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悪役令嬢(仮)の裏稼業 〜断罪回避のため、こっそり情報屋はじめました〜

作者: はるのあめ

はるのあめと申します。

悪役令嬢に転生したことに気が付き必死なヒロインをお楽しみください。

「イザベラ・フォン・ヴェルミット公爵令嬢! 君の悪行、断じて許すわけにはいかない!」


……なんて台詞を、卒業記念パーティーの場で、キラキラ輝く王太子殿下に突きつけられる未来。それが、この私、イザベラに用意された運命らしい。そう、気づいてしまったのは、先日の夜会で階段から盛大に転げ落ち、頭を打った瞬間だった。


(痛っ……て、あれ? この状況、この顔ぶれ……まさか!)


甦ったのは、前世で私がどハマりしていた乙女ゲーム『星降る夜のロマンス』の記憶。そして、自分がそのゲームで、ヒロインをいじめ抜き、最終的に断罪される悪役令嬢イザベラに転生してしまっているという、絶望的な事実だった 。


(嘘でしょ!? あのバッドエンドしかない悪役令嬢に!? 冗談じゃないわ! 公爵家から追放されて、平民落ちか修道院行きなんて絶対に嫌!)


ゲームのイザベラは、王太子殿下の婚約者という立場を笠に着て、平民上がりのヒロイン、リリアに嫌がらせの限りを尽くす典型的な悪役。プライドが高くて、わがままで、頭は……正直、あまり良くない設定だったはず。


(でも、今の私には前世の記憶がある! ゲームの知識もある! このまま黙って断罪されるなんて、絶対に回避してみせる!)


問題は、どうやって回避するか、だ。ゲームの強制力というものが働くなら、私がいくら大人しくしていても、些細なことで悪役に仕立て上げられる可能性がある 。ならば、先手を打つしかない。情報を制する者が、ゲーム(人生)を制するのだ!


(そうだわ! 前世で培った情報収集能力と分析力……それに、この世界の貴族社会の知識、そしてほんの少しだけ使えるようになった、気配を探る程度のささやかな魔力 を活かせば……!)


決意した私は、公爵令嬢としての表の顔とは別に、裏の顔を持つことにした。王都の裏情報に通じる情報屋――コードネームは『影猫かげねこ』。黒猫のようにしなやかに、影のように密やかに情報を集め、届ける。それが私の断罪回避プランの第一歩だった。



「それで、『影猫』。例の横領疑惑の件、証拠は掴めたのか?」


王都の片隅にある、古びたカフェの個室。私は変装用の地味なドレスと、顔を隠すための深いフード付きケープをまとい、依頼人と向き合っていた。声も、普段より少し低く変えている。目の前の男性は、鋭い銀縁眼鏡の奥から、私を値踏みするように見つめてくる。


クラウス・フォン・ベルンシュタイン。宰相閣下の右腕と名高い、若き宰相補佐官。そして……ゲーム『星降る夜のロマンス』の攻略対象者の一人。冷徹で仕事の鬼、他人に興味を示さない鉄仮面、というのがゲームでの彼の評判だった。


(うわぁ、本物だ……。ゲームのスチルより迫力ある……。って、いけないいけない、今は『影猫』なんだから)


「ええ。ベルンシュタイン様。ご依頼の件、確たる証拠を押さえましたわ。こちらが報告書と、証拠品の写しです」


私は、前世の知識――経理の知識や、人の行動パターン分析――をフル活用し、さらに気配を探る魔法で関係者の動きを探り、見事に横領の証拠を掴んでいた。我ながら完璧な仕事ぶりだ。


クラウス様は無言で書類を受け取り、鋭い目で内容を確認していく。部屋には紙をめくる音だけが響く。緊張の一瞬だ。


「……見事なものだな、『影猫』。噂には聞いていたが、これほどとは」


ややあって、彼が顔を上げた。その表情は相変わらず読めないけれど、声には僅かな感嘆の色が滲んでいる気がした。


「貴女はいったい何者だ? これだけの情報を、どうやって……」

「情報屋の素性をお尋ねになるのは、無粋というものですわ、ベルンシュタイン様。私はただ、依頼を遂行するのみ。対価さえいただければ」


私は用意していた定型句で返す。正体がバレたら、それこそ断罪フラグが立ちかねない。


「……ふん。まあいいだろう。報酬は約束通り支払う。だが、一つ聞きたい。君は、なぜこのような仕事をしている?」

「さあ……。人助け、とでも申しておきましょうか。困っている方の、影の助けになるために」


(本当は自分の断罪回避のためだけど!)


内心で叫びつつ、私はあくまでミステリアスな情報屋を演じきる。クラウス様は、何か言いたげに私をじっと見つめていたが、やがて諦めたように息をついた。


「……分かった。また、依頼することがあるかもしれん。その時は頼むぞ、『影猫』」

「ええ、いつでも。それでは、これで失礼いたします」


私は一礼し、足早にカフェを後にした。


(ふぅ……、緊張したぁ! でも、うまくいったわ! これで活動資金も得られたし、何より、宰相補佐官クラウス・ベルンシュタインに貸しを作れたのは大きい!)


