第6話 史上最悪の任務
これでもかと言うほど長いリムジンがモールへと着いた。周りには護衛の車が10代ほど止まっている。
「じゃ、お前たちここでいいから。」
「しかし坊ちゃん!き、危険ではないですか?1人くらい護衛をつけるべきです。」
「僕に指図するな、クビにするぞ!」
荒々しくドアを開け、静止も聞かず出て行った。このわがままな坊ちゃんは『トレド君』だ。名前の由来はtradeから来ているという噂だ。
「あ!トレド君来たよ!おはよぉー!」
クラスの女の子たちが手を振っている。
「お待たせ、さぁ行こうか。」
上から見ていたシズクが、黒のウィンドブレーカーの襟についたマイクから全員に情報共有した。
「坊ちゃん来ました〜。」
中に入ると、トレドは少し感動していた。
「じゃあ、みんながそれぞれ行きたいところを言ってくれ。」
手を挙げてそれぞれが各々行きたい場所を言い出した。
「僕は君の意見が聞きたいな、ユキ。」
「えっと、じゃあ近いところからみんなの行きたい所へ行くっていうのはどう?」
「さすがだねユキ!僕と同じ意見じゃないか、君にはぜひ僕の隣を歩いて欲しい。」
「え...うん、ついて行くよ。」
引きつった笑顔でユキはそう言った。
(蓮お兄ちゃんに来ちゃダメって言われたけど...ごめんお兄ちゃん!断れなかったよ〜。)
心の中で蓮に頭を下げた。なぜこうなってしまったかというと、元々ユキはトレドに「"2人で"モールに行こう」と誘われていた。しかし友達の女の子達も、その話を聞き付けて行きたがったためみんなで行くことを提案していた。
トレドは断っても聞かないことはわかっていたため、直前で断りを入れて行かないつもりだった。
「まさか家に迎えに来るとはな〜。」
声に出してしまった。自分に話しかけられたと勘違いしたトレドが、食い気味でユキに何を言ったのか聞きに来たが何も言ってないと誤魔化した。
上の階から警備員の変装をした蓮は、ユキちゃんを見つけて驚愕していた。
「な、なんでいるんだ...」
トレドたちが動き始めた。
今回の配置としては、戦闘力の1番高い蓮が、近くで護衛する。他は少人数での護衛のため、臨機応変に距離を保ちながら護衛する作戦だ。
突然インカムからシュウヤさんの声が聞こえた。
「あの歳でもう女に困ってねーぜ。どう思うよ。」
「母親たちの入れ知恵ですかね。」
笑いながら話していると、早速怪しい人が4〜5人出てきた。
「"鷹"動きます。」
鷹は蓮が任務の際使うコードネームだ。
「"雨"援護するね〜ん。」
シズクが援護に回った。蓮は手裏剣を3枚取り出して、遠い場所にいる3人を仕留めた。腰から刀を出して、残りを仕留めに向かう。気がついた2人が蓮に向かっていくが、応援を呼ぶ前に蓮から斬られ気絶した。
従業員通路に投げ込みすぐに離れようとした時、後ろから隠れていた男が出てきた。
「死ね!」
蓮は怪我の覚悟をして迎え撃とうとしたが、どこからか手裏剣が飛んできて男に刺さった。
「ナーイス。」
自慢げな顔をしているシズクに少しイラついた。
それから1時間、全員で敵を排除しながら護衛を続けているが...
