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12. ❸ 私のプチ旅・終編 レトロ自販機に恋して...

自然豊かな山地を抜け、文乃は目的地のある街まで到達する。

そこには憧れの昭和遺産たちが鎮座して待ち構えている。

興味の無い人にはなんでもないことのようだが、文乃にとっては自然と文明の大きなロマンを感じることができる旅だった。

ブィーーーーーン!


...白いバイクが駆け抜けていく。

木々をくぐり、谷を駆け、山を下り、そして集落の端と思われる構造物が現れ出す。


視界が開け、ポツポツと民家が見え始める。


文乃「どうやら集落に出たみたいね。」


無事に山を抜けた文乃は、人の息遣いに安堵し、ホッと胸を撫で下ろす。


自然を楽しむ事自体は大好きだが、手付かずの自然が支配する世界は味見程度で良い。

やはり人は人の世界の中でこそ安心できるものだ。


文乃の視界に、山あいの田んぼや畑、趣きある素朴な建物が流れてゆく。

地元とも何処か違う小集落の雰囲気を感じながら、緩やかにバイクを流していく。


文乃「こんな山間にも人が住んでるんだなぁ。ここにいる人達も確かに存在して、それぞれに色んな思いを持ちながら暮らしてるんだよね。よくよく考えると、なーんか不思議。うーん、考える程にゲシュタルト崩壊ってやーつ?..知らんけど。」


説明の難しい不思議な感覚を覚えながら、文乃のバイクはゆったりと駆けてゆく。


途中幾つかの小集落を抜け、接続となる峠道を駆け抜ける...、そんなライドをいくらか繰り返していると、少々雰囲気が変わってくる。


建物の密度が上がってゆき、心なしか道が少し広くなる。

車の数も次第に増えて来た。

どうやら、目的地の市内に入ったようだ。


文乃「これまでと雰囲気違うとこに出たね、交通量も増えて来たから気をつけなきゃ。G`sマップ一度開いとくか。市内では看板とか見落とさないようにしないとね。」


文乃は大通りに出る前にバイクを止め、G`sマップを開き、目的地の位置を確認する。


文乃「あー、今はこんな感じかぁ。メインルートはここの大通りになるみたいね。まぁ他の道なんて知らないし、こればっかりは道なりに行くしかないか。」


文乃はナビをセットする。

改めてルートを指でなぞり、ルート上のチェックポイントを確認しておおまかに道を認識する。

目的地は目前に迫り、気分の高揚を抑えられない。


文乃「くぅぅ〜...♡ 来い!昭和!初めてのホットサンド!このために私は早起きしてここまできたのだぁ〜♪」


すっかり交通量が増えた道を、車列に混じり進んでゆく。

交通量の少ない山道のように快走というわけにはいかず、他の自動車に挟まれながらストップ&ゴーで街中を進んでゆく。


文乃「さっきまで快走だったけど、やっぱり街はこんな感じよねー。あー、風切って走りたいわ〜。」


街の中心部に近づき、更に圧を強めてくる車の群れに挟まれ、手に汗握りながら進んでゆく。


しばらく進む...、ふと視界の端に見覚えのある看板が...、文乃はネットで見た看板を遂に発見する..!

胸が高鳴り、視界が明るくなる...!


実際文乃は、ホットサンドの販売機を直接見たことは無い、今回がまさに初めてだ。


だからこそだ。


この店を発見、自身の目で見て間近に感じるということは、文乃にとってはまさに、アヴァロンやシャングリラのような伝説にある都市を見つけたかの如くに、興奮するものがあった.....。


まぁ...、そこまで大層な話でも無いのだが...w


バイクを駐車スペースへと入れ、ヘルメット、ジャケットを大雑把にバイクに掛け、建物を見回す。


文乃「遂に、遂に来た!念願のホットサンド〜♪ん?ほほぅ、ゲームセンターみたいなのも併設してるんだ...、何気に複合施設なのね。...だが、今わそれよりもぉ!」


文乃は、はやる気持ちを抑えきれない。

準備も早々に店内へと突入した。


文乃「そんなことより、ホットサンド〜!覚悟召されい!いざ討ち入りじゃー!」


店内には数名の人が居たが、ホットサンド自販機は誰も触っていなかったので直行!


