第3話 マザーミッション
「あのさ、赤坂は母親と仲良かったか?」
「は?なんだよ急に...まぁ厳しかったけど良い母親だな。」
赤坂は冷蔵庫に男を詰め込んだ。蓮は敵を後ろから首を絞めて洗濯機の中に投げた。
「いらっしゃいませ!冷蔵庫お探しですか?」
「大きい冷蔵庫探してるんですけど〜。」
「こちらはどうですか?成人男性1人が入れるくらいの大きさですよ。」
「じゃあこれ買います。」
「お買い上げありがとうございます!」
赤坂はだいぶ接客慣れているな。ここに来て4日経つが2、30人ほど倒したが減る様子は無い。
2階に向かうと、ユキちゃんマイちゃんがいた。
「蓮お兄ちゃん!頼まれたことやったよ!」
「早いな〜、頼りになる。」
照れる2人の頭を撫でて、ノートを受け取った。
「すごいな、正直ここまでやれるとは思わなかったよ。」
2人にはあることを頼んでいた。それは夏にもかかわらず、厚い服を着ている従業員をピックアップするように頼んでいた。俺たちの顔が割れている訳では無いが、初日の襲撃から警戒しているヤツらが多い。厚めの服を、来ている従業員は下に防弾チョッキや武器を隠し持っている可能性が高い。
「これだけ詳しく書いてくれてたらこっちも仕事がやりやすいよ。ありがとな。」
「じゃあ、私たちの方もお願いします!」
「うん。行こうか。」
2人にはこの仕事を任せる代わりに、自由研究を手伝うという約束をしていた。3人で考えた自由研究は『お仕事で疲れているお母さんのお手伝い』だ。俺たちは『マザーヘルプミッション』と呼ぶことにした。
「昨日の夜も、お母さんは23時過ぎに帰ってきました。」
「21時には閉まるのに帰宅が遅すぎるな。顔色も悪くなってきている。ユキちゃん、弁当は作ってきたか?」
「はい!言われた通りにやって来ました!」
「よし、休憩はもうすぐだよな?」
「あと10分です。」
「2人で今からその弁当を渡してこい。」
「はい!」
2人は手を繋いで母親の元へ向かって行った。今このモールは危険が多いため、少し離れた場所で2人を見守る。
「お母さん!これマイと2人で作ったの!お昼に食べて。」
「ユキとマイで作ってくれたの?嬉しい、ありがとう〜。」
少し目を潤ませながら2人を抱きしめた。
蓮はハンガーをヌンチャクのようにして、声をかけてきた店員の顎を弾いた。
「クソが...お前か...」
母親はユキちゃんとマイちゃんを最後に抱きしめて、休憩時間になったため裏に行った。
蓮は気絶した店員を掛かっている服の裏に押し込んで、2人と合流した。
「美味しくなかったらどうしよう。」
ユキちゃんは母親の働いてる店を心配そうに眺めていた。
「料理はどれだけ愛情を込めて作られるかで味が変わっていく。俺が見た感じ、丁寧に盛り付けられたあの料理が不味いわけない。」
マイちゃんは2人の顔を交互に見ながらニコッと笑った。
2人が作った弁当は栄養価の高い食材で作られ、今の母親の栄養不足を補うために考えて作っている。
「あ、蓮ジャーン。」
ゲーセンに入り浸ってるシズクだ。
「さっきシュウヤ見たけど、すっかりカフェ店員になってたよ〜。ナンパする余裕もないみたい。」
笑いながら報告してきた。こいつがなぜここまで自由に遊べているのか、それはまっさんが外を担当しているからだ。怒る人がいないのと、ショッピングモールが楽しすぎて完全にサボりまくっている。
「まぁなんでもいいけど、俺の仕事増やすなよ。シズクはさ、母親とどうだったんだ?」
「どう?ん〜、私お母さんは幼稚園の頃に出ていったからあんま覚えてないんだよね〜。」
「そうなんだ、悪い。」
「全然いいよん、私たこ焼き食べてくるねん。」
余計なことを考えるのはやめて仕事に戻ろう。
あの2人のおかげでだいぶ仕事が楽になっていた。まず、どいつから探ろうか。
インカムからカナノちゃ...カナノさんの声が聞こえた。
「蓮、怪しい人発見。もしかすると連絡係かもしれないから来てくれる?」
「了解っす。」
すぐに向かうと、そこに居たのはユキちゃんとマイちゃんの母親が働いている婦人服の店長だった。
「蓮のタイミングでいいよ。」
インカムからカナノさんがいつでもいける位置にいることがわかった。
しかし蓮は迷っていた。ユキちゃんとマイちゃんの母親は1人で2人を養っている。今こいつを捕らえて、黒だった場合あの店は営業できなくなる。そうなると突然職が無くなることになってしまい、さらに生活がきつくなってしまうだろう。
「少し泳がせましょう。」
「なんで?」
「敵戦力はだいぶ削れているはずです。さらに大きい獲物を釣るために泳がせましょう。」
どの組織かは分からないが重要なポジションを担っていることは見て分かる。警戒していれば対処は全然できる。脅威では無い。
後にこの判断をした自分を恨むこととなる。