第4話 危機
カフェ付近を担当した理由は単純だ。可愛い女の子が集まるからだ。始まる前はやる気満々で、楽しみだった。それがこんなに大変だったとは全く思わなかった。
「いらっしゃいませ〜。ご注文お決まりですか?」
このセリフ何回言っただろうか。ナンパする余裕なんて一瞬もないくらい忙しい。
「シュウヤくん休憩入っていいよー。」
「あざっす!」
休憩室に入ると、店長も入ってきた。
「お疲れ様〜。ほんとに手伝ってくれて助かるわ。」
「ここ毎日こんなきついんですね。ヘトヘトですよ〜」
「毎日よ。はい、これあげる。」
店長は手作りのサンドイッチとコーヒーを出してくれた。
「え!?いいんすか!?」
「うん!お口に合うと嬉しいな。」
手を胸の前で合わせながら、ニコッと笑いながら言った。
「え...」
なんだ?俺は年下好きなはずなのに...なぜか今、胸がキューっとなった。たしかに店長にしては若すぎるし、なにより美人だ。まさか、これは。
赤坂は忍者であることが誰かにバレることをもう恐れていなかった。
技術全開で店を回さなければならない。
「赤坂くんはこのモールの"HOPE"だわ!」
「あなたがいてくれてよかった。」
「HOPE」
今や赤坂は、HOPEと呼ばれていた。気持ちが良かった。いつもは誰にも褒められない仕事だったせいか、やる気に満ち溢れていた。
今日もHOPEはモールを走り回る。
ノアは休憩に入っていた。飲食エリアを担当しているが、キツすぎてクタクタになっている。
「ノアちゃん、お疲れ様〜。」
店長が休憩室に入ってきた。
「あ、店長お疲れ様です。」
「これ食べていいよ〜。いつも助けてくれてありがとうね。」
「ソースカツ丼!?めちゃくちゃ美味そう!ありがとうございます!」
別の店舗の店長も入ってきて、焼肉弁当を持ってきてくれた。そのほかの店長たちも、続々入ってきて食べ物をくれた。
「全部食べます!ありがとうございます!」
全店舗からは初めてだが、毎日タダで美味しい賄いを食べられている。幸せだ。
カナノは接客の楽しさに気がついていた。嫌な客もいるが、それ以上に良いお客さんが来てくれるおかげで楽しんでいた。
「カナノちゃん毎日いるね?」
「あ!また来てくれたんですか?嬉しいです〜。」
この男性は毎日来てくれる。来るだけではなく毎回何かを買ってくれるのだ。
どの店舗でも言われるのが「カナノさんが来てくれると売上が上がる。」だった。
「やっぱりカナノちゃん接客業が天職かもしれないね。」
「嬉しいです〜。私も接客がこんな楽しいと思わなかったです。」
私向いてるかも。
毎日駐車場と付近を見て回っている。太田 マサトシ、通称まっさんは今日も屋上に張っていた。
「ん?あれは...」
駐車場は他に空いているにもかかわらず、たった今入ってきた8台が固まって駐車した。
降りてきたのは『天龍会 会長の天龍 冬二』だった。
「おいおい、天龍会の会長がショッピングなんてことはねーよな。」
まっさんは倒れるように、屋上から降りた。ワイヤーを使ってブレーキをすることで下に降りられた。
「会長がショッピングですか?」
「太田か...極道でも買い物くらい来るだろ。」
「あんたが直々にここへ来る理由を教えてもらう。言うまで通さん!」
一触即発の状態だった。
「わかった、今回は帰ろう。だがまた買い物に来る。」
「次来たらこっちもそれなりの対応をさせてもらう。」
会長は笑いながら車に乗り込んだ。
「今すぐにでもショッピング辞めてくれねーかな。」
まっさんはため息混じりに言った。
閉店後、1度全員集まることになった。屋上に集まり、それぞれ報告を済ませた。
「よし!シズク、明日から俺と外を担当だ!」
「はい?嫌です。」
「命令だ、今まで好き勝手させてきただろ。」
なんだ知ってたんだ。この後全員説教されることとなった。シズク以外のこともわかっていたらしい。
まっさんは『前例のない危機』と言って、全員に喝を入れた。確かに、本当の仕事を忘れている人が多すぎた。
その日まであと3日まで迫った。危険人物は全てリストに出来た。まずたこ焼き店の店長だ。この1ヶ月目立った動きは無いが、器具の使い方が完全に殺し屋だ。
次に清掃員だ。おそらく情報屋で、たこ焼き店の店長とも繋がっているだろう。
あとはノアちゃんの働いているステーキ屋の店長が怪しい。
これから3日間は作戦を立てながら敵を排除する予定だったが、予定外のことが起こってしまうのだった。