第1話 秘密部隊『忍び』
秘密部隊『忍び』。日本では都市伝説にもなっている現代の忍者である。
その都市伝説の内容は様々だ。『中国とロシアのスパイをやっつけている。』『他の国が日本を攻撃できないのは忍びがいるからなんだよ。』『少数精鋭で軍隊相手でも軽く倒すらしい。』など、ぶっ飛んだ内容から少し現実味があるものまで多くの伝説が語られる。
しかし、誰も根拠となるものは持っていなく、どこからこの都市伝説が生まれたのかさえ分かっていない。
ー中国ー
路地から男が飛び出してきて人混みの中へ逃げていく。人を突き飛ばしながら逃げる男の目線は度々後方へと向いていた。
「や、やばい!おい、どけよ!」
どこからか男へ向かって罵声が飛んでいくが、男は全く気にしていない。というより気にする余裕が無い。
男が後ろを振り向くと、屋根から屋根へ飛び移る影が見えた。
「うわぁー!」
男は人混みの中にいるせいで、あまり進んでいなかった。また路地へと入り、全力で走り始める。
「おい。」
後ろから声が聞こえた。男は瞬発的に腰から拳銃を抜いて後ろに向けた。そこには誰もいない。
「あ、ごめん。こっちこっち。」
後ろを振り向くと、黒のウィンドブレーカーに身を包み、口元を黒のマスクで隠した男が立っていた。
「頼む許してくれ!薬は流してないじゃないか!」
「日本に流そうとしてただろ。『緑の薔薇』、体内に入れると幻覚作用が生じて植物化してしまう違法薬物を日本に密入しようとした罪で逮捕だ。」
「やってもないのにか!?もう絶対しない!約束する、今後売人から足を洗うから!」
「だめだ。」
男が引き金を引く瞬間、どこからか手裏剣が飛んできて男の肩に刺さった。
「うわぁー!」
弾は大きく逸れ、男は肩を抑えて床に倒れ込んだ。
「おつかれ〜!今日は中華食って帰るぞー!」
上から大男が手を振っている。
「まっさん、投げるの遅いっす。」
「他の奴らが蓮をビビらせようってさ!ガハハハ」
忍者なのに大声で笑っているのが『太田 マサトシ』通称まっさんだ。忍びのリーダーで趣味が筋トレ、妻からは筋肉ダルマとよく怒られているらしい。
そして俺が『黒田 蓮』。本当はこんな大変でめんどうな仕事やりたくなかったが、デスクワークがほぼないのと、何も起きなければ出動はほぼないと言われて入ってしまった。
デスクワークは確かにほぼない。理由は存在しない部隊だから活動記録は基本残さないという方針があるかららしい。だが、出動が多すぎる。世の中物騒すぎるだろ、どいつもこいつも穏やかに過ごせないのかよ。
「まっさん〜!薬物全て回収したシマウマ〜。」
このよく分からん語尾の女性は『山下 シズク』。普段は緩いが、近接戦闘になると恐ろしい。黒髪ボブの幼い顔つきで、前の職場では超人気だったらしいが彼女のペースに呑まれて大体の男が撃沈していたらしい。
「他の組員も全員捕まえました。港はすでに『修也』『乃亜』『奏乃』が制圧したみたいです。」
今来たメガネの男は『赤坂』、下の名前は...聞いてないかも。めちゃくちゃ真面目でまっさんも頼りにしている。欠点は真面目すぎて余計な仕事を増やしやがること。こいつのせいで休みが1日潰れたこともあった。
「シュウヤとノアちゃんは、肉まん食べたいって言ってた。カナノちゃんは任せるって言ってたよ。」
「よし!全員集まったら中華食うぞー!」
この後本場の中華を食べに行く途中で、まっさんに電話が来た。ちなみに電話代は経費になるから海外でもかけ放題だ。
しかしこの電話内容が最悪で、日本で任務が入ったせいですぐに帰国することとなった。本場の中華を食えなかったことで仕事を辞める決心がついた。まっさんに言うと「俺たち秘密部隊だから履歴書にかけんぞ?今まで無職のやつが雇ってもらえるかな?ガハハハ」と言われたので辞めることを辞めた。
次の任務は、日本の企業でアジア最大の貿易会社の社長からの依頼だった。社長の息子が友達と護衛なしで普通にショッピングモールで遊びたいとの事だった。可愛い息子の頼みだが、さすがに護衛なしは危険とのことで秘密裏に俺たちが護衛につくこととなった。
本来ならその日に出動して隠れながら動くのだが、今回は「息子に見つかったら嫌われてしまう!絶対に、絶っっ対に見つかってはダメだ!」と言われてしまったので距離をとることとなった。
そして、はしゃぎすぎた息子がどうやら色んな人に言いまわっているせいで情報が筒抜けになっているらしい。そこで1ヶ月前からモールに潜入し、安全を確保するというめんどくさい事になってしまった。
「今回の任務で俺たちは、人手不足が深刻化しているため様々な店を手伝う本部からの助っ人という設定だ!」
「ちょっと楽しそう〜。」
シズクはぴょんぴょん飛び跳ねている。
「蓮、俺はカフェ付近を張る。お前は惣菜エリアを張れ。」
この人がシュウヤさん。基本的に良い人なんだけど、ナルシストでちょっとキモイ。今回もどうせ女の子が集まるからという理由でカフェに行くんだろう。
「惣菜エリアって...」
呆れ顔をしている女性が、『カナノ』さん。お姉さんタイプで厳しい人だ。
「あ、じゃあ私洋服とか見たいなー。」
任務置いといてショッピングしたがっている人が『ノア』さんだ。
正直、俺以外はテンション高いと思う。まっさん以外の忍びは、ショッピングモールに来るということは無かったからだ。中華を食べそびれたからか、いつもの5倍やる気が出ない。
「きゃー!!すごーい!」
車から降りたシズクが大騒ぎしている。大型ショッピングモール『AQUA』、日本で1番大きなショッピングモールらしい。
え、この広さを7人でやるの?...
「辞めます!!」
蓮の叫び声が早朝の駐車場に響き渡った。