ。「あんまり話さないのね。いいわ、それよりもあなたのうめき声が聞きたい。」


手をゆっくり、官能的にジョロウグモの太ももに滑らせた。

「なんて…柔軟な…女神級の筋肉…」と呟き、指で敬意を込めてジョロウグモの太ももをなぞるように触れた。まるで聖典を発見した信者のように。


その女は動かなかった。胸は浅く、ゆっくりと上下しているだけだった。反応なし。


アリスは眉をひそめた。


手をひとたびローブの下に滑り込ませ、胸を貪欲に、そして冷徹に取り出した。何もなかった。抵抗もなく、赤面もせず、緊張もなかった。それで気づいた、彼女の肌があまりにも冷たすぎることに。


アリスの笑みが崩れた。彼女はコートから水筒を取り出し、ほんの少し口に垂らした。ジョロウグモは機械的に、ゆっくりと飲み込んだ。


「あなた、私を殺しに来たの?」と、低くつぶやいた。「それとも、もっと毒を吸うつもり?もう空っぽ。血を吸って、苦しんで死ね。」


「こんな状態だとは思わなかったわ。」アリスは立ち上がり、割れた床を見渡した。

「僧侶たちがこれをしたの?」


「違う。」ジョロウグモはついに答えた。その声は乾いた葉のようにかすれていた。目はガラスのようで空虚だった。「あなたは誰?さっさと殺してくれ。」


アリスは驚き、胸に手を置いた。「殺す?あんな素晴らしいことを読んだ後で?今、私はあなたの少し淫らな鎧を着た騎士よ。あなたの資料はほとんど詩だったわ。」


アリスはひざをつきながら、胸に手を置いて言った。「親愛なる絹と罪の女王よ。あなたの命の鼓動は、ただひたすらにダーク・ワンのリズムを刻む。」


立ち上がり、回転して振り返りながら続けた。

「人間の肉体はあなたの完璧な外殻の下に渦巻く神性を理解できない。」


「でも私は?」アリスは背中で素早く一回転し、ジョロウグモの上に立って言った。「私は人間ではない。私はアリス!肉体に宿るヘルメスの禁じられた讃美歌、混沌の使徒、堕落の王女、恥を食らう者!闇の王の正当な花嫁となるべく、予言のような前戯で時の骨に私の意志を刻み込むのよ!」


アリスは再びひざをつき、今度は獲物のようではなく、むしろ世話を焼くように。その女の顔に優しく手を置いた。


ジョロウグモは何も言わなかった。彼女の目からは黒い涙が流れていた。


アリスはため息をついた。


「わかったわ、わかった。」とささやいた。「もうお世辞も触れ合いもやめるわ。ただ、誰がこれをしたか教えて。」


長い沈黙。


そして、かすかな囁き。

「私はあいつを殺したい。」

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