1. この視点の現実
一人の女性が歩いている、いわゆるオフィスレディだ。
彼女の名前は、五ヶ瀬文乃
清々しい空気の中、文乃は悪態をつきながら歩いていた...。
清々しく晴れ渡った空。
可愛らしく囀る小鳥達。
爽やかな空気を運ぶ風。
その自然の優しい贈り物のどれもが、ただただ憎らしいとさえ思えている、私。
「なんでこんなに天気がいいのか....。」
そう悪態つくのは、胸元に書類を抱えた会社員の女性。
「この休みも雨だったっつーの!私の休みを返せー!」
連日の仕事のハードさや、人付き合いで神経をすり減らしている中、休日でさえも、せめてもの趣味のアウトドアで発散出来ず、加えて仕事日に限って快晴。かなり鬱憤が溜まっているようだ。
「毎度毎度朝っからぁ!思いつきで仕事増やすなよなぁ、○呆社長!段取り全部パーじゃない、もう!!」
「まぁ....いつものことだけど!サービス残業もいつものことだけどっ!!」
ここ最近は朝からいつも、だいたいこの調子である。
彼女の勤めている会社は特殊性の高いニッチな商品を生産しており、小売りはしていないが海外需要が高く、今は繁忙期ともあり、ほぼ連日の早朝出勤+残業となっていた。
「はあ...、もう続けたくないよ...。」
今度ばかりは、心が折れかけていた。
この仕事をやり始めた新人時代。
その時代は先代社長の管理であった。
確かに昔から仕事そのものは大変だった。
しかし、今とは違う大変さというか、仕事に対して愛着、やりがいを感じていたと思う。
...いつからだろうか。
朝起きるたびにその日に不安を募らせ、忙しさに身をすり減らし、楽しむべき時間さえ、得体の知れない暗い感情が常に内包する。
「はぁ〜、連休もまともにとれないし、仕事も楽しくない。もう辞めちゃいたい...」
この1〜2年はずっとこんな感じだった。
仕事を辞めればこの暮らしから解放されるのだろうか?
その後の暮らしは?仕事は?果たして、まともに生活はたっていくのか?...私の責任は?
いろんな不安や感情、思いが巡って、踏み出すことが出来ず燻り続けていた。
「まぁ...、やるしかないのよねぇ...。」
そうぼやきながら、沢山の書類と仕事に包まれて、彼女は今日も仕事に打ち込む。
文乃の中には、もはや熱意ややりがいというものはとうに無く、ただただ社会の一員として組み込まれた、ふわっとした責任感というもので動いているだけだった。
自分に言い聞かせながら、自分がやらなければと奮起しながらも仕事を続けていく。
仕事だから仕方ない。
まだまだやれると、どうにか踏みとどまっている文乃だが...。