自販機の前に立つと細部まで観察する...。


なるほど.....、この昭和っぷり只者でわない!

自販機からはこれまでに積み上げて来た時節が醸し出され、オーラとなり溢れ出し文乃を圧倒する...!


という風な、なんかそんな感じの何かを感じて悦に浸る...。


そんなこんなで、はやる気持ちを抑えながら、丁寧にコインを投入しさっそく購入♪


文乃「ふむ、今回はチーズにしようかな、ぽちっとな♪」


中で作動音が聴こえる。

落下音が聞こえたあと、銀色の物体が文乃の眼前に、その姿を表した。


文乃「ほほほーう♪...どれどれ...、こちらがその名を轟かせるホットサンド様ですか...、いざ初邂逅♪あっつっーー!!!」


当たり前だが、ホットサンドは熱々となっており、文乃は火傷、とまではいかないが熱さで飛び退いてしまう。


残念ながら店内には数人居た為、不本意にも好奇の視線に晒されることとなる。

恥ずかしい思いをしつつもどうにかホットサンドを取り上げてテーブルに運ぶ。


文乃「あっつぅ〜、あー、まずったなぁ、見られちゃったよ...、恥ずかしい。くぅぅぅ〜!このホットサンド様めぇ〜!」


顔を真っ赤にしながらも、気を取り直してホットサンドに向き合う。


文乃「不意打ちで心を乱しちゃったけど、なんのこれしき。さあ、私を翻弄してくれたけど覚悟しなさい!これからあなたを頂いちゃうわよ...!」


外包装を剥がし、中身を拝見する。

食パンが2枚、チーズをサンドして包まれていた。

...なんというか、パッと見は実に素朴だ。


だがまあ実際はこんな感じだろう、想像通りにシンプルだ。


さあ香りは....、

文乃「うん、熱せられたバターとチーズが香る、食味をそそる香りだね。良き♪」


さあ、実食!

パクッ、サクッサクッ♪モグモグ、ゴクン。


文乃「うん、うん♪、良いトースト加減だわ。サクサクしてて、バターチーズが良い感じ。実に普通♪...だが、それが良い♪おいしいおいしい♪」


ホットサンドを食べてしまうと、文乃は缶コーヒーを飲みつつ、次なるターゲットの麺の自販機に目を向ける。


文乃「うどん、そば、ラーメン...。全部は流石に厳しいから、ここはおそばとラーメンで行こうかな...。」


とりあえず、あと二つはいけるらしい...。


文乃「となると、あっさりしていると思われるおそばを先にいただいて、それからラーメンね。」


文乃はそばの自販機へと向かい、コインを入れ購入。そして待つ間に自販機の観察をする。


文乃「よく見るとやっぱりあちこち痛んでるんだね...。昔は高速道路のパーキングエリアでも、この自販機があったってお母さんが言ってたなぁ。うん...不思議よね?昔は当たり前でも今は希少種かぁ。当たり前が当たり前じゃなくなる...、これが栄枯盛衰ってやつなのかね〜。」


