第2話 いつもと違う1日
早速、仕事開始だ。まっさんは基本的に警備室から指示、シュウヤさんは1階カフェ付近、カナノさんは服エリア、ノアさんは買い物に夢中にならないようにフードエリア、シズクと赤坂と俺はモールを動きまくって怪しいヤツを片っ端から見つけていくこととなった。
これでも秘密部隊だ、厳しい訓練をこなしてきたことでどんな事でも器用にこなせる。楽な仕事には変わりないが、1ヶ月ほとんど休みがない事に腹が立つ。忍びでもやりたいこといっぱいあるよ?一昨日まで中国いたから、新刊まだ読んでないし映画も見たいし新作ゲームなんてチュートリアルだよ?
モールの開店前に1度再確認が行われた。
「今回は他国からのスパイ、そして日本のヤクザやらが狙ってくると予想がされる。怪しいヤツはどんどん抑えていけよ!」
「は〜い。」
初日は木曜日だ。平日は暇だろうから炙り出しも楽だろう。
「え...」
開店してからまだ30分にもかかわらず、とてつもない人の量だ。俺だけではなく、全員が驚いていることはインカムから伝わってくる。
普段はだいたい人が居ない場所で仕事をしている。あっても人混みも上から見るくらいで、中に入ったことは無い。
インカムから情けない声が聞こえてきた。
「ちくしょう!!12連敗だ!」
はえーよ。この声はシュウヤさんだ。すでにナンパに励んでいる様子だ。
「きゃー!3段アイスだって!ちょー美味しそう!」
これはシズクだな。アイスに夢中のようだ。
「ノア!つまみ食いするなー!」
「毒が入っているかもしれません!味見です!」
男の声が遠くから聞こえたあと、ノアちゃんの声が聞こえた。まだ10時なのにもうつまみ食いしてるんだ。
てか働けよ。この人たち任務もう忘れてんじゃん。
「蓮、赤坂くんが書店の方向かったからこっち来てくれる?私今動けないから。」
「了解です。カナノちゃん今何階ですか?」
「ちゃんじゃねーよ、さんな?殺すぞ。」
「す、すんません。」
「3階だから1階を確認して欲しい。行ける?」
「了解っす。」
小走りで向かい、1階を見て回っていた。怪しいヤツは今のところいないな。
雑貨店のレジが混雑している。こういう時に手伝いで入るという設定のためしぶしぶ向かっていた。すると横から赤坂が飛び込んできた。
「蓮、ここは僕に任せろ。」
赤坂はとてつもないスピードでレジをやり始めた。慣れるの早すぎだろ。
「カナノさんまだ3階っすか?1階は異常なしなんで移動します。」
「了解、今三階...いらっしゃいませ〜ぇ。」
え、カナノさんから聞いた事がない高い声。こんな声出せるんだ。
エリアを移動していると壁に隠れてどこかを見ている女の子二人がいた。
「怪しい人物発見。」
インカムで報告し、背後に回り込む。2人を素早い動きで抱えて、従業員通路へ連れていった。
「目的、仲間の数その他諸々吐け。」
「え?な、なに?」
小学校6年生くらいだろうか?小さい方は小学校1年生だろう。演技が上手いな、この歳でほんとに動揺しているかのように見せられている。
「吐け。」
小さい方が泣き始めた。
「あの、えっと...私『ユキ』です。こっちが妹の『マイ』。今夏休みだからお母さんの仕事見てたんです。」
嘘は...言っていない。
「これやばいなー...ごめん、勘違いだったみたい。」
ユキちゃんと鼻水と涙で顔がぐちゃぐちゃのマイちゃんは、2人とも首を傾げてキョトンとしている。
「なんで隠れて見てたの?」
「実は、私のお母さん毎日朝から夜まで働いてるんです。それで自由研究の題材に『頑張ってる私のお母さん』っていうのを作ろうと思って。」
ハンカチでマイちゃんの顔を拭きながら話してくれた。
「私たちの自由研究は夏休み明けにクラスで発表するんです。お母さんも見に来るから褒めてくれるかなーって。」
「なるほど、お母さんってどの人?」
2人は案内してくれて、婦人服の店にいる女性を指さした。
「あの人がお母さん?」
2人は頷いた。
今回忍びが1ヶ月前から派遣されたのには、その観察力の高さが理由でもある。人を見ると、仕草や体の状態で普段何しているかだいたい予想できるのである。
2人のお母さんは、一目見ただけで睡眠不足、そして食事が足りていないことがわかった。このまま続けばぶっ倒れるだろう。
「2人ともここら辺の学校?」
運がいい、2人とも社長の息子と同じ小学校だ。
「自由研究にただ隠れて観察するってのは、ちょっと弱いかな。俺も今仕事中なんだけど、互いに協力しない?俺も自由研究付き合うからさ。」
2人はまた首を傾げた。
初日が終わり集まると、ほぼ全員が疲れ切っていた。
「カフェの手伝いもうやりたくねーわ。」
「私も飲食店はもう嫌だ。」
座り込んだシュウヤとノアが泣きそうになっている。
「ガハハハ、いつもとは別の疲れだろ?」
「まっさん!ここ天国ですよ!アイス食べれるし、いっぱい服あるし、映画館のポップコーンめちゃくちゃ美味いです!」
「うん見てたぞ。シズクは仕事しような。」
「ここ地獄だ〜。」
ノアとシュウヤがハモって言った。
「とりあえず、今日は特に変わった様子はないな!明日からも頑張ろうなー!」
今日は大変な1日だった。たぶんちゃんと動けていたのは赤坂ぐらいだろう。
帰宅の準備を済ませ、裏口から外に出た。外にはスーツに身を包んだ10人くらいの男がいた。
「てめーら何もんだ?本部からの助っ人にしては様子が違くねーか?」
ああ、こいつらこのモールで働いてたやつだ。
「客ばかりに目をやってたなー。」
ショルダーバッグが肩から落ちないように逆の手で押さえながら、攻撃をかわす。
「やっぱ俺はこっちの方が合うなー。」
最初に刺しにきた男の頭を押えながら飛び越え、後ろにいた男の顎に蹴りを入れた。一撃で倒れると次々に切りかかる。全ての攻撃をいなし、全員一撃で仕留めた。
ショルダーバッグから1つ手裏剣を取り出し、立体駐車場の3階に向かって振り向きながら投げた。
「おいおい、こいつら何もんだ?」
裏口から出てきたシュウヤさんが倒れている男たちを飛び越えながらこっちに来た。
「まっさんに伝えてもらっていいっすか?あそこにも1人いるんで。」
「さすがだね〜、忍び1強い男は違う。」
今日の襲撃でわかったことは、俺たちが本部の人間では無いこと、そして相当な数いることがわかった。
明日からさらに忙しくなりそうだ。