15. ❸ 三日目、神の島、刀剣が乱舞と鎧女子。そして天国と地獄。
広島ファイナル旅行三日目は、島探訪。
そこには文乃の大好物があった...。
文乃「ハアハア、こらぁ、たまらんばい...、」
文乃はガラスケースに密着しそうなほどに近づき、鎧を凝視している。
寿喜「文乃の方が興奮してんじゃん。何回か来てんじゃねーの?」
文乃「まだ3回目だよ〜、見足り無いよ!ハアハア....」
ぼそぼそ...この紺糸裾素懸威胴丸!この名前の絢爛さが良き.....しかも日本で唯一と言っても良い女性用よろいという現代ニーズに通じる作りをしており瀬戸内のジャンヌダルクと呼ばれる悲劇のヒロイン鶴姫がつけていたんだと言われているんだけど学者連中はそれを否定的な目で見てやがるとかロマンのわからん奴らだけどそんな奴らのことは知らん17歳で亡くなったと言われている悲しい悲恋の主人公をぶつぶつぶつぶつ.......。
文乃は独り言のように早口でぼそぼそと何かを呟いている....。
寿喜「うちのねーちゃん....、こんなだったっけ...?」
寿喜は、文乃を呆れた顔で見やると子供達に目をやる。
そうたとひなも、圧巻の武具類にはしゃいでいるようだ。
寿喜「ま、...悪くねえけどな。」
...昨日うさぎ島に行った時の船は、大三島への連絡船も兼ねており、一行は翌日、また同じフェリーへ乗り込み、大三島へと来ていた。
寿喜「最初は電車、昨日は歩き、今日は車か。必ず船旅までトッピングしてくれて。なかなかいろいろと味付けしてくれるな。」
文乃「船挟むと、旅度アップするっしょー♪今日は車が無いと、まともに移動できないからねー。回るところは有名どころばっかりだけど、行ったことないあんたらには新鮮でしょ?」
寿喜「ああ、楽しんでるよ。今日はどこ連れていってくれんの?」
文乃「まずは、日本随一の国宝所有率を誇る大山祇神社と、その宝物殿よ。」
寿喜「そういや文乃、神社好きだよな。」
文乃「神社は大好きだよ。質素さの中に、厳かさや美しさを表している、侘び寂びっていうのかしらね?あれがたまらないね。」
寿喜「ふーん。俺そういうのあんまわからんからな。神とか信じてねーし。文乃は信じてるのか?」
文乃「うん、いるんじゃない?」
寿喜「ほー、神社の信者みたいなかんじか?」
文乃「いや、神道って、自然でもなんでも神様っていうふうにしてるからね。」
文乃「たとえば、春夏秋冬の季節のめぐり、これは人の手の及ぶところじゃないよね?」
文乃「それから、台風や日照り、地震、雷、火事オヤジ、これらも、手に負え無いよね?」
寿喜「まあな。オヤジもある意味手に負えなかったな。」
文乃「そういった人の意思ではどうにもならない部分を神としたって感じかな?」
寿喜「ふーん。なんでもありってかんじかね?」
文乃「わりとなんでもありよ。やおよろずの神々と言われるくらい、身近なほとんどのものに神様が宿っているっていう考え方。」
寿喜「そういういろんなもんに拝んでる感じ?」
文乃「総括して、自分に恩恵の在る存在に感謝するって感じかな。神社の場合も、願い事言いに行くんじゃなくて、いつもありがとうございますって、ご挨拶に行くのが本当なんだよ。」
寿喜「ふーん、なんか知らんけど、神社ってそんな感じだったんか。」
文乃「お、港が近いよ。車に戻ろうか。」
船が着岸し、一行を乗せた車は、島を走る。
ひな「あれー、うさぎさんの島だよねー」
文乃「すごいね、よくわかったね。そうだよ♪昨日は良い思い出作れたかい?」
ひな「たのしかった!またいきたいねー♪」
文乃「またこようね、いつか♪」
他愛のない話をしながら島を駆ける。
やがて特に何もない山間部のエリアを抜け海が見え始めると...、少し開けた町の一角に辿り着いた。
看板にこの先は大山祇神社と示してある。
寿喜「お、着いたか。結構人居んな。」