文乃は自販機を眺めながら思う。


文乃「でも..! たとえ時代に置いて行かれても、それでも今に歴史を残している。だからこその、昭和ロマンよね。」


文乃は自販機を眺めながら自分なりに想いを馳せる。


シャカシャカシャカシャカ♪

自販機は一生懸命に仕事をしている。

健気に働くその様が、妙に愛おしい。


この先いつまで存在できるのか、それとも過ぎ去る時代に呑み込まれ、駆逐されてしまうのか...、ぼんやりと文乃は思いを馳せ、そしておそばは完成する。


文乃「...できた〜♪おっと!」


文乃は一歩踏みとどまり、ホットサンドの一件を思い出し、慎重に取り出す。


文乃「へへー、もう見切ったからね、勇足でやられたりなんてしないよー♪」


おそばをテーブルへと運び、さっそく手早く観察をする。

簡易なカップに入った実にシンプルなおそば。

なぜこれでなければならないのか...。


...正直なところ自分でも分からないが、明確なる理屈などおそらく無いのであろう。

そして、その裏付けのない感傷、憧憬、想いこそがロマンというものなのだろう...、と、勝手に解釈しながら文乃はおそばを観察する...。


文乃「これこれ♪この、いたってシンプルな佇まい、たまらないわね♪」


文乃はさっそく、箸を括らせそばをすする。


ふーっ、ふーっ...、はふっ、ズズッ、ズズッ、チュルン。


文乃「...ふむ、なるほど...。少しあっさりしたスープね、もうちょっと濃いめの味つけでも良いかも。でも充分に良き♪」


文乃は蕎麦に舌鼓を打つ。

ちゅるちゅるー、ゴクン。


文乃「ふー、おそば完食♪体があったまりますわい♪...さて、次はいよいよファイナルね。」


そして、本日ラストのレトロ自販機グルメ。

古来より締めといえば、やはりラーメンであろう...。


うどんそばに比べれば、ラーメンの自販機は少なめな気がする。希少であればこそなお、やはりこれを外すわけにはいかないだろう。


文乃「さあ、本日の締めね、ここのラーメンはどんな味わいかしら?いざ!」


慣れた手つきでコインを投入し、待ち時間で自販機を観察する、いつものルーティン。


文乃「前に食べた岩国のラーメンは美味しかったなー。久しぶりの自販機ラーメンだけど、ここのお味はどうかな。」


ニキシー管が0を示し、こ気味の良い音と共に出来上がりを知らせる。


文乃「おし、いざ、討ち入りじゃー♪」


テンションも高まり、なんだか意味のわからないことを呟きながら器を手にテーブルに戻る。


文乃「さあ、本日ラストのこちらのラーメンさん♪いらっしゃいませ〜♪..うん、まったくもってシンプルなデザイン、好感が待てますね〜♪」


何やら一人、実況をしながらラーメンを観察する。


文乃「さて、香りは...、うん、特別変わった感じはないね、普通に美味しそう。でわお味を...、いただきま〜す。」


パクッ、チュルン、チュルチュル。


文乃「あ、美味しい!スープも...、うん♪実に中華そばって感じ!これ普通な感じなんだけど、むしろそうそう食べれない味かも。」


パクッ、ズズッ!ちゅるちゅるちゅる〜♪

モグモグ♪はふっ、パクッ♪


なかなかに文乃の好きな味に当たり、ラーメンも美味しく完食、スープまで飲みほして手を合わせる。


文乃「ふ〜、感動的大満足!ごちそうさまでした♪」


たっぷりと食べ終え、気持ちが落ち着いた文乃は店内を見回す。


先程までいた人達はもういない、貸し切り状態のお店に、一人身を置く。


店内にはゲームコーナーがあり、お惣菜を売っている古びた自販機もある。

一つ一つ眺めながら、記憶に残していく。


それからひとときの時間をのんびりと過ごした文乃は、満足気に店を後にする。


文乃「さっきの山の、自然の風情とはまったく違うね...。でも、ここは人の歴史が作り出した大切な風情。どっちが良いなんて言えない。どっちも大好きだなぁ♪」


文乃はしみじみと感じ入り、バイクに跨る。


文乃「さあ、もう帰る気ゼロ!街を一回りしたら、快活いくかな♪刃牙読みたい..!あ!さっきマップでみたクレープ屋さんにも行ってみよ!おいしそうだったぁ〜♪」


残り時間、街を流すことを決め文乃は走り出した。

光と影のコントラストが美しい...。夕方に近い、少し黄昏色を帯びた街をバイクでゆったりと流してゆく。


赤みのある日差しが幻想的に街を照らしている。

一条の白いバイクが街の影を切り裂きながら駆けてゆく。


自身のやりたかったことを一つ叶え、文乃は満ち足りた気持ちで未だ知らぬ街へと消えて行く...。

かねてよりの一つの願望を達成した文乃。

これからもまた、やりたい事、素晴らしいと思える事を、一つ一つ叶えていくのだろう。

この何でもない旅も文乃にとっては、連綿と続いて行く未来の糧となっていくのだ...。

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