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12/22

12. ❶ 私のプチ旅・前編・向かうは四国

仕事を退職し、たまには持て余し気味の休日を楽しもうと、文乃はプチツーリング旅行に出かける。

趣深い、レトロ自販機を求めて....。


「ふぅ、準備よし!っと。」

ある日の夕方、文乃はバイクにツーリングバッグを装着し、荷物を詰め込む。


文乃「これ終わったらツーリングキャンプも行きたいな〜。熊本帰ったら行きたいなぁ〜♪最後に行ったのは去年の秋やったっけか?」


明日は四国へ向けて、ロングツーリングを行う。

久方ぶりの遠征に文乃は、心を躍らせながら支度する。


文乃「財布よし!荷物よし!空気圧よし!タイヤ状態よし!オイル交換よし!燃料よし!ETCカードよし!ヘッドセットよし!スペアもよし!充電ケーブルよし!えー、あ♪交通安全御守りよしっ!..そして...、バッグの固定...、よし!!おーーるよーーし!!」


...


全ての準備は整った。

今回は道中にしまなみ海道を通る、高速道路を走行する以上、バイクトラブルは大事故を招きかねない、自身のできる範囲ではあるが、安全チェックを行う。

海を渡る橋の上は、突風烈風吹き荒ぶ危険ゾーンだ。

軽い250cc程度では揺さぶられることもあるだろう。

安全意識にも万全に万全を重ねて臨まなければならない。


文乃「景色は楽しみだけど、やっぱ怖いのはあるよねー。絶対無事で抜けるぞ!私の守護神達、協力してね!」


明日装着するアーマーとヘルメットをバイクに乗せ、両手を合わせ拝む。

もしも何かあった場合、最後の砦となるのがこの装備品達だ。

何年もの間文乃を包み込み、無事に目的地まで共にたどり着いている。

もちろん本来の用途として出番が無いに越した事はない。

ある意味無事故お守りのような意味合いもある。


翌日は早朝から出立することになる。


その夜は簡単に締めの時間を過ごすと、早々に就寝につき翌朝に備えた。


......

......


翌早朝、まだ真っ暗な中、文乃はバイクに跨っている。


キュルルルルルルッ!

ドルゥンッ!!ドッドッドッドッドッドッドッドッドッ!


朝の冷たく暗い空気をバイクのヘッドライトが切り裂く。

ピリッと澄んだ朝の空気は、身を引き締め、これから始まる旅への思いを昂らせていく。


ブゥン、ブォォォォ.....、


ゆっくりと動き出す。

暗闇の中を文乃のバイクが一条の光となりながら、切り裂き進む。


文乃の住む集落は、未だ眠りに包まれている、あまり大きな音は出したく無い。

文乃は回転数を抑えながら集落を出ると、徐々にスロットルを上げ、速度に乗る。


冷たい風が体をすり抜けてゆく。


春の余韻を残し夏が近づく季節だが、朝の空気は未だ冷気を湛えている。


世界の空気を全身で感じ取りながら、文乃は移り変わる季節の名残を楽しむ。


文乃「まるで秋みたいな空気ね。すごく好き。身も心も引き締まるこの独特の空気感。言葉には出来ない、このピリッとした引き締まった世界。たまらない。」


今この瞬間を噛み締めながら山間の道路を駆け抜けてゆく。

山の稜線沿いを、仄かな光が縁取り始める。

日の出は近い。


文乃「この感じなら、海沿いで朝日を眺めながら走れるわね。一度くらいやりたかった私の願望、ようやく叶うね...。」


一般道から山陽高速道路へと乗り込み加速する。


さあ、ここからは緊張感あるライディングが始まるぞ。

文乃は注意深く周囲にアンテナを張りながら、距離を稼いでゆく。


高速伝いに尾道を抜け、向島、因島を通り、生口島へと達する。太陽はキラキラと輝きながら、海を、山を、島を、光で塗し、宝石のように輝かせる。黄金色に煌めく世界がまるで、文乃を祝福してくれているようでうっすらと涙が出てくる。


文乃「うう〜、おひさま綺麗だよ〜。大御神様〜感謝いたします〜。」


文乃は太陽に心で拝みながら走る。


それから大三島、伯方島、大島と走り抜けてゆく。


途中橋の上、激しい烈風に煽られ大きく車体を揺らされる事があったが、それはもちろん想定の内だ。

文乃が気をつけなけれぱならないのは、むしろこの先。

大島から、四国は今治市へと繋がる最後の橋、

来島海峡第二大橋だ。


ここはこれまでの橋とはものが違う。

文字通り橋に乗った瞬間から空気が変わるのだ。

大きな海の上を覆う空気の流れは、島を取り巻く空気とは全く別物で、迂闊な気分で突っ込んでゆくと吹き飛ぶ可能性すらある。


が、文乃はそこまでの想定は出来ていなかった...。


そして....、


ドオォーーーーンッ!!!!!


文乃「きゃぁぁぁぁぁぁああああっっ!!」


案の定、文乃は空気の壁にぶち当たる。


文乃「何なに?!今の!ヤバっ!死ぬか思うたっ!!手離れんでよかったよぉぉぉ〜〜!!」


文乃はいきなり自身を襲った空気の壁に戦慄し、今度は恐怖による涙目となって走っていた。


先ほどまでと打って変わり、もはや朝日や景色を楽しむどころではなく這々の態となり、来島海峡サービスエリアへとやっとの思いで辿り着く...。


文乃「ぐはぁぁぁぁ....、つ、着いた....。」

文乃は地面に手を着き、四つん這いとなって生きている実感を噛み締めていた...。


文乃「あ゛ーー、初手からエグいの貰ったわ〜...。MP一気に吹き飛んだよぉ...。」


放心状態となった文乃はデッキの椅子に座り、登ってゆく太陽をしばしの間、ぼんやりと眺めていた...。


...