文乃「この辺は大三島の観光地エリアだね。お土産屋さんや地元のスーパー、食堂もあるよ。」
車を止め、一行は神社へと入る。
広い境内に興奮した子供達がはしゃいで走り回る。
敷地は広々としており、子供がはしゃいで回っても余裕だ。
文乃「いいね、こういうの。私も子供が欲しくなっちゃうよ。」
寿喜「誰か男いんの?」
文乃「まあ正直、男を作る気はないね〜w」
寿喜「出オチかよ。つかここ、豪華な作りしてんなぁ。相当歴史ありそうだな。」
文乃「ここの始まりは、2600年も昔みたいだよ。最初はどんなんだったんだろうねー。」
寿喜「縄文時代後期くらいって感じかね?えらい由緒正しい神社じゃぁないの。」
文乃「由緒正しいがゆえの、国宝所有率なんだろうねぇ。」
一行は神社を見学した後、本殿にて参拝を済ませる。
次いで、宝物館へと入館した。
館内に入り見学を始める。
あらゆる歴史的な遺産が保管されている。
中でも、素人目であっても一際目を引くのはやはり、巨大で、神々しく輝く幾多の刀剣類であろう。
その刃切先を見つめるだけで斬られた様を想像してしまい、背筋に寒気が走るような奉納大太刀や、鋭く、観ているだけで身が斬れてしまいそうな刀や槍など、圧倒される武具や歴史的出土品など、溢れるほどに歴史遺物が展示されている。
寿喜「ぱねぇ!なんだこの大太刀!!こんなもん打ち下ろされたら真っ二つにかち割られちまうぞ!」
文乃「見ているだけでゾクゾクしてくるね。でもそれ以上に、神々しさすら感じる...、知らんけど。」
寿喜「知らんのかい。..こりゃまさに随一って奴だな。知らんけど。」
文乃「知らんけどwwあ、ひさき、あっちの角見てみ。まだ研いでない刀がいっぱい置いてあるで。」
寿喜「うお、まじか。無造作に積んであるって感じだな。」
文乃「あの中にまだ、希少な価値のある名刀が隠れてたりするのかな?...ロマンね!!一本欲しいね!!」
寿喜「文乃、窃盗で新聞載らんでくれよ...。」
文乃「刀剣所持とか男のロマンでしょーがぁぁ!」
寿喜「いや、あんた女やん....(呆)」
そして館内を見て周り、鎧の展示コーナーへ入る。
文乃「あはぁ〜ん♪鎧コーナーきたーー!」
文乃はエリアに入ると、一つの鎧に張り付き、食い入るように眺め始め、そして冒頭へと至る......。
............。
寿喜「とりま文乃は無視して俺も見て回るか。鎧は種類も今昔で違いがあんだよな。これは....、胴丸か、似たのに腹巻とか、銅丸鎧とかあるんだったよな。」
寿喜「えーと、短甲、大鎧、胴丸、腹巻、当世具足....、鎧の内訳がざっくりこんなもんか?よくもまあ、これほどのもんを作り出せたもんだ。」
寿喜「うーむ。文乃じゃねーけど、確かにこの意匠やら色合い、猛々しさの中にある美意識感覚ってのは驚愕だよな。素直に見惚れてしまうぜ。」
ひとしきり鑑賞し、ちびっこ達を連れ文乃を見に行くと、うっとりとした潤んだ瞳で、鎧を見つめている...。
寿喜「流石にちょっと引くな..、ここまでとは...。そうた、ひな、ちょっと呼んできてくれるか?」
そうた・ひな「はーい!フミっち〜〜!!だきっ!」
文乃「うふふ...ひゃぁっ!!え?あ、二人とも..、あぁ、夢中になっちゃってたか...。呼びにきてくれたん〜?ありがと♪」
寿喜「たった一撃か。やっぱ、ちびっこの力は侮れねーよな。」
文乃は正気に戻り、寿喜はなんだか得意げな顔をしながら頷いている。
その後、宝物館を出て海洋博物館を見学。
海に関する多種多様な標本が所狭しと並び、ちびっこにとっては、こちらの方が楽しいようで二人して目を輝かせて観察している。
文乃「この後は島をぐるりとドライブして、生口島に渡るよ。」
寿喜「違う島か。次はどんなところ行くんだ?」
文乃「まずね、ここ、大三島の南側にすごく景色のいい場所があるからそこに行く。そのあとは次の島の、天国と地獄に行くわ。」
