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モール忍者  作者: KO
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第5話 母親

俺の記憶に残っている母親は、火葬場で泣いている姿、遅くに帰って来て謝る姿、手を繋いで公園を笑顔に歩く姿、そして花に囲まれて眠る姿。

過労による死だった。父親が死んで、朝から夜遅くまで仕事を掛け持ちして働いていた。1番記憶に残っているのは『蓮がいるから毎日幸せ』と言われたことだった。

それからは父親の職場の同僚と名乗る男に引き取られ、忍び計画の養成施設に送られた。

今でもずっと不思議に思っている。毎日ヘトヘトで、休みの日は俺と遊びに行くため休む暇がない。ユキちゃんとマイちゃんの母親も、2人が来ると疲れを感じさせない表情へと変わった。不思議だ。


「蓮!聞いてるか?」


「うす」


「残り3日になる。今日からは護衛の手順を当日に向けて固めていくからな!」


蓮は紙を取り出した。そこには、ユキちゃん達の母親が、専門学生時代にファッション関係について学んでいた事。そして優秀な成績を収めていたことが書かれていた。


「蓮?どうしたの?」


カナノさんが顔を覗き込んできた。


「なんでもないっす。」


仕事には全員慣れた。敵を客から見えない所でしとめながら接客をするカナノさん、とんかつを揚げながら包丁を避けてトングで喉を突くノアちゃん。シュウヤさんは店長に夢中だが、ストローと爪楊枝を使って吹き矢で戦っている。おそらく店長から離れたくないのだろう。まっさんとシズクは外でヤクザやスパイ相手にモールへの侵入を防いでいる。


「蓮お兄ちゃん!」


マイちゃんが笑顔で走ってきた。


「今ね、毎日お姉ちゃんとお料理してるんだよ!お母さんも美味しいって!」


「そっか!偉いなー。」


マイちゃんの頭を撫でていると、ユキちゃんがノートを持ってきた。


「ほんとにもうお仕事いいの?」


「うん、2人が優秀すぎて頼める仕事が無くなっちゃった。」


ユキちゃんも嬉しいそうだ。


「あ、そうだ。明後日はここに来ちゃダメだよ。」


「なんで?」


「良くないことが起きるかもしれないから。お願い。」


2人は顔を見合せた。さすがに納得してくれないか。


「わかった!」


蓮はユキちゃんとマイちゃんの後ろから歩いてくる2人の男に気がついた。


「さすがにバレるよなー...」


「ん?どうしたの?」


「なんでもないよ。」


心配そうに見てくるユキちゃんに笑顔で言った。

2人を駄菓子屋に案内し、男達と距離を保ちながら警戒する。おそらく、この1ヶ月戦った相手の中で1番手強いだろう。

入口で飴玉を3個取った。右手で1つを持って袋の端を親指と人差し指で握って飴玉を飛ばした。破裂音がして中身がレジの方へ飛んでいく。レジにいる店員の後ろには、棚に丁寧に並べられたクジの景品があった。飴玉は景品にあたり、床に次々落ちていく。


「うわっ!」


店員が身をかがめ落ちたものを拾い始めた。


「あ!マイ見て見てー!これ遠足の時買ったよね〜。」


2人がお菓子に夢中になっている隙に、2人を片付けようと考えた蓮は後ろを振り向いた。

1人は正面から刃物を持って近づいてくる。もう1人は反対側からジワジワこちらへ向かってきていた。

まずは正面から。間合いに入ると、腕をひねりながら首元へ刃物を刺しに向かう。蓮は首に刃が届く前に相手の手首を抑えて避けた。抑えている方とは逆の手で相手の喉元に拳を入れた。


「ごほっ」


相手が首を抑えながら2歩下がった。もう1人が間をおかず攻撃を仕掛ける。カウンターを恐れているのか、確実に命を奪うということより徐々に削る方法に変えたようだ。男は何度も刺しに来た。全ていなし、カウンターを狙うが絶妙な距離感を取られている。やりづらい。


突然横から刃物が頬をかすめた。喉を突いた男は苦悶の表情で攻撃を仕掛けていた。

そこら辺のやつらなら3分は動けないはずだった。この2人を相手にしながらユキちゃんとマイちゃんを守るのは、正直厳しいだろう。喉を突いた男は万全じゃない、半歩近づき前蹴りで店の外まで飛ばした。すかさずもう1人の男が刺しに来るが、蓮は脇を傷つけながら挟み店の外へ投げた。


「ん?なんの音?」


「あ、ごめん。俺が足ぶつけた音だ。」


「なんだー。」


良かった、気づかれていない。


「2人ともこれで好きなおやつ買いな、俺ちょっと離れるけどこの店にいてね。」


「はーい!」


蓮は店の外へ出ると、男たちは反対側に立っていた。


(店の外に出るくらいしか飛ばしてないはずなんだけど...)


こんなに強かったっけ?と考えていると、2人は短い刃物を捨てて腰からマチェーテを取り出した。

蓮は先程取った飴を取り出した。袋を見てみると、飴の中にガムが入っているタイプの飴だった。1つを口に入れて、蓮は2人の目に入らないように下の階に飛び降りた。


2人とはずっと目が合っている。両者同じ方向へと動き出した。蓮は雑貨店の天井にぶら下がっていたチェーンの付いたライトを、持っていた飴玉で落とした。

手に巻いて短く持った。他の客に混ざってエスカレーターに近づいた。男たちもエスカレーターで下り始め、距離が縮まっていく。

蓮の前にいる家族は、子どもと話すのに夢中になっている。後ろはスマホに夢中で見てない。


下の階で突然音楽が流れ始め、視線が1回に集まる。どうやら熊の着ぐるみがマジックショーを始めたようだ。


「すごーい!」


子どもも大はしゃぎしている。蓮は着ぐるみが誰か、なぜ突然マジックショーが始まったのか察した。

あれはまっさんだろう。子どもがいるおかげか注目の集め方が上手い。

蓮は手に巻いたチェーンを徐々に外しながら、ライトを回した。シュウヤさんの気まぐれお泊まり会で見せられたカウボーイの映画が役に立った。

ライトが喉を突いた男をしばり、そのまま蓮は1階に落とした。大きな物音もまっさんのマジックショーの歓声がかき消した。


もう1人がマチェーテを振りかぶった。蓮はチェーンをあやとりのようにして『4段はしご』を作り、盾のようにマチェーテを防いだ。すぐに何重にも重なった『星』を作り、相手の顔を殴った。

メリケンサックと同じくらいのダメージになるだろう。そして蓮の打撃のため男は1階へと落ちていった。


「派手にやったなー!」


「まっさんのおかげで目撃者0っす。」


「さすがだ!」


男達はちょうど同じ場所に落ちていた為、回収も楽だった。

そしていよいよ例の坊っちゃんが来る日になった。


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