....

.....!


文乃「そうだ!こうしてる場合じゃなかったわ!ツーリングの途中だった!!」


文乃はようやく精神レベルが正常値まで戻ったのか、思い出したように飛び上がる。


文乃「さっきはえらい目にあったけど、こっから先はもう大丈夫なはず!出発しなきゃ!」


文乃は再びバイクに跨ると、走り出した。

ブゥゥゥゥゥゥゥンー.....


それから朝の市街地を走り抜ける。

時間帯のおかげか車はまばらで、順調に距離を稼ぐことができ、山間部エリアへと入ってゆく。


....


峠を駆けていく白のロングスクーター。


太陽もすっかりと登り、天気快晴、新緑は萌え、若々しい緑が目に眩しくも優しい。


...明日は仕事ではない。

昨日もだ。

そして、明後日、明々後日も、仕事ではない。


私は自由だっ!


もちろん漠然とした未来に対しての、妙な不安感はある。

だが、文乃はそれを上回る自由な気分に満たされている。


文乃「G`sマップではまだ結構な距離があったよね。順調に着けばいいな。」



今回向かっているレトロ自販機には、うどんそばだけではなく、なんと!希少種の、ホットサンドがあるみたい!

...まぁ味は...

実際の所はそれほどでもないのかもしれないけど、実にロマンがあるのよねー。


あの歴戦の自動販売機にコインを入れる瞬間のワクワク♪

おっきなボタンをパチンと押す行動と感触!

シャカシャカ踊る、うどんやそばの容器を想像したり、

どこか懐かしい音に耳を傾けたり、

中であっつ熱に加熱された容器を取り出したり。


この行動全てがたまらない。


昔は普通にいろんなところにあったらしいんだけど、私が子供の頃には覚えがないから、もうとっくになかったんだろうね〜、

どこか懐かしくて、なんだか嬉しい気持ちにさせるレトロ自販機、旅の目的地としては一級品なのよ〜♪


※全て一個人の感想であり、感覚には個人差がありますので保証、責任は取りません。


...などと、一人脳内プレゼンを行いながら、良き景色、良き空気を楽しみつつ、距離を稼いでゆく。


...


道中、山の中に古のドライブインを発見し、文乃は昼食を取ることにした。


文乃「ふーむふむふむ♪なかなか趣のあふれる良い佇まいですね♡気に入った!」


レアリティの高いお店っぷりに期待を高め、独り言を呟きながら、文乃は暖簾をくぐる。


外から感じる雰囲気通りに、店内は古めかしくもこざっぱりとした、いかにも昭和なドライブインであった。

出迎えてくれるおばあさんも、明るくて、あったかい。


文乃「良いわぁ♪この何だか田舎のおばあちゃんちにいるような、ゆったりとした空気♪そして、あのおでん♪こっちまで良い匂いが漂ってくる〜♪」


うっきうきで席に座り、うどんとジャンボいなり寿司を頼み、おでんを取りにいく。ここはおでんを自分で直接選んで取るスタイルのようだ。


文乃「こういう雰囲気、おばあちゃんちに行く途中のお昼ご飯思い出すなぁ。あの時も、どこか山の中にあるドライブインだったなぁ。」


子供の頃を思い出しながら、おでんを取り、そして席に戻る。よく味が染み込んでいそうなこんにゃく、玉子、厚揚げだ。


文乃「いただきまーす♪パクッ。...ふむ、ここのおでんは甘い味つけなのね?味が良く染みてますわぁ。」


おでんに舌鼓を打っていると、うどんとジャンボいなりが到着し、実食。


文乃「うん、うん♪、じつに普通。外連味の無い原寸大の味だね。だがそれが良い♪実においしい♪」


店の雰囲気と、優しいご飯に舌鼓をうちつつ、穏やかでのんびりとした時間を楽しむ。

なんとも幸せな時間だ。


......


文乃「ふう、美味しかった♪ごちそうさま♪」


...食事を終えた文乃は、少しうとうととしながら、空気に同調するようにゆったりとくつろぐ。


食べ終えてしばし。

特に何をするでもなく店内をぼんやりと眺めている。


文乃「気持ちいいな...、実家に帰ればこんな感じの空気感が普通になるのかな...。」


文乃「てか、実家というよりむしろおばあちゃんちに居るみたい。この雰囲気、残したい昭和遺産だわ。」


昭和時代の良い所、とでもいうのか、これから先、田舎のおばあちゃんという形は一気に変わってゆくのだろう。

こういう昔ながらのふるさとの形というものはやはり無くなってゆくのだろうか...。

文乃は漠然と未来について考える...。


文乃「しっかし、この独特の空気に触れてると、私のこれまでってなんてピリついた刺々しいものだったんだろうって、比べちゃうなぁ。」


食事を終えひと時の安らぎを得た文乃は、支払いと挨拶を済ませバイクに跨る。


文乃「無くしたくないね、この安らげる空間。」


少しずつ変わりゆく現実に思いを馳せながら、文乃は再び目的地へと、バイクを走らせる。

食堂のふるさと成分を補給して元気になった文乃は、再び目的地へと向かう。

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