寿喜「りょ。じゃあ運転よろ〜。つか何よ、天国と地獄って...」
そうして一行は大山祇神社を後にし、島南部の見晴らしの良い高台で車を止める。
寿喜「おお、ええ景色やないかい。あ、別に瀬戸内海とかけてないぜ♪」
文乃「ここの施設は美術館になってるけど、今回は入らないから景色だけ楽しんで♪」
寿喜「無視かい...(・ω・`)、...景色だけかよ。中入んねーの?」
文乃「ちみっこどころか、私にも絵画はわかんないから、いつか観たくなったら自分でくるといいかもねー。」
寿喜「投げっぱなしだなぁ。おお、海岸が光って多島美って感じだなぁ。景色いいのは認めるわ。」
文乃「こういう立地だからこそ、美術館を建てたんやろねー。この次の場所は坂道で、また景色が特別だから、そこも観てこーね。」
少しの間景色を楽しんだ一行は、大三島を寄り道ドライブしながら抜けて行き、高速道路を通り生口島へと到達する。
寿喜「やっぱさ、こっちの方は熊本の海とはまた雰囲気違うよなぁ。有明海とも、天草の方とも違うわ。」
文乃「瀬戸内は島が多いからねー。山上の高台から見下ろすとまた格別よ♪今回は行かんけど。」
寿喜「行かんのかい。で?この島ではどうすんの?」
文乃「地獄を巡って、天国へと行くわ。」
寿喜「ほう、まだ錯乱してるのかな?何言ってるのかわからん。」
文乃「ひっど。文字通りよ。」
一行はお寺へと着き、降りる。
寿喜「寺?ここが地獄のお寺さんかい?なかなか煌びやかな造りでないの。」
文乃「みんな、こっちだよ。」
文乃が先導して進んでゆく。
すると、小さなお堂のような入り口が見えてくる。
文乃「ふふふ...、さあ、地獄めぐりの始まりぞ...。ちみっこ達よ、この先は地獄じゃ。どうなっても知らぬぞ...?、引き返すなら今しかないぞ....?、覚悟は決まっておるのか...?」
そうた「僕は地獄とか怖くないよ。」
ひな「そうがおるけんへーきよ♪」
文乃「ふむ、良き覚悟なりや♪さすれば、いざ!!地獄へと討ち入りじゃ〜!」
そうた・ひな「おー!!」
寿喜「それなんのキャラ付けだよ...。」
そして、想定外のクオリティに、案の定、そうたとひなは敗北し、えらい事となってしまった。
そして外。
出口周辺。
文乃「やっぱりさすがに早かったかぁ、ごめんねぇ。面白いと思ったんだけどなぁ。」
文乃は二人を抱きよせて頭を撫でながら慰めている。
寿喜「俺は面白かったけど。想像より出来良かったな、ありゃチビらには早かろうな。」
文乃「よーし、二人とも、地獄を脱出できたから今度は天国へと向かうよ♪」
怖くて泣いてしまった二人を宥めるように文乃は言って、手を繋いでゆっくりと歩き出す。
寿喜「この上か。なんか、白いな。」
文乃「うん。とにかく白いよ。もう感想が白って感じ?」
寿喜「その白っぷりが天国ってわけか。」
文乃「仏教をイメージしたモニュメントもあるみたいだけど、やっぱ私は天猫がいいね。世界は猫だよ。ネコと和解せよ!ネコを信じよ!」
寿喜「まーた錯乱し始めたか?広島に行く前はこんなじゃなかったと思うんだがなぁ...。」
文乃「人生、人を変える出来事が多々在るのよ...。」
寿喜「そんな大層な話じゃねーだろ(´Д` )」
なんやかんやとどうでもいい話をしながら、白いエリアへと足を踏み入れる。
一同「しろーい♪」
文乃「久しぶりに来たけど、...白いわね。the、白って感じ。そして天猫...、良き...。ネコ...ネコ.....♡」
寿喜「白だな。抜群の白っぷりだ。ほーん...、大理石なのか...、うちの事務所になんかで使ってみてえな...。」
そうた「面白いかたち〜!ぴょんっぴょんっ!」
ひな「したのおうちが見えるよー♪たかーい♪」
白い異空間で、皆それぞれに風景を楽しむ。
そして各々楽しみ、少し経つ...