彼はゲームでは、ルートによっては断罪イベントで重要な役割を担う人物だ。彼に恩を売っておけば、いざという時に助けになるかもしれない。



それからというもの、私は公爵令嬢イザベラとしての表の顔と、情報屋『影猫』としての裏の顔を使い分ける日々を送っていた。昼はお茶会や夜会に参加し、ヒロインのリリアや王太子殿下、他の攻略対象者たちとの関係に気を配りつつ、ゲームのフラグが立たないように細心の注意を払う 。


(リリアさん、今日も可愛いけど、ちょっとドジが過ぎるわね……。あ、王太子殿下、また彼女にデレデレしてる。ゲーム通りだわ。でも、私に敵意は向けてこない。よしよし)


夜になると、私は『影猫』に変身する。依頼は様々だ。貴族の浮気調査、商会の不正の証拠集め、行方不明のペット探しまで。前世の知識と、貴族社会で培った観察眼、そして気配を探る魔法は、思った以上にこの裏稼業で役立った 。


そして、私の最大の顧客となったのが、あのクラウス・ベルンシュタイン様だった。彼は次々と厄介な依頼を持ち込んできた。政敵の陰謀の調査、密輸ルートの解明、隣国の不穏な動きの察知……。どれもこれも、一介の情報屋には荷が重すぎるものばかり。


(この人、私を何だと思ってるの!? でも、断れない……! 彼からの依頼は、ゲームのシナリオに関わる重要な情報が多いんだもの!)


私は必死で依頼をこなした。時には危険な場所に潜入しかけたり、怪しい人物と接触したり。そのたびに、クラウス様は私の身を案じるような言葉をかけるようになった。


「『影猫』、今回の依頼は危険が伴う。くれぐれも深入りはするな」

「……ベルンシュタイン様こそ、ご無理なさらないでください。最近、顔色が優れませんわ」

「君に心配されるとはな……。だが、これは私の仕事だ」


鉄仮面だと思っていた彼の、ふとした瞬間に見せる人間らしい表情や、仕事に対する真摯な姿勢に、私はいつしか惹かれ始めていた。


(ダメよ、イザベラ! 彼は攻略対象者なのよ? 私が関わったら、どんなフラグが立つか分からない!)


けれど、情報屋『影猫』として彼と接する時間は、悪役令嬢としての息苦しい日常から解放される、唯一の時間でもあった。彼の信頼を得ているという事実が、私の支えになっていた。


そんなある日、王宮で大きな夜会が開かれることになった。ゲームでは、この夜会でイザベラがヒロインに対して決定的な嫌がらせを行い、断罪への道が確定するはずだった。


(絶対に避けなければ……! でも、どうやって? 下手に動けば、逆に怪しまれる……)


悩む私の元に、『影猫』宛ての緊急依頼が舞い込んだ。差出人は、クラウス様。


「『影猫』、至急頼みたいことがある。今夜の夜会で、ある人物が国家機密を他国に漏洩しようとしている疑いがある。証拠を掴み、阻止してほしい。失敗すれば、我が国は大きな危機に陥る。頼れるのは、君だけだ」


(国家機密の漏洩!? しかも、今夜の夜会で!? これって、ゲームにはなかった展開じゃ……?)


これは、私が介入したことによる、予期せぬ変化なのかもしれない。けれど、断るわけにはいかない。クラウス様のためにも、そして、この国のためにも。


「承知いたしました。必ずや、ご期待に応えてみせますわ」


私は『影猫』として、最大の仕事に取り掛かることを決意した。



夜会当日。私は公爵令嬢イザベラとして、煌びやかなドレスを身にまとい、会場にいた。内心は、情報屋『影猫』としての任務のことで頭がいっぱいだ。


(ターゲットは……あの侯爵ね。動き出したわ。侍女に化けて後を追わないと……!)


私は体調不良を装ってそっと会場を抜け出し、人気のない廊下で素早く侍女服に着替え、ケープで顔を隠す。気配を探る魔法を最大限に活用し、ターゲットの侯爵を追跡する。


(書庫室に向かっている……。あそこで密会するつもりね!)


息を潜めて書庫室に近づくと、中から話し声が聞こえる。侯爵と、見知らぬ男の声。他国の密偵だ。


「……これが例の設計図だ。確かに受け取ったぞ」

「ふふ、これで我が国の優位は揺るぎないものとなる……」


(間違いない! 今よ!)


私は懐から、前世の知識を応用して作った、小さな閃光玉を取り出す。扉の隙間からそれを投げ込み、目を眩ませた隙に、設計図を奪い取る!