「もう無理!しんどい!」
蓮の叫びが全員に共有された。
「たしかに...さすがにきついぞ...」
カナノさんも弱音を吐いている。この人が弱音を吐くということはそれだけきついということだ。
このグループ、行動が予想できなさすぎる。1階や2階を往復したり、同じ場所を何回も通ったりなど動きがむちゃくちゃだ。
トレドたちはフードコートへと向かった。恐らくここが1番敵が多いだろう。
「みんな、僕はあのたこ焼きを食べてみたい。」
次々に手が上がり、たこ焼き屋に向かっていった。
「"猿"たこ焼き屋向かいます。」
赤坂だ。蓮は援護に向かおうとした時、後ろからこん棒で殴り飛ばされた。
「いっっって!」
「お前、あのガキの護衛だろ?邪魔させねー。」
清掃員のおっちゃんだ。用具を入れたカートにどうやってあの大きさのこん棒を入れたのか不思議だった。すぐにでも援護に向かいたいが、この清掃員のおっちゃんをすぐに片付けることは厳しそうだ。
そしてここでまたもやピンチが襲った。トレドたちはバラバラになってしまった。各々好きなものを食べるようだ。
1番の目的はトレドだが、トレドの友人を使って揺することも予想される。そのため固まってくれた方が護衛しやすいのだが、バラバラに行動されたことで護衛が難しくなった。
「ここに来た新人をそれぞれ調べさせてもらったが、お前たちは特段怪しいんだよ。しっぽは掴めなかったが確信はある。」
蓮は舌打ちをして、すぐに腰から刀を取り出した。
「短くて細い武器じゃすぐ折れるぞ〜。」
蓮は周りに集中したくても、この清掃員のせいでできなかった。散ったトレドたちに集中しているため、清掃員の攻撃を何発も貰ってしまった。あのこん棒でこのスピードを出せることが厄介だ。
「いらっしゃい!」
「全種類3パックずつ作れ。」
「は?り、了解。」
たこ焼き屋の店長もさすがに驚いている様子だ。それもそのはず、この態度と注文を見れば誰でもこうなるだろう。
「毎度あり〜!また来てね〜」
「追加で『明太チーズたこ焼き』を2パック作れ。」
「ちっ...このクソが...」
突然たこ焼き屋の店長が下に消えた。
「お待たせいたしました。ご注文お承ります。」
「あれ?おっさんは?」
「店長は休憩に入られました。」
「あっそ、『明太チーズたこ焼き』2パック。」
素早くたこ焼きを作っていく赤坂。そして裏ではノアが鎖鎌で店長と戦っていた。店長はたこ焼き返しを両手に持ち、ノアの鎖鎌をかわしながら攻撃を仕掛ける。
(この人、強い...)
「ありがとうございました〜。」
トレドたちはたこ焼きを持って、フードコートの中央に座った。
「なんだこれ!?動いてる!?」
「トレド君、それ鰹節だよ。たこ焼きの熱で動いてるの。」
「あ、あ〜...ビビってないぞ?」
(嘘つけ!)
ユキはご機嫌なトレドに心の中でツッコんだ。
「ユキ、ショッピング楽しんでいるかい?」
「うん!楽しいよ!」
嘘ではなかった。夏休みはマイと2人で、宿題と手伝い、お母さんのことで友達と遊ぶなんてしていなかったからだ。
「そうか!俺と来れて楽しいか!」
ちょっと変な勘違いしてそうだが言わない出おこう。
「おい、いつまで休憩するつもりだ?」
「1ヶ月の付き合いでもなんでか目話せないんだよね〜。」
少し離れたところで清掃員のおっさんと蓮は、席に座って休憩をしていた。
「おい、もういいだろ?敵に弱点になるような事教えてどうするんだ。」
清掃員のおっさんは、席を立ってこん棒を持ち上げた。
「通信機器つけてない、マイクなし、単独行動、重装備でソロの殺し屋なのはわかるよ。俺を相手にしてたら他の人狙うなんてできないでしょ。」
蓮の挑発にイラついた。いつもならすぐにでも頭をかち割るが、今回武器を触れなかったのは蓮の目にビビったからだった。
やる気の無い目だった蓮から、飲み込まれそうなほどの圧力を感じる。
「じゃあユキ、行こうか!」
なんで私だけ呼ばれた?
トレーをたこ焼き屋に返した。中が少し見えたが、店長と誰かが踊ってる?変な店だな。
1階に戻り、カフェへと向かっていた。別行動した人達がカフェで待ってると言っていたからだ。
やはりカフェは人気だ。まだ列ができている。
「ユキ!これを食べよう!」
トレドが指を指したのは、カップル用のストローが2本入った飲み物だった。
「えっと、嫌かな...」
それぞれ飲み物を買って、先に来ていた人達のおかげで席に座れた。
「坊っちゃんカフェに来店しました。」
シューヤは空いた席を拭きながら、周りを警戒していた。
『兎援護入ります。』
『夕凪も今から向かいます。』
兎はノア、夕凪はカナノだ。
「あれ?フードコートにいたやつらは?」
「蓮くんに押し付けてきた!てへっ」
裏に戻ったシューヤは嫌な予感がした。忍びはそういう危機察知能力が高い。蓮はその中でもずば抜けているが...
「誰?カーテンの裏隠れてるよね?」
まず拳銃が見えた。やはり殺し屋か?
「え....なんで...」
出てきたのは、シューヤが密かに思いを寄せていた店長だった。