文乃「そろそろ行こうか、ちょっと遅くなっちゃったけど、みんなお腹すいたよね?」
寿喜「あー、そういやそうだな。」
そうた「はらへったー♪」
ひな「みんな、おなかすいたね〜♪」
文乃「うんうん、それじゃ、ラーメン屋さんにいこうね、ちょっと変わったラーメンがあるからさ♪」
寿喜「美味しいでなくて、変わってんのか?あやしいな。」
文乃「いやいや、ちゃんと美味しいよ?ちょっと珍しいラーメンがあるだけだよ。」
そして一行はお寺を出て、ラーメン屋へ。
文乃「みんな、何にする?」
寿喜「なに?この味噌カツラーメンって。ありえんくね?」
文乃「私は好きだよー。ここに来たら基本コレ。ラーメンとカツがワンセットだよ〜、ロマンじゃん♪」
寿喜「普通ラーメンに揚げ物は乗せんくね...?」
文乃「うどんやそばだって、天ぷら乗ってんじゃん。あれの亜種だよ♪美味しいでしょ。」
寿喜「あれは.....?だって...トンカツだろ、トンカツは....、んん..?だってチャーシュー...衣が......ふむ、反論が浮かばん、?脂が多いからか...?う〜ん。」
文乃「常識を否定しろ、弟よ...、その先には新たな世界が広がっておるぞ...。知らんけど。」
寿喜「知らんのかい。まあ、俺は瀬戸内レモンラーメンにするけどな。」
文乃「ぶー。あまのじゃくな奴め。あ、大盛りチャーハンみんなでシェアしようか。」
店員さん「お待たせしました〜。」
文乃「きたー♪良いね、このインパクト!カツカレーうどんに勝るとも劣らないわ!」
寿喜「へー、ほんとにカツ刺さってんじゃん。でもそれ、スープ吸ってグズグズになんね?」
文乃「ふふっ、キミはラーメンがぬるくなって、麺が伸びるまで待つのかい?」
寿喜「?」
文乃「ふっ、つまりはそういうことさ....。いっただきま〜す♪」
そう言って文乃は、ラーメンを食べ始める...。
サクッ、ズズッ、うまー♪
寿喜「意味わからん(´Д` )...、幸せそうな顔して食べやがって。..まぁ本人が満足してんならどうこう言う事じゃねぇか。いただきます!」
食後...。
文乃「ふー、食べたー♪満腹ぅ♪」
寿喜「文乃、チャーハン以外に白ごはんまで食べてたな。」
文乃「カツには白ごはんが合うけぇね♪」
寿喜「その体のどこに入ってくんだよ....。」
お昼ご飯も食べたため、そうたとひなは、うとうととし始めている。
文乃「あ、眠いよね、出ようか。」
寿喜「あ、俺出すわ。コイツら連れてってよ。」
文乃「お、さんきゅ〜♪さ、行こうか二人とも」
帰りの車の中、
子供たちと寿喜は疲れて眠っている。
文乃は帰り道、広島でのこれまでの暮らしを振り返っていた。
これで私の、広島生活最後の旅行が、終わる。
思えばどれほどの暮らしの積み重ねを、この地で繰り返してきたのだろうか。
離れる身となった今では、思い起こされるいろんなことが懐かしく感じてくる。
心身身軽になって思い返せば、友達と一緒に遊びに行ったこともたくさんあった。
仕事で成果を上げた時に褒めてもらったこともあった。
ご近所さん達も優しくて、集まりやお祭りで輪になって話したりもした。
視界と気持ちをクリアにして思い起こせば、楽しかったこともたくさん記憶に残っていた。
広島での暮らしも、本当は、そんなに悪い事ばかりではなかったのかもしれない。
だが、私はもう歩み出した。
これからは次のステージだ。
大切に、新しい自分を積み上げていこう。
懐かしくて新しい地で、
近いのに遠かった人達と、
新たな絆と可能性を...。
自分を想っていてくれる人達の、後押しや支えで文乃は歩き出す。
長年住み続けた広島に、別れを告げ、懐かしい新天地、熊本へと。