「な、何者だ!?」

「くそっ、逃がすな!」


混乱する二人を尻目に、私は素早く書庫室を脱出する。廊下を駆け抜け、物陰で侍女服からドレスに再び着替える。


(間に合った……! あとは、これをクラウス様に……)


息を切らせて会場に戻ると、ちょうどクラウス様が私を探しているところだった。


「イザベラ嬢、どこに行っていた? 顔色が悪いようだが」

「い、いえ、少し気分が悪くて……。もう大丈夫ですわ」


彼の鋭い視線が、私の乱れた髪や、僅かにドレスについた埃を捉えている気がして、心臓が早鐘を打つ。


(まさか、気づかれて……?)


その時、会場に兵士たちが駆け込んできた。


「反逆者を発見! 書庫室にて、国家機密漏洩の現行犯で侯爵を逮捕した!」


会場が騒然となる中、クラウス様が冷静に指示を出す。


「証拠物件は確保したか?」

「はっ! 何者かによって持ち去られた後でしたが、先ほど、匿名の協力者より宰相閣下の元へ届けられました!」


クラウス様の視線が、再び私に向けられる。その瞳には、確信に近い疑念の色が浮かんでいた。


(……やっぱり、バレてる?)


夜会が終わった後、私はクラウス様に呼び出された。人気のないテラスで、二人きり。月明かりが、彼の銀縁眼鏡を冷たく光らせる。


「イザベラ嬢。……いや、『影猫』と呼ぶべきかな?」


彼の静かな声が、夜の静寂に響く。


(ああ、もう、隠し通せないわね……)


私は観念して、深くため息をついた。そして、ゆっくりとフードを取る。


「……いつから、お気づきでしたの?」

「確信したのは、今夜だ。だが、疑念は前からあった。君の情報収集能力、分析力、そして時折見せる、公爵令嬢らしからぬ度胸……。何より、君が『影猫』として見せる優しさと、君が令嬢として見せる寂しそうな瞳が、どこか重なって見えた」


彼は私のすぐそばまで歩み寄り、私の目を見つめる。


「教えてくれないか、イザベラ嬢。君は一体、何者なんだ?」


彼の真剣な眼差しに、私はもう嘘をつけなかった。私は、自分が転生者であること、悪役令嬢としての運命、そして断罪を回避するために『影猫』として活動していたことを、全て打ち明けた 。


話し終えると、長い沈黙が訪れた。


(軽蔑されたかしら……。気味悪がられたかも……)


不安に俯く私の顎を、彼がそっと持ち上げた。


「……そうか。君は、そんな途方もない運命と戦っていたのか」


彼の声には、驚きと共に、深い労りの響きがあった。


「悪役令嬢? 断罪? 馬鹿馬鹿しい。君は、私が知る限り、最も聡明で、勇敢で、そして……魅力的な女性だ、『影猫』……いや、イザベラ嬢」


(え……?)


「君が『影猫』だと知って、正直驚いた。だが、それ以上に、納得もした。君ほどの女性なら、それくらいのことをやってのけても不思議ではない」

彼は、ふっと、初めて見るような柔らかい笑みを浮かべた。

「これからは、一人で抱え込むな。私も、君の『裏稼業』の協力者になろう。いや、むしろ……君専属の依頼人、というのはどうかな?」


(協力者……? 専属の依頼人……?)


予想外の申し出に、私は目を瞬かせる。


「君の知識と能力は、この国にとって必要だ。そして……私にとっても」


彼の言葉は、私の心に温かく染み渡った。悪役令嬢としての孤独な戦いは、終わったのかもしれない。



こうして、私の悪役令嬢(仮)としての裏稼業は、思いがけない協力者を得て、新たな局面を迎えることになった。断罪エンドは、どうやら回避できた……みたい?


クラウス様は、表では冷徹な宰相補佐官、裏では『影猫』の最重要クライアント兼パートナーとして、私の秘密の活動を支えてくれるようになった。


「今日の依頼は、隣国の王子が隠し持っている『秘伝のレシピ』の入手だ。頼んだぞ、『影猫』」

「もう、クラウス様ったら、人使いが荒いですわ! でも、お任せくださいな!」


(ゲームのシナリオは変わってしまったけれど、こっちの方がずっと面白いかも!)


冷徹なはずの宰相補佐様と、秘密を共有しながら国のために(そして自分のために)暗躍する日々。悪役令嬢の二重生活は、まだまだ続きそうだ。そして、このドキドキする関係の先に、どんな未来が待っているのか……それは、まだ誰にも分からない。でも、きっと、バッドエンドなんかじゃない。そんな気がしていた。

最後までお付き合いくださり感謝申し上げます。皆さまのご感想や「ここが好き!」のお声が作者の活力です。

影猫イザベラの次なる暗躍が気になったら、ぜひ評価やレビューで応援していただけると嬉しいです